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 十日後、ピクニック当日。


 もしかしたらピクニックまでにシャーロット覚醒するかもーと淡い期待を抱いていたものの見事外れたので、予定通り王都近郊の森に出掛けた。

 各々動きやすい服装でって決めたから私は冒険者風だ。男二人もそんな感じ。

 ……シャーロットは、何故か女子学生服で来た。いや課外授業みたいなものではあるけど森に制服で? せめてジャージ……ってこの世界にないなジャージ。乗馬服や運動する用の簡素な服ならあるけど。

 んーま、彼女の進路の邪魔になる枝葉を取り除いてけば平気かな。


 ところで、ご承知の通り道中それなりに魔物が出る。いや出てもらわないとそもそもピクニックに来た意味がない。

 アレックスとベンジャミンにはくれぐれもとシャーロットの安全優先を頼んだ。私が冒険者なのは出発時にベンジャミンにも教えたから私が護衛を必要としないのは理解してくれてると思う。その際アレックスとシャーロットが揃って不満そうにしたのは何でだろ。


 皆には言ってないけど私の計画じゃ、私はピクニック中に魔物に襲われて怪我をする予定だ。


 シャーロットが確実に覚醒する保証はないから高回復薬は持参した。

 問題は、冒険者をそこそこやっているお陰で新米当時よりは強い魔物相手にも勝てるようになった。なので下手に弱い魔物相手に酷い怪我をしましたーってのは不信感を招く点だ。


 疑われない適当な強さの魔物は森の湖に棲息している。


 サブイベントでそいつを倒すなんてのがあったっけ。故に湖畔でのピクニックをチョイスしたわけよ。私達はサクサクとスライムなんかのそれ程脅威とはならない魔物を倒しながら湖へと向かった。


 森の湖畔に到着した私達の目の前に広がるのは陽光をキラキラと反射する水面。


 佇んでいると、水上を渡ってきた爽やかな風が髪先を揺らした。

 後はわいわいしながら待ってあーれーって襲われるだけね。私だって本来の死亡イベントと関係ないところで死にたくはないから急所には攻撃を食らわないように細心の注意を払うつもり。


 まっ、主な防御は鋼鉄体、主な攻撃は鋼鉄体当たりってのは変わらないけども。武器って程の武器はなくて適当に買ったり拾ったりした棒を振り回す。ただ、振り回しているうちにいつも決まって折れるからもっと強度のあるやつがほしいけど、鉄バットは売ってない。この世界にないからね。


 前世じゃ私は野球と不良の両方でバットを振り回していたから、攻撃と言えばバットが一番しっくり来るのよね。


 相棒はバットと言っても過言じゃなかった。


 はあ、バットが欲しいなあ。


 でも今回は振り回し武器を使うまで長引かせるなんて時間の無駄はしないからいいけどね。まあとりあえずのんびりピクニックを楽しもう。


 バスケットにはシャーロットに頼んで喫茶店の方に注文って形で美味しい昼食とデザートを用意してもらった。店の売り上げにもなるからウィンウィンだ。


「ロッティお口に合う? なーんて、あなたの店のメニューなんだけどね」

「勿論美味しいです。あそこで働きたいと思ったのも、学友に勧められて食べたらとても美味しかったからなんです。そりゃあ王都で急成長もしますよね。オーナーは将来的に二号店三号店のオープンも見据えているそうです」

「へえ、意外と新しいのね。あの味の完成度はてっきり老舗なのかと思っていたけど」


 ゲームだと本イベントやサブイベントとは関係ない各種商店はそれとして存在するだけで、店の経歴は語られていなかった。シャーロットの話だとオーナー自らがスカウトしたパティシエ達が日々腕を奮っているんだとか。


「私もオーナーの方にはまだお会いした事はないですけど、若くしてやり手みたいですよ。他の方が言うにはスイーツへの情熱で髪の毛まで燃えている男だとかで」

「は? 何それどういう意味?」


 まんま炎とかライオンの鬣みたいな髪型とか? 例えばベジー○様みたいな……?


「何でも……炎のような赤い髪の色なんだとか」

「へー…………」


 それは思いっきり心当たりがあるわっ。


 っていやいや早まるな。この世界には赤毛の男なんて他にもいるわ。多分それなりに。


 すると四人でシートの上に車座になっていた私の斜め向かいで、自身でも思案するように伏し目がちにしていたアレックスがついと私を見る。


「そのオーナーがケイトの探している男の可能性は?」


 同じ事を考えたらしい。

 車座の右隣のベンジャミンが頷いた。


「その可能性はあるだろう。まだスイーツ喫茶は調査していなかったから、帰ったらすぐにでも手の者に調べさせよう」

「ふっ、最初に言ったのは僕だから僕が責任を持って調べさせる。君に余計な手間は取らせないさ、ベンジャミン・チャンドラ」

「はっ、一番に脳内思考したのは俺だ、アレク何某なにがしとやら」


 思い切り端折はしょられてアレックスの頬が片方痙攣する。


「仮に早い者勝ちでも、それを証明する手立てはないだろう。そもそも思ったのもダントツで僕だしな」

「いや俺だ」

「いや僕だ」

「俺だ」

「僕だ」


 俺、僕、俺……と幼稚な主張が繰り広げられていく。


「え……と、ケイト様どうしましょう」

「あー、放置でいいよ放置でー」


 シャーロットが引いてるし。おいちょっとあんたらのヒロインが遠ざかって行くよ! 主役の品格を持てえええっ! それ以前に設定じゃどっちも王子身分を持ってる高貴な男達のする喧嘩かこれは!? 感情のままにうんこ投げ合うゴリラか!? ヒーロー株大暴落よ。

 全く、怪しいそのオーナーはピクニックから帰ったら自分で調べたるわっ。

 実は、彼ら二人にも赤毛の若い男を探してほしいって頼んでいた。利用できるものは利用して生き残ってやるぜなブラックハングリー精神よ。ケケケ。でも大層な情報網をお持ちだろう二人にもまだ探せていないってさ、もしや赤髪って結構レアなの? 今更思ったけどそうなの? 加えて、髪を染めるとかして隠していたらわからない。敵は予想を超えて手強いのかもしれないわ。

 だけど、絶対探し出してやるんだから。


 ……で、ところで、ここには何の目的で来たんだっけ~?


 そうだよ魔物だよ。


「――きゃあああっケイト様っ、湖がっ!」


 湖畔でガヤガヤ騒がしくしていたからか、ようやく目当ての魔物様が湖から姿をお現しになった。


 湖面からにょろりと長い体を半分出してこっちを睨んでいるのは、この湖の主たる水棲の大蛇だ。


 色は赤。真っ赤。深紅。……何っかムカつく。


 まあいいわ、気を取り直してちゃっちゃと計画通りに怪我をして――……と思ったのに、何で、何でなのよこんな……っ!


 喧嘩をピタリと止めたアレックスとベンジャミンの二人が大蛇を見るなり即座に地を蹴って跳躍。

 サックリあっさり倒してしまった。

 倒しちゃったんだけどおおおーーーーっ!!


 くっ、二人の戦闘力忘れてた。

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