第3話 生活の基盤
僕は片手で片頬だけに流れる涙を拭って黙々と段ボール箱の中身を漁る。
中には僕の衣服と少しお気に入りの本、それと僕が通う高校の制服が入っていた。
衣服と制服は例のタンスにしまい、本はとりあえず床に山積みにして置いた。
早いうちに本棚買わなきゃだな…
そう物思いにふける僕に後ろから声が掛かる。
「ごめん能星くん、これ運んでくれない?ちょっと一人じゃ厳しいぐらい段ボール箱多くて」
早乙女さんだった。
彼女が指し示しているのは山積みにされている段ボール箱だ。
「了解です。さっきから思ってたんですけど荷物多いですね。」
「いや~、色々家から持ってきてたからさ」
「中身はなんなんです?」
「え~、レディにそれ聞いちゃう?う~ん、まあざっくり言うと女の子の必需品とかかな~」
「あ~そうなんですね……」
なんとなく気まずい雰囲気になったので僕は黙り込んで早乙女さんと一緒に抱えた段ボール箱を2階に運ぶ。
彼女が前で僕が後ろだ。
彼女の丈の短いジーンズから伸びる黒いストッキングが僕の目に入り込んで明後日の方向を見ながら運ぶことを強制されてしまった。
最後の段で足を滑らしかけた。危ない。けれど彼女には気づかれなかったらしい。
彼女は段ボール箱を抱えながら器用に引き戸を開けて部屋に入った。
僕もそれに続く。
彼女の部屋にはキャリーケースとすでに運び込まれたと思われる段ボール箱以外に物はなくて、強いて言うならば押入れがあるぐらいだった。
「能星くん、そういえばさ、押入れに布団入ってるんだけどこれ各自持っていく感じ?」
「はい。そんな感じだと思いますよ」
「それで家具は後で運び込まれる感じなんだよね?」
「そうですね、父が引っ越し会社を手配しているので」
「能星くんのお父さん面倒見いいんだね」
僕は一瞬そんなことない。って言おうとしたけれど、彼女のまつ毛が俯いているのを見てその言葉は霧散してしまった。
「そんなことより早く布団運ぼうよ!私は自分の部屋に押入れがあるから楽ちんだけどね~」
素早く顔を上げてそんなことを空元気でにへへと笑って言う彼女に余計な気を遣わせてしまったな。と感じて申し訳なくなった。
そんな僕をよそに彼女は黙々と布団を押入れから引っ張り出して敷き始める。
「じゃあ、僕の布団、自分の部屋に運びますね」
「あ~、能星くんちょっと待って。ごめんなんだけど、そっち側持ってくれない?」
彼女は丁度敷き布団を敷き終えたところで、シーツの端を持って、もう片端を持つように僕に向かって目で合図してくる。
「あ、はい」
僕はシーツの端を持って二人でシーツを持ち上げた。
シーツがふわりと舞って、敷き布団の上といういつもの定位置に収まる。
彼女はうむ、と満足そうに頷いた後ニカっと笑って
「ありがとう、能星くん」
「いや、共同生活は助け合いなので、別にお礼言われるようなことじゃないですよ」
「いや~能星くんは分かってないなあ。共同生活っていうのはお礼を言い合うものなんだよ。まあ私の持論なんだけどね」
そう言いながら彼女は掛け布団の端を持って勢い良く上に持ち上げた。
乾いた音が鳴り響いて掛け布団がシーツの上に収まる。
「それじゃ、能星くんが布団敷くのも手伝うよ。あたしばっかり手伝われてたら困るし。共同生活は助け合いなんでしょ?」
「……そうですね」
まさか自分の言った言葉を使われるとは……
僕も彼女がしたように押入れから布団を引っ張り出して一階の自部屋まで運ぶ。
行きと違って今度は僕が前で彼女が後ろだ。
階段を降りるとき視界が布団に遮られていて少し危なっかしかったけれど、なんとか運び切れた。
僕はドスン、と自部屋に布団を降ろす。
当たり前なのだけれど自部屋は本が山積みになったままでとても異性に見せれるような状態じゃなかった。
「うっひゃー、本山積みじゃん。本好きなの?って聞くまでもないか」
「まあとりあえず能星くんの布団敷きますか~」
僕は一つ頷きを返して先程と同じ要領で布団を敷いた。
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