マナ

鳩鳥九

第1話

そうだね、そうだ。

どう頑張って言葉を紡いだって、もうそれだけで綺麗が減り潰される。

ぼくのことなんか、手を引っ張ってくれなきゃ良かったのに、

ぼろぼろ、崩れていくことが気持ちよくて、塞がって、

でも確かに空は青くて、キャンプ場に遊んでいたら無くしたフリスビーみたいな恋だった。

投げて、飛んで、すごいねって、そう叫んだんだ。そしたら無くしちゃって、忘れてた。

歩いたり走ったり、物心付いた時から一緒だったね。

君の細やかな髪の毛の形にばかり目が取られていった。

恋だったんだ。恋で良かったんだろうなぁ……びっくりした。だって、びっくりしたんだ。

あんなに面白くって、苦しくって、山の中に続く可愛い茶色の道からずっと、

別れた広場でいつもの5人で、鬼ごっこして、

毎年毎年、そう、それは小学校を卒業するころまでだったね。

親の都合でもう、キミとは会えなくなって、

そうだよね。儚くってすぐに消えてしまって、もっと正直に、素直になればって、

後悔して後悔して、悔やみきれなくなって、空から足元が真っ二つに割れちゃうんだ。

ガラス玉みたいな景色がすっごく憎たらしくて、海水浴も、スキー場も、

閉じ込められた箱庭の中の、小さな子供が、お花を摘んだり追いかけっこしたり、

いつのまにか凄い時間が経ってしまって、キミは……

ボクがこんなにも、燃える黒い夜の道で、金切り声を上げながら、

天高く飛び上がった弓矢の雨に打たれているのだって、きっと知らないんだ。

もっともっと色々な風景を見たかった。同じ学校に通いたかった。

同じ帰り道に、キミと一緒に居たかった。もう少しだけ手を繋いでいたかったんだ。

言えない癒えない、いえてたまるか、電話がつながらないから、

マナ、

ボクはキミに内緒で火に焼かれる。

首を持たれかけて、天井を見上げる。

何年も何年も前の、だけどいつでも思い出せるあの炎

またいつかあったときに、こんなにもボクは、めらめらとした現実に耐えたんだよって、

だから、褒めてほしいなって、ちゃんと泣いて近くにいて、それで……、……

嗚呼どうだろう、どうなんだろうか、届かないんだもう、会うことが無いんだ。

キミは今ずっと街の方にいるんだ。都会、人込みと電車と蒸れるような夏を、

別の人と共有してるんだって、それをボクには教えてくれないんだ。

だからね、げろげろ、沢山の沢山の汚い土砂崩れを作って、

その山の上に立つんだ。見えないね。聞こえないでしょ、

そう、これはボクの独りよがり、自己満足、

キミの気紛れに人生そのものをかき回されたボクの、

届かなかったラブレターの山、廃棄物でできたターミナル

そこにのけぞって、遠い遠いそこからは見えない、届かない電波の城

ぐらぐらと揺れて何回も崩れてもまた作り直す思い出の、呪いの、自傷行為の塔

管理塔、戒めの管理塔だ、とうとう、問う、遠…、……

重いなぁあ、熱いなぁあ、汚いよなぁあ、

そりゃあもう、どうしょうもないんだって、

傷つき方は選べても、汲まれることのない籠城戦

終わらないでいいなら負けないけれど、だってもう、上げられる白旗だってありゃしない。

これは誇りだ。この失恋はボクの誇りだ。

きっと、大切にすることしかできないんだろうなぁ、マナ、

一生懸命刻み付けて、それで、でも、傷跡が残るのはボクばっかりで、

キミは恋に恋をしているだけで、世界の事なんて見ちゃいなかった。

自分のことだけを考えているキミは綺麗で、

その片手間で冴えないボクの中にずっといた癖に、居た癖に、

ありゃありゃ、そうだ。もし今キミと再会なんかしてしまったら、

ボクはあの時と同じように、キミを小学生のように扱ってしまうんだ。

依存したり、期待したり、甘やかしたり、見返りなんか求めてしまうんだろうなぁ

求めてもいいのかな、いいや、それはやっぱりもしもの話で、

そういう思い出が、とっても心を抉りそのまま飲み込んでしまうから、

何年も何年も、キミの夢を見て、涙を流すんだ。

もっと早くに特攻でもして、血の雨を降らせばよかった。

さっさと朽ちて、ちゃんと負けて、納得したかった。

キミが奪ったのはボクの心だけじゃなくて、

納得する権利なんだ。そうだ。そうだよ。

覚えてるって、言ってくれたのに、

じゃあ宣言する。宣戦布告だ。

ボクはキミに負け続ける。

きっと今週末くらいに、キミはボクの夢の中に出て来て、

酷いことを言う。酷い映像を見せてふっと消える。

期待させておいて、手が触れた瞬間に、また消える。笑顔で、

蝉の声を残して消える。白い吐息を残して消える。頬に触れて消える。

どうせそうなんだ。

キミの知らないところで、ボクはキミの残響に今日も、頭を垂れて負け続けるんだ。

ゴミの山が積み上がり、特大の白旗を上げるけど、

もうそれは焦げて、孔が空いて、東京からは見えなくなっちゃっているんだ。

知らない間に勝っちゃうキミは、それこそ、わからないまま生きて、生きて、生きて、

この感情こそが、ボクの誇りにしても許してくれますか?


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マナ 鳩鳥九 @hattotorikku

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