傍観者

『――アイディール神国の国民達よ、私はウィンクルム連邦国の王だ!! この百発の核ミサイルが見えるかァッ!!! あの日お前達が私の国であるウィンクルム連邦国にったのと同じ物だ!!!!

 お前達にも愛するものを奪われる気持ちを味わせるために三十年待った!!!

 あの時の私と同じ地獄に苦しむがいい!!!! 死ねエエエエエエエエッッッ!!!!!!』


「ない、と、さ、ま」


 拙者せっしゃがいつものように奴隷達へ与えるための食事を作っているとあの日死んだと思っていたナイト・エンペラー様の姿がドライ王国の上空に投影とうえいされ、怨嗟えんさの声を上げながらアイディール神国をほろぼす瞬間を全ての国民が目撃もくげきした。

 拙者は今すぐにでもナイト様の元へけつけて自身の無事を伝えたかったが、アイディール神国はドライ王国から向かうにはだいぶ距離がある。

 どう考えても拙者がアイディール神国へ着いた頃には全て終わっていると、かつてドライ王国で出会ったデュラン様とその奥方おくがたであろう女性が到着とうちゃくしたのが視界へ入ってそう思った。


『――私達の因縁いんねんを終わらせよう、剣神』


『……俺は世界が滅ぼうが存続しようが正直どうでもいい、だがなッ!! アリスの、いや――俺の大切な者達が愛する世界を壊そうとするのならば!!! 容赦ようしゃしないぞ、黒神ッ!!!!』


『デュラン、僕が援護するから全力で闘って!!! 始源しげん魔法――シューティング・スターレインッ!!』


 そして拙者が様々なことを考えていても事態じたいは止まらずに動いていく、会話を終わらせた二人の闘いがどうなっているのか目で追うことすらできないため分からなかった。

 拙者には声で状況じょうきょうを判断することしかできなかったが最後のデュラン様のさけび声が聞こえたかと思えばナイト様は倒れ伏し、デュラン様達が勝ったのだとそこでようやく理解できた。

 しかし世界が救われたと言うのに歓声かんせいを上げる者達はいなかった、全ての国民が二人の会話を固唾かたずみながら見守っていた。


『……自分でも意味不明な行動してるのは分かってるけどよ、どうせお前はもう死ぬんだ。

 最期くらい。苦しまなくてもいいだろと、思っちまったんだよ』


『――馬鹿な男だな、お前は。私なんかに同情するなど』


『もう知っとるわッ! 大人しくそこで死んどけ、バーカッ!!』


 周囲で映像を見ていた人々がどんな顔をしているのか、涙で前が見えなく・・・・・・・・なってしまった・・・・・・・拙者には分からなかったが。

 耳へきこえてくる声から拙者と同じように泣いてくれている人もいるのだと嬉しかった――ナイト様の人生には意味があったと肯定してくれている気がしたから。


 こうして様々な人々が泣いている中、ナイト様はあの世へと旅だった。

 せめて最期はデュラン様の言うとおり苦しまずに旅立てたことを、傍観者拙者は願わずにはいられなかった。

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