建国

「……つまり、君達は魔物から魔王に進化したけど。もうそれ以上誰かの命をうばいたくなくて黒神へ直談判じかだんぱんしたら、それを許された魔王達の集まりってことでいいのかな」


「は、はい、そうです。先程はボクの勘違いで迷惑をかけてしまいました、すいません。

 ボクの名前はルビー、蝙蝠こうもりの魔物が進化した吸血鬼という種族です。

 それと聖女様達はスピネルおじさんと闘ったんですよね? どんな感じの最後を迎えたか、教えてもらってもいいでしょうか??」


「……スピネルおじさん? よく分からないから、もう少しどんな感じの人なのか説明して」


 アリスはなんとか落ち着かせることができた吸血鬼の少女ルビーから話を聞いておおよその事態をはあくしたが、この魔王達はもう普通の人間と言っても過言かごんではない存在であり。どうするか一人では判断できなかった。

 そのためデュランを呼びに行こうか悩んでいるとスピネルおじさんという謎の人物が話に出て来て詳しく話すようお願いして話を聞いてみると、あの時ベルメーアで自身を誘拐ゆうかいした魔王の名前であることが分かり。ヴィンデ様へ目配せで合図をしてデュラン達を呼んできてもらうことにした。

 そしてデュランが到着してスピネルおじさんの最期についてくとデュランは困った顔をした後、あの時は誘拐されたアリスを助けるため急いでいたからあまり詳しく覚えてないがそれでもいいかと言ってきたのでそれで大丈夫だと返事すると。あの時のことをデュランは語り始めた。


「――アリスが誘拐されて焦っていた俺は天下無双を使ってからそのスピネルってやつの実体を斬った。

 その後はアリスの居場所を探ってる時に『バカ、な。そんなバカな! ありえな――あぁ』っていいながら灰になったのは見ていたが、そいつがいた場所にこのロケットペンダントがあったくらいだな。

 最後の最後まで握りしめていたようだったから一応回収しといたんだ、お前にやるよルビー」


「……スピネルおじさん」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667934941252


 デュランが渡したロケットペンダントには笑うルビーの写真が入っており、写真を外して裏側を見てみると『幸せになってくれルビー、愛している』と自身への短い愛の言葉が書いてるのを目にしたルビーはポロポロ静かに涙を流し続けた後。

 ロケットペンダントを両手で大事そう抱え込みながらデュランへ『ありがとうございました剣神様、このペンダントを持ち帰ってくれたことを感謝します』そう言いながらしっかりと頭を下げた。


「……いいのか俺に頭を下げて、俺が殺さなければそのスピネルおじさんはまだ生きていたかも知れないんだぞ? 復讐ふくしゅうしたいとは思わないのか、今の俺は抵抗することすらできないぞ??」


いいえ・・・、剣神様を恨む気持ちがあるのは事実ですが。あくまでも加害者かがいしゃは我々吸血鬼なのです、それをたなに上げて復讐することなどボクにはできません。

 ――それに願われましたから」


「……何を」


「ボクが幸せに生きることを、なのでボクはこの復讐心も愛も一生抱えて生きていこうと思います。

 死人であるボクがどれだけ生きるのか分かりませんけど、スピネルおじさんの分まで」


 デュランはそう言いながら真っ直ぐこちらを見てくるルビーの姿があの時のアリスを重なって少しの間笑った後、ルビーへ「なあ、ルビー。お前、俺が創ろうとしている国の住人第一号にならないか」そう言ってから手を伸ばした。


「――えぇッ!? なんでかつての敵であるスピネルおじさんと関係があるボクをさそうんですか!!? 後で気が変わって寝首ねくびかれるかも知れないんですよ!!!! 分かってるんですかッ!!!!」


「それでいいんだよ、俺が創ろうとしている国は差別が存在しない! 誰もが幸せに生きることができる国だ!! だからこそルビーのような人間が・・・俺の国には必要なんだ。

 多くの痛みを抱えているだろう人々が耐え忍び、それでも手を取り合ってよりよい国にしていく。それが俺が創ろうとしている国だッ!!!」


「誰もが、幸せに生きることが、出来る国……剣神様、ボク。決めました」


 ルビーはデュランの話を耳にすると目を見開きながら少しの間考え込んでいたが、スピネルおじさんの愛の言葉が視界へ入ると決断を下した。

 そしてデュランの足下へひざまずきながら心臓へ手を当て「王様・・、ボクの命。ご自由にお使いください」そう言うと、デュランは天晴を抜いてルビーの肩へ天晴のみねを乗せてから「ルビーの忠誠ちゅうせいを受け取る、これからは我が臣下しんかとしてはげめ」そう返した。


 こうして一人目の国民けん臣下であるルビーを手に入れたデュランは他の住民も国民か臣下のどちらかで手に入れた後、全員でウィンクルム連邦国跡地の開発を一から始め。三年後には魔王まおうから人族じんぞくと名前を変えた彼らの協力のおかげでデュランの国を建国することが出来た。

 国の名前は黒神の国であるウィンクルム連邦国の名前を借りることにし、ウィンクルム連合王国と名付けた。

 そしてそれからも活動を続けたデュランは魔人族達を正式に十四番目の種族として世界へ認めさせることに成功し、その影響で世界中から様々な多種族が集まった。


 そうして残りわずかな人生を精一杯生き抜いたデュランは建国から七年後の現在、立っていることすらも出来なくなり。ベッドの住人となっていた。






「王様、お薬です。んでください」


「止めてくれ、ルビー。一日中寝ている俺はもう王様ではない、今の王様はヘルトだ。

 俺の看病はいいからヘルトの仕事を手伝ってやってくれ」


 ルビーはデュランがそう言うと無言で首を振った。


「これは王太后おうたいごう様から命令されて王妃様とヘルト様にお願いされた正式な任務です、デュラン様の命を狙う者達から貴方を守る護衛ごえいねています」


「今更こんな半死人を狙うやつがいる分けねぇだろ、相変わらず過保護かほごだな。アリスは」


 ルビーはデュランがそうぼやくのを耳にすると「王様、貴方は自分の影響力を忘れてしまってるんですか? これは頭も診察しなければいけないかも知れませんね」そう辛辣しんらつな言葉を吐き出してくる。

 デュランはヴィンデにてきやがったと思いながらため息は吐き、理解していることをルビーへ伝えた。


「本当に理解しているのですか? 種族間戦争を終わらせて世界存亡の危機も救ってしまわれた救世主である剣神様??」


「……少なくとも俺はアリスと出会わなければそうしてはいなかっただろうよ、それは家族のついでで・・・・・・・助けられたお前らが・・・・・・・・・一番分かっていることだろう?」


「そうですね、いつも救世主だと言われるとかくしにそう言っていることはよ~~く知っていますとも。ボクは貴方の臣下ですから」


 デュランはそうして痛い所を突かれたためなんとか反論しようとしていると口から血を吐き出して意識がなくなっていくのを感じ、今日が己が旅立つ日だと悟るとルビーにアリス達を呼んでくるよう頼んだ。

 そして涙を流しながら飛び込んできたアリス達の姿を目にして笑顔を浮べた後、最期の力を振りしぼって上半身を起こした。

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