第7話 vsオーク

side シオン


「どりゃあーーー!!」


間延びした咆哮と共に振り下ろされる大戦斧グランドアックス

ドワーフ族の剛力を十全に生かす一撃は、オークの頑強な皮膚であっても耐えられない。

肩から袈裟斬りにされて、真っ二つだ。


脚を穿たれたオークを一瞬で沈黙させるともう一匹に獲物を振るう。

とはいえ流石に不意打ちではないため容易く倒れない。

それどころか、その太い腕を鳴らしてメナフォスを叩き潰さんばかりだ。


だけど、それを邪魔するのが僕の役割だ。


「お前の相手はこっちだよ―――っと。」


槍を振るい、オークの脚を狙う。

とはいえ、頑強な皮膚を破る事は難しい。

ましてや非力な人間族では尚の殊更だ。


表皮を薄く斬り裂いただけに留まり、大したダメージを与えられていないのは明白だ。

だけどオークの注目を引き付ける事は出来た。


「よし、アルフォス。頼むぞ!」


「ああ、分かってるさ。【大地に満ちる精霊よ―――】!」


僕の戦いぶりを見たベルがアルフォスに指示を出す。

そしてその指示を受けたアルフォスは『詠唱』を始めて『魔術』の構成を始める。

文言からして地属性、状況から推察するに砲撃キャノン系。


地属性の砲撃となれば岩塊を高速でぶつける《ストーンキャノン》か。

刃物の通りが悪くても質量による圧殺は有効なはずだ。

しかし砲撃キャノン系にもなればそこそこ詠唱時間がかかるはずだぜ……。


「取り合えず、時間稼ぎか―――っと!」


オークが我武者羅に振るう棍棒をいなす。

ゴブリンとは違い、圧倒的な破壊力を秘めている。

しかし動きは鈍間でただの馬鹿力でしかない。


運よくこれ以上の攻撃をくらい、見てきた経験が生きた気がする。

余りいい記憶ではないが軍団長の言う通り無駄ではなかったのだ。

とはいえ反撃をしても表皮を斬り裂くだけに留まり、致命傷は与えられない。


だからといって大振りな一撃を放つような真似はしない。

僕の膂力じゃあオークの肉体を斬り裂くも貫くのも中途半端にしかできない。

得物を自由に振るえず隙を晒して死ぬなんて真似は嫌だからな。


「シオン、こっちは準備完了だ!」


「分かった、頼むぞ!」


アルフォスの声がすると同時に横へ転がる。

防御も攻撃もかなぐり捨てた無茶苦茶な行動だが、仕方が無い。


さっきまで僕のいた場所を通過し、オークの頭を吹き飛ばす岩塊を見れば誰だってそう思うだろう。

下手な刀剣だと逆に刃毀れする位には硬いんだけどな、こいつらの頭蓋。


「おいおい、ビビり過ぎじゃないか? 其処まで拡散するような『魔術』じゃないのは分かっていただろ?」


「分かっていても怖い物は怖いんだよ……。」


アルフォスがにやけ面で僕を揶揄う。

それにしてもムカつく表情だ。

何時かコイツにも僕と同じ体験をさせてやる。


「んがー! あんちゃんもシオンも遊んでないで早く助けてー!」


「むぅ……矢の通りが悪いか。間接に当てても動きが止まる気配がない!」


僕が密かに復讐を決めていると残りの二人からヘルプコールが飛んで来た。


どうやらオークに苦戦しているようだ。

まあ、メナフォスの大戦斧での大振りでなきゃオークを倒せない。

でも大振りなんて隙が生まれるし、知恵の回らないオークでもそんな隙を突く位はしてくるみたいだ。


「ああ、分かった! アルフォス。もう一度頼めるか?」


「ん、任せろ。」


アルフォスが『魔術』の発動態勢を取った。


そして僕は下段から槍を高速で突き出す。


「ブゴ……!」


穂先の先端で浅いとはいえオークに刀傷が生まれる。

頑丈な皮膚に守られているが故に痛みに対する耐性がないのか少しの傷でえらく動揺している。

これなら、メナフォスで行ける。


「あんちゃん、魔術はいいぞー! あとシオン、ありがとうなー! うがあああああああーっ!!」


大上段からの大振り。

ドワーフ族という種族特性に大戦斧グランドアックスという要素が絡まり、僕では到底出力しえない破壊を生み出した。


表皮や筋肉はおろか、その下にある骨格に内臓まで両断してしまった。

文字通り真っ二つにされたら魔物でも死ぬことは変わりない。


断面から血と臓物を零しながら、力なく倒れたオーク。

ずしんと重量を感じさせる音を鳴らして力尽きた。


「終わったか……。フハハハハハハハ、大勝利なり!」


「いや、流石に静かにしろよ。」


それを確認したベルが馬鹿でかい声で勝利宣言をした。


しかし変わらず馬鹿でかい声だ。

魔物を寄せたらどうする気だ。


 △▼△


「よし、じゃあ解体の時間だな。」


倒した三匹のオークをひとまとめにして、魔物避けの結界を張る。

そうしたら皆大好き解体の時間である。

目当ての素材は肉に皮、骨に魔石と大忙しだ。


「……シオン、結界はれるのかー。もしかして『魔術師』なのかー? だったら兄ちゃん首かー?」


「おいコラ、愚妹。何でそうなる。……確かに攻撃に偏重してはいるが。」


「いや、僕は『魔術使い』だよ。『魔術師』程、魔導学への造詣が深い訳じゃないさ。まあ今使っているのは『秘蹟』だけどさ。」


『学術協会』に所属する教育機関で魔道士メイジの称号を得たアルフォスと必要最低限の知識を蓄えただけの僕を比べるのは違うだろう。

それに他人と比して偶然、知る機会が多かっただけのことで自慢できるようなモノじゃない。


「『秘蹟』……まさかお前、神官の出か?」


「いや? 近所に物知りオジサンが居ただけの一般ピーポーだぜ。……にしてもオークの解体難しいな……。」


ナイフの通りが悪い。

死後硬直には早いはずだし、死んだら柔らかくなるとは聞いていたはずだけど……。


「いや、筋を無理に斬ろうとするからだ。私のやっている通りにしてみるといい。」


「む……ああ、本当だ。流石はエルフの狩人。」


ベルナデッドの言う通りに刃を走らせるとさっきよりも簡単に切れていく。

この調子なら直ぐに終われそうだ。


「メナフォス、小分けにした肉を包んでくれないか?」


「おー、それなら不器用なあたしでも出来そうだぞー。パースの葉は何処だー?」


「借りて来た道具袋に入れてあるよっと。」


腰に下げていた借り物の『道具袋』を投げて渡す。

予め買っておいたパースの葉も入れてある。

パースとは防腐効果がある大きな葉を生やす柑橘系の木だ。

果実は不味いが、防腐効果のある葉は食物を包むことに重宝されている。


「む、シオン聞いていないぞ。」


「や、必要になるかと思ってな。予め借りておいたんだよ。」


「おー準備万端じゃないかー。なら有難く使わせてもらうぞー。」


結構大きな出費ではあったけど必要経費だ。

普段使いしている素材入れポーチじゃオークの肉は入りきらないからな。

それにそのまま運んで傷ついたり腐ったりすれば換金しても大した額にならない、それどころか処分費用を払わされる可能性もあるし。


「……そうか。確かに準備万端は良い事だ。だが! 少しばかり独断専行スタンドプレーが過ぎるぞ! いいか? 私達は一党パーティーなんだ。連携に重きを置き、互いに信を置くものだ。それなのに誰か一人が相談も無しに勝手に動いてはそれが揺らぎかねん。以後、慎んでくれ給え!」


「お、おう……分かったよ。」


普段のお調子者からは予想もできない真面目腐った台詞だった。

いやまあ確かに正論ではあった。


パーティープレイに調和を第一とするのは当然だ。

サッカーや野球の試合経験から分かっていたことだ。


……なのだが、どうしてか釈然としない。


飲んだくれて道端で眠りこけていた駄目エルフに言われるているからか?


「うわ、あいつ。だっせー。恰好つけて怒られれやんの。」


後、アルフォス。

お前は何時かしばき倒してやる。

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