若者

 拙者せっしゃはあの方と共に創った国を今でも愛している。

 奴隷どれいとして火の国から拙者を連れ出した奴隷商人の元からいのち辛々からがら逃げ出して辿たどり着いたスラム街の仲間達と共に誰もが幸せに生きられる国を創り出すのだと一から努力し、きずき上げた血と汗と涙の結晶であり。死んだ仲間達・・・・・・とのきずなそのものだから。


 そうなったけが何だったのか今となって分からないが、いて言うのならアイディール神国の国民の正義せいぎ感だろう。

 彼らが信仰しんこうする起源きげん統一教団とういつきょうだんが下等種族とさげすむ多種族を国民として向かい入れた拙者達の国――ウィンクルム連邦国はアイディール神国の放った百発の核ミサイルによって一夜にして滅ぼされた。

 アイディール神国に使者ししゃとして出向いてつかまっていたため拙者の命は助かったが、映像でウィンクルム連邦国の最期を見ることしかできなかった拙者は絶望し。大人しくアイディール神国で処刑されるのを待っていた。

 しかしアイディール神国のやり方をよく思っていなかった一人の若者に助けられて何の因果いんがか命をひろってしまった。


 涙を流しながら『これ以上この国の犠牲ぎせいになるな!!!』とさけんで拙者を逃がしてくれた若者のことを思えば自殺することもできず、困りてた拙者は王と共に目指した誰もが幸せに生きられる国という理想を一人でも追い続ける覚悟を決めて奴隷商人となった。

 昔の拙者のような立場の奴隷を優先して買いつけてできる限り奴隷達が幸せになれる主の元へ送り出す、そんなことをし続けていたが十分な食事を奴隷達に与えていたため奴隷商人一本だけではとてもっていけなかった。

 それでも奴隷達へ最低限の食事しか与えないという選択は拙者にはできなかったため、夜は酒場の店主として店を切りりしてなんとかその日暮らしができていた。

 そんな生活を続けて三十年近くの時間が流れた頃、拙者は一人の若者と出会った。


『さっきは悪かったな、今一事情が分からなかったもんでな』


『ッ!? ――先ほど拙者を連れ去った御仁ごじんですな、いえ拙者こそ先ほどは見苦しい所を見せて申し訳ありませんでした』


 その若者はやる気のなさそうな目をしていたが、どこか拙者達の王を思わせる不思議ふしぎ雰囲気ふんいきをしていた。


『さて、突然の話で申し訳ないが俺はここから逃げた三人からの依頼でここまできた。

 話を聞いてくれると嬉しい』


『ルイス達からですか、分かりました。聴きましょう』


 そして明らかに多い金額を支払って奴隷の大半たいはんを買って故郷こきょうへ帰りたい者達は全員故郷へ帰すと約束している若者の姿を目の辺りにし、失礼だと分かっていても拙者はウィンクルム連邦国の王であるナイト・エンペラー様を重ねずにはいられなかった。

 拙者は思わず涙を流してしまい、若者――デュラン・ライオット様を困らせてしまったりしながらもなんとか見送ることができた。

 それから小さくなっていくデュラン様の姿を目へ焼けつけて決意を新たにした後、拙者は酒場を開けるため城壁をよじ登ってドライ王国へと戻った。


 ――これは拙者が臣下としてデュラン様に仕えることになる二十年前の出来事である。

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 ちなみに拙者の人を逃がしてくれた若者は拙者の人の代わりに処刑されました。

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