第6話 パーティー結成
side 冒険者シオン
「―――と、いう訳で双子ドワーフのアルフォスとメナフォスだ。新しい
「稼ぐために来たアルフォスだ。よろしく。」
「お金が無いから来たぞー。」
「うむ、何がという訳なのか全然わからん。」
む、流石に無理だったか。
「僕と君だけじゃ心許ないって思ってな。他のメンバーを探してたんだよ。アルフォスは魔術師だから後衛、メナフォスは見た目通り戦士だから前衛に。中衛で僕と君がフォローに回る。
「な、なるほど……確かにそれはそうかもしれん。君と私の二人だけでは確かに心許なかったな。」
僕がそう言うとベルナデッドは納得した素振りを見せる。
細腕のエルフと人間だけだとどう考えても大型の魔物には立ち向かえないからな。
頑強なドワーフがいれば
「では、よろしく頼むぞ御両人! 私の名はベルナデッド! 親しみを込めてベルと呼んでくれ! 見ての通り、エルフ族だ! ドワーフの兄妹よ、よろしく頼むぞ!」
そして、僕達
△▼△
冒険者ギルドの規定で冒険者、その
その際には実力、実績、人格や性格といった多くの評価項目を満たしていく必要がある。
とはいえ、厳格な評価が下されるのは貴族や富豪との付き合いが出始めるCランク以上の上級冒険者からだ。
今のDランクやEランクである僕等みたいな下級冒険者にはあまり関係ない話だったりするのだ。
つまり何が言いたいのかというと―――
「ではこれで手続きを完了しました。これからの活躍を期待しています。E+ランクパーティー、『大樹の剣』。」
―――ここら辺のランク分けは結構テキトーなのだ。
「思ってたよりも結構テキトーだったなー。ベルのランクが高いせいかー?」
「確かにそれはそうだな。僕もアルフォスの奴を考慮すればFランクだと思ってたよ。」
にこやかな表情と親しみやすい態度ではなく怜悧な表情で淡々と業務を進めていた受付嬢を思い出しながらメナフォスが呟いた。
確かにこの中で一番ランクが高いのがベルナデッドのD-。
次に僕とメナフォスでE+。
そして最後に今日初めて冒険者登録をしたアルフォスのFランクだ。
四分の三が登録済みとはいえアルフォスはひよっこ。
もう少し低いランクになるかと思ったけど……。
「わはははは。まあ、良いではないか。お蔭で近場の『魔境』―――『アルフの濃林』に諸手を振って入れるのだぞ?」
「まあ、普通に依頼を受けるよか効率は良いな。」
『魔境』、通常よりも何らかの要因で魔素濃度が濃くなった領域のことだ。
魔力を始めとする力の源となり、大気中に溶け込んでいるこの物質は全ての存在に影響を与える。
そしてこの魔素の影響を大きく受ける魔物は『魔境』において更なる影響を受ける。
そして『魔境』程の魔素濃度になれば動植物にも影響を与え、不気味な変化を与える。
強大化に凶暴化、知性の向上に文明化が例となる。
当然、かなり危険であり冒険者の様に命を飯のタネにするような人種でなければ近づく事さえしないだろう。
しかし、特異な生態を作り上げる事もあり希少な素材や鉱石を入手できる環境でもあり、こぞって冒険者たちが一攫千金を試みるのだ。
とはいえ、今から僕達が向かう『アルフの密林』の危険度はDランク。
個人ならDランク、集団ではE+が適正とされる低ランクの『魔境』だ。
当然、全体的に低レベルな『魔境』である為得られる素材は程度が知られているが真面に依頼をこなすよりは稼げる。
「そう言えばシオン。お前、何か依頼受けてなかったか?」
「ん? ああ、オークの討伐と採取依頼だな。『濃林』ならオークはたくさん出てくるし、薬草の種類からして簡単に入手できる奴だった。はした金にしかならないけど少しは足しになるかと思ってな。」
「オークか……。まあ、大規模な群れでもなければこの人数なら何とかなるか。」
オーク。
豚や猪の頭を持った人型の魔物だ。
大きさは2mほどでかなり大きく、でっぷり太った体型をしている。
そしてその体型通りの鈍重さと力強さを兼ね備えている。
知性や器用さに優れる人型魔物でありながらそれらが大きく劣り、そこが明確な弱点となっている。
危険度は単体でE+ランク。
ゴブリンやコボルトと比べれば強敵で、
「―――って言ってたらもう着いたぞー……。」
鬱蒼と木々が茂る森。
嘗て入った事のある『緑の森』よりも木々は生い茂っており不気味だ。
一歩先も明らかにならない程の植物量で、油断してしまえば仲間たちとはぐれてしまいそうだ。
「こうして見ると……凄いな。正に『魔境』、人の領域ではないな。」
「そうだな……いざこうなると足が竦む。これが冒険なんだな。」
僕の言葉に同意するアルフォス。
初めての冒険だというのに何時もと変わらないので流石は魔術師だと思っていたけど、流石に緊張するか。
メナフォスも何処か気負った空気を出しており、表情は硬い。
口にこそ出していないが彼女も緊張している。
「―――わはははははは!! 確かに壮大だ! だが、だがしかし! 恐れる事は無いぞ、皆! 例え巨大な敵が現れてもシオンとメナが足止めをし、私とアルの魔術で吹き飛ばせばいい! それに私には誰も知らない隠された力がある! 例え何が起こっても大丈夫サ!」
僕等の弱気を吹き飛ばすほどの大声をベルナデッドが発した。
台詞の内容は一瞬、確かにと思ったけど詳しく考えれば滅茶苦茶だ。
僕はメナ程馬鹿力じゃないし、アルは大規模魔術を使えない。
それにベルナデッドに隠された力があるなら飢えて死にかける真似なんてしなかっただろう。
「……無茶言うなよ。大規模高火力の魔術を使えるのは軍人魔術師くらいだぞ。俺みたいな魔術使いモドキに期待するなよな。」
「それを言うなら僕もだぜ。あんまり当てにされると弱すぎて死ぬから当てにするなよな。」
「あたしの腕力もドワーフの中では普通だぞー? 熊やオークなら兎も角、それ以上になったら流石に抑え込めないぞー。」
そんな訳で全員から総スカンを喰らうベル。
「な、なんだ……皆して……。私はこの空気を解そうとだな……。」
まさか全員から喰らうとは思っていなかったのか、拗ねてしまった。
何時も陽気で静謐とは程遠いとは思っていたけど打たれ強くはないみたいだ。
「悪かった、悪かったよ。流石にノリが悪かったかもな。」
僕がそう言うとアルフォスとメナフォスもバツが悪そうに続けて謝罪をする。
そして人間単純なもので僕等の軽い謝罪であっさりと調子を取り戻すのだった。
「……むぅ、まあいいだろう! では、いざ! 我等の冒険だ!」
緊張は消えない。
でも、気負ったものはなく、木々の雑踏に足を踏み入れる。
▼△▼
「前方からゴブリン三匹! シオンとメナ、頼むぞ!」
緑色の小鬼が棍棒を手に僕等に襲い掛かる。
だがその前にベルが僕とメナフォスに知らせており、ゴブリンの棍棒が振るわれる前に始末してしまう。
後衛に位置するベルは
遠くから襲い掛かる魔物は無論、見落としてしまう貴重な素材もしっかりと見つける視野の広さも持ち合わせている。
判断も早く、普段の様子からは意外だが
「にしても魔物が多いなー。これでもう十匹は倒したぞー。」
「まあ、魔物の巣窟だからな。でも、僕としては新しい相棒の調整ができるから寧ろ有難いな。」
新しく購入した短槍を振るい、穂先に付いた血を払う。
下級冒険者には見合わない装飾が気になるが、程よい重さとしなりの良さは病みつきになる。
これほどの出来は流石アルフォスというべきだろう。
「へっ、気に入ったなら何よりだぜ。」
「成程、アルは鍛冶師だったのか。……因みにだが短剣を取り扱っているか?」
「短剣? ならこれはどうだ。装飾は無いけど普段使いには十分な切れ味と取り回しだぜ?」
ベルは僕の槍を見てアルフォスの腕前が気に入り、アルフォスの方も商売チャンスと睨んだのか商談が始まっている。
張り詰めた空気は既に霧散して久しいが、流石にそこまでやられると警戒心も溶けてしまうぞ……。
「でも流石に多すぎないかー? ゴブリン以外にもコボルトに野狼、
「でも僕等は今日が初めてだからな。比較ができない以上はあんまり考えなくていいんじゃないか? それに儲けられるならそれで良くないか?」
確かに種類も数も多い。
持ってきた
こうなるとギルドでの採算が楽しみだ。
四等分しても結構な額になるんじゃないのか?
「確かに考えすぎかもなー。お金が欲しいのもそうだし、あたしらしくなかったかー。」
「でも、慎重なのは良い事じゃないか? ……よし、魔石と素材を剥ぎ取り終わったぞ。」
ゴブリンから取れる価値物は魔石と額から生えている角。
ゴブリン自体が低ランクな魔物の為、用途は限られ売却額も安いが換金は可能。
それに対して肉は不味く、骨は防具への加工に値せず売値がつかない。正に無価値と言える。
「うむ、では再出発だ! 目当ての薬草にオークとも出会えていないからな!」
「大声は出すなよ。野獣や魔物に気取られるぞ。」
そして再び動き出す僕達。
『魔境』に入り一時間ほど経っているため流石に慣れて来たのか足取りは軽く、恐れはない。
連携も十分には遠いが、連携と呼べるだけにはなったはずだ。
そんなとき、ふとベルが足を止めた。
今までには見せたことのない真面目くさった顔で何処か遠い場所を見ている。
思わず息を飲むほどの美しさにびっくりするが、ただ事ではない事は明白だった。
「……ふむ。近くにオークが三匹。どうする?」
茂みの先の存在を見つけたベルが僕等に告げる。
オーク、それに三匹という数は挑むには少し勇気がいる数だ。
足音を殺し、ゆっくりと近づいていくと三匹のオークがゆったりと寛いでいる。
食事を終えた後なのか眠そうにしており、注意散漫だ。
「うげ、二匹までなら何とかなるけど三匹はなー。」
「いや、残りの一匹なら僕が抑え込む。その隙にアルフォスとベルナデッドが仕留めればいい。それで後の二匹を全員で倒す。」
「……まあ、オークの耐性はザルだし『詠唱』の短い『魔術』で大丈夫か。」
「おーそれならいいぞー。でも早くしてくれななきゃ困るぞー。」
「よし、では私が矢を放つ。それを合図にやるぞ。」
ベルが矢を矢筒から取り出し、番える。
しかし上半身は未だ茂みに隠しており、オークたちに殺意を感じさせない。
アルフォスは『詠唱』を口ずさまない。
万が一『魔力』の動きを知られ、先手を取られないためだ。
僕とメナフォスも武器を構え、何時でも襲い掛かれるようにする。
位置に着くとベルが
いけるか?という疑問に対して迷うことなくいけると返す。
そしてメナフォスも同じだったみたいだ。
その瞬間、隠していた殺意が放れ、オークの膝を穿った。
オーク達が状況を把握するよりも早く、僕とメナフォスが躍り出る。
戦闘開始だ。
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