第3話

「ーーーこのグラフの通り、我が社の売上は前年比30%のアップとなっております。」

「従業員一丸となって、非常によく頑張ってくれました。」

「我が社の将来は安泰ですな、社長。」


明るい声を挙げる役員達。しかし社長だけは厳しい表情を崩さない。


「我が者の業績が好調なのはよく分かった。しかしライバル企業の売上も大きく上がっている。これはどういうことだ?我が社がこれだけ売上を伸ばしたというのに、他社との差が全然開いていないじゃないか!」


会議室は一瞬で静まりかえる。空調の音が虚しく響く。役員の1人が、恐る恐る答える。


「我が社の売上がこれだけ伸びた最大の理由は、充電式人間です。彼らは常に高いパフォーマンスを発揮してくれました。しかし、他社も同様に充電式人間を雇用しています。これではなかなかに、差をつけることは難しいのです。」

「なるほど、そういうことか。」

「他社との差をつけることは難しいですが、この国の経済全体、という目線で見れば確実に成長しています。国全体が豊かになっているのです。」

「う〜ん...。」


社長は腕を組み、考え込んだ。国全体の成長は非常に喜ばしいことではある。しかし、どうにかして我が社だけが1人勝ち出来る方法はないだろうか。非常に悩ましい。答えは出ない。そんな折、社長の頭にひとつの疑問が浮かんだ。


「ところで充電式人間というのは、どうやって充電しているんだ?」

「ああ、社長はご存知ありませんでしたね。彼らのちょうど腰の辺りに差込み口があるのですが、それを充電器に繋ぐのです。」

「電源はどうなっている?」

「普通のコンセントと繋ぐだけです。携帯電話の充電とほとんど同じですね。睡眠時間に充電するのが一般的です。」

「なるほど...。」


社長は黙り込む。それに倣う様に、役員達も口をつぐむ。


「ん?そうか!そういうことか!」

「社長、いかがなされました?」

「分かったぞ、他社との差をつける方法が!」

「なんと!」

「本当ですか!」

「して、その方法とは?」

「簡単なことだよ。ーーー充電器を繋げっぱなしにするんだ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る