継承

「ガフッ! ――ゲホッ! ゲホッ!」


「デュラン! 大丈夫ッ!!」


 デュランは部屋に入ってきたアリスが魔法で治療をほどこすために近付いてくるのを手で制した。

 するとアリスは一瞬驚愕きょうがくの表情でこちらを見たかと思うと、大粒の涙を流しながらその場にへたり込んだ。

 母親であるヴィンデや最愛の家族であるアリスとステラ、息子であるヘルトの奥さんになってくれた杏香きょうか、そして十年間臣下として助けてくれたルビーに感謝の言葉を伝えた後。

 泣きそうな顔でこちらを見ているヘルトの頭をもうあまり力が入らない手でなでた。


「……死ぬのですか父上」


「……あぁ。魔力を周囲から取り込んでも次の瞬間にはごっそりと抜けていきやがる、どうやら今日が寿命じゅみょうみたいだ」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667985495946


 ヘルトは顔をゆがめて息をんだ後、一筋の涙を流しながら無言でデュランの隣へと腰を下ろした。

 デュランはヘルトが取り乱していないのを確認すると、寝床の近くに置いておいた天晴相棒を手に持った。


「これは俺が光竜ライオードからもらった砂鉄の鉱床こうしょうとへし折った光竜ライオードの爪を使ってドワーフ族の鍛冶師であるアルムが鍛錬たんれんして作り上げた俺の刀――天晴てんせいだ。

 そしてこれからは剣神の名を受けぐお前の相棒となる、じゃじゃ馬だから扱いに困るかもしれんが。

 俺の知る限り最強の剣だ、必ずお前の助けになってくれる」


「父上ッ! これは――――」


「すまないな、これから剣神として生きていくお前へ死ぬ前に何か物を送ろうと考え抜いたのだが。

 ……俺にはこれくらいしか思いつかなかった」


 デュランはヘルトに天晴を手渡すと重荷を背負わせることになるのを承知で剣神の称号を引き継がせた。

 なぜならデュラン亡き後の世に平和の象徴となる剣神の名を継ぐものがいなければ未だに遺恨いこんを残す者達が再び戦争を起こし、第二第三の黒神を生んでしまうのが分かり切っていたからだ。

 それでも一人の親として子供へ危険な役目を残してしまうことが心配だったため、デュラン以外には決して使われないとごねる天晴を必死に説得して息子であるヘルトは例外で助けてくれることになった。


「世界を剣神おれから託されるというのに、少しも動揺どうようしないか……流石は自慢の息子ヘルトだ。

 だからこそ、そんなお前だからこそ、俺の全てを渡せる・・・・・・・・――手をにぎってくれ」


「――はい、分かりました」


 デュランはこれほどの大事を任せられたにも拘わらず、凛とした表情でこちらを見ているヘルトの姿にどうしようもなく安心した。

 そして周囲から魔力その物を・・・・・・体の中に取り込み続け、もう限界だった魂が悲鳴ひめいを上げるのを無視むしして大量の魔力を体の中へめ込むと。突然の自殺行為に目を見開いているヘルトの手を掴んだ。

 そのままつながる手を通じて全ての魔力をヘルトへと渡し――力尽きて倒れた。


「父上ッ!!?」


 ヘルトの悲痛ひつうさけび声を耳にした次の瞬間、デュランの意識は煙のように薄まっていった。


「後は任せたぞ――二代目剣神ヘルト・ライオット」


 そして、ヘルトへ激励げきれいの言葉を伝えたのを最期さいごにデュランは四十五年の人生へまくを下ろし――この世を去った。







 この世を去った、はずだった・・・・・

 永い眠りから覚めたデュランが最初に感じたのは、目にみるほどの強烈きょうれつな光と体を包む人肌の温もりだった。


「――アギャッ!」


 突然の出来事に狼狽うろたえながらも周囲の様子を確認しようとしたが、目を開けるどころか指一本動かすことも出来なかったため。

 周囲の確認をあきらめて体内へ意識を向けるとヘルトに全て渡した筈の魔力がわずかながらも存在し、動けこそしないが体の調子もまるで若返ったかの・・・・・・ようによかった・・・・・・・


「あらあら起きちゃったのね、デュランちゃん。

 もう少しでご飯だから――ちょっとだけ待っててね?」


「あぅっ? ――あぅッ!!?」


 右も左も分からない状況に少し恐怖を感じていると何故か涙があふれ出してしまい、なんとか涙を止められないかと四苦しく八苦はっくしていると頭上から声が聞こえてきた。

 デュランは聞き覚えのない声の主が親し気な口調で話し掛けてきたことを不思議に思い、質問をしようと口を開いたが赤ん坊じみた・・・・・・うなり声しか・・・・・・でなかった・・・・・

 それが引き金となって無意識に目をらしていた疑問が次々と浮かび、それらを整理したことで一つの答えへと辿り着いた。


「ご飯の時間よ、私のデュランちゃん」


「……ぁう」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667985485871


 ――どうやら俺は赤ん坊に生まれ変わったようだ。


 3204236415211492 2103240412339385 2115338592







 剣神デュラン・ライオットが死んでから数日後、ヴィンデはデュランの墓の前で殺気さっきちながらクラウンと向かい合っていた。


「……デュランの墓へ何をしにきたのよ、このクズ。答えによってはその頭をち抜くわよ」


「魂のない抜け殻しかない場所へが輩が出向くなど墓参り以外にないでござろうw、ヴィンデ殿は年を取りぎて頭がおかしくなったでござるかww。

 ――まあ確かにその後でデュラン殿の肉体をうばうつもりではあるでござるがなww、お墓は元に戻しておくので安心するでござるww」


 ヴィンデは世界をこんな風に・・・・・・・・した元凶が・・・・・何を言ったのか一瞬理解できなかったが、意味を頭が理解すると怒りで顔を赤くめ上げながらリボルバーの引き金を引いた。


 ――バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ


 しかし穴だらけにしてやったクラウンの体はまたたく間に元へと戻り、リボルバーへ弾を再装填さいそうてんしようとしていたヴィンデを掴んで石床いしどこに叩きつけた。

 そのまま21240432030169934504のしろである花の妖精ヴィンデを破壊殺害し、邪魔者じゃまものがいなくなった後は墓参りをしてからデュランの遺体を取り出して歩き出した。


「まったくヴィンデ殿はしつこいでござるなw、そんなんだから好きな男に振り向いてもらえないんでござるよww」


「……どうせ、デュランはもう転生させてるんでしょ。

 なのに遺体も持って行くなんてろくでもないことに使うつもりなのは分かってる! そんなの絶対に許さない!!」


「――絶対に許さない・・・・・・・、だと」


 クラウンはそんなヴィンデの言葉に腹を抱えて笑った後、いつものふざけた態度を止めて真顔まがおでヴィンデの方へと振り返った。


「まるで我が輩を止められるかのようなことを言うじゃないか、剣神けんじん一条いちじょう刹那せつなをどんな形でもいいから助けてくれと願ったのは誰だったかなぁ――負け犬」


「――そ、それは」


「それと何か勘違いしているようだが、お前が我が輩のゲームに介入できるのはあくまでも主人公であるデュランの母親としてだけだ。

 21240432030169934504としての情報を使うことは許可していない、消えたいのならばこ・・・・・・・・・の場で消しても・・・・・・・いいのだぞ・・・・・?」


 クラウンはそうヴィンデをおどしながら手の平をヴィンデの方へ向けてきた。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667987422890


 ヴィンデはクラウンが本気で自身を消すつもりだと理解すると、悔しさで顔を歪めながらその場を無言で立ち去った。


「次のゲームできっと彼は・・我が輩に追いついてくる、あぁ――とても楽しみだ」


 ヴィンデが立ち去ったのを確認すると、クラウンはデュランの遺体を抱きしめてそのほおへ舌をわせながらその場から消えた。……キモい。

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