第2話 旅の末

聖なる力を纏う白炎が魔王の体に纏わりつく。

悲鳴をあげながらよろめくが、一瞬で身体から瘴気が溢れ身体を回復される。


「う~、あの魔王とか言うのほんとに固すぎじゃない?

 もう何回これを繰り返してるのやら」


高位の聖衣を身に纏った聖女。

聖魔法と攻撃魔法を掛け合わせた聖女にはあまり見ないタイプの攻撃的スタイル。

王国第二王女、カトリーヌ・テレシア。


「そんなこと言ってもよ、効いてない訳じゃなさそうだし…よ!」


魔王から放たれる瘴気の爆発を前に出てその持つ大盾で防ぎ、同時に発動した守護結界が仲間へ残った衝撃さえ通さない。

王国の筆頭騎士にして、聖騎士の名誉を受けたガルツ・バリッシュ。


「ただジリ貧なのは確かだ。魔王城は瘴気に満ち溢れているからな」


「回復され放題。唯一倒せる勇者の聖剣もまったく近づけさせてくれる  

 感じがしないし」


「どうにか隙をつくれれば一撃で倒せるんだが」


聖なる光を携えた聖剣に選ばれし者。

この時代の勇者。アイク・ストラシュ。


選ばれし三人の者達。魔王とは互角にやりあってはいるが決め手に欠けているという点は同じ。否、長期戦になればなるほど勇者側が不利になるのは目に見えている。


イレギュラー。

何かの状況の変化が必要であった。




「私が隙をつくります」




その者は勇者パーティーには異質であった。

黒いローブに全身を隠し、言うなれば暗殺者のような格好をしている。

他の3人が光だとしたら、闇そのもの。

声と体格から性別が女ということだけはわかるが、それ以外の視覚的情報はない。

気配を消しているのか、声だけがどこからともなく聞こえてくるような不思議な感覚に陥る。



「時間が掛かりすぎました。申し訳ございません」


「いや、気にしなくていい。

 それでどれくらい時間がつくれる?」


「5秒は無防備に出来るかと」


「上出来だ」


「カトリーヌ様、先程と同じのをお願いします」


「わかったわ」


「ガルツ様は防御を。かなり接近します。守ってください」


「任せとけ!!」


「アイク様最後はお願いします。」


「必ず」


それが合図のようにカトリーヌから発射された白炎が魔王にダメージを与える。だが決定打にはならず回復が始まる。


だが、今回は違う。


「ブラインド」「シャットダウン」


魔王に接近しながら黒いローブから手が伸び二つの呪文を呟くと、魔王の視覚、そして全体に靄が掛かるように動きを阻害する。


だがそんなことでどうにかなるほど魔王は甘くはない。

全身から瘴気を放ち、それが衝撃波となり拘束を破壊、そのまま全てを飲み込むように迫る。


ガルツが前に躍り出て大盾で受け、そのままガルツの背中を使い黒いローブが跳躍する。


魔王の背後を取り、ローブから4本のナイフを取り出す。

刃の全てには刻印がなされ、明らかに普通のナイフではない。


「パラサイズ」


背後から両手、両足に刺さったナイフは魔王の動きを完全に止めていた。


ように見えたが、少しずつギコチナク魔王が身体を動かす。


(これでも完全には止まりませんか...

ですが充分ですよねアイク様)


実際にその場から動けずに止まっていた時間は5秒にも満たなかったであろう。

ただ、勇者にはその時間で充分であった。


「終わりだ魔王」


振りかざす聖剣が魔王に突き刺さる。

漏れ出す光、溢れだし浄化される瘴気、この世のものとは思えない恐ろしい魔王の断末魔。


溢れ出す光が消えたとき、魔王は完全に消滅していた。





こうして長くも短い魔王討伐の旅は終わりを迎えたのである。


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