後悔

 デュランが大樹ユグドラシルの竜穴へと飛び込んだ後、あれほど荒れ狂っていた竜穴の魔力は一際ひときわ大きな爆発のような音がしたかと思えば静まり帰り。枯れてしまっていた大樹ユグドラシルも徐々に元の姿へと戻っていっています。

 こうして黒神達の引き起こした世界存亡の危機はデュランの手で全て阻止そしされましたが、その一部始終しじゅうは小型のドローンを通じて世界中の国々へ映像として流れていました。


 アイディール神国での黒神の復讐をする瞬間から始まり、僕達と黒神との会話、そして黒神との闘いとその決着、そして十年前の黒神とデュランの会話が流れた後。

 ヘルトが異空間へ連れて行かれるまでの闘い、ヘルトがいない状態で大樹ユグドラシルを守ろうとルイス達が奮闘ふんとうする光景、異空間に連れていかれたヘルトと大魔王達の闘い、この二つの闘いをデュランと僕が終わらせた光景、そしてデュランが暴走する竜穴へと飛び込んでその暴走が収まっていく光景。

 これら全ての映像が音声付きで世界中の国々で流れて大混乱がこったが、映像を目にして大樹ユグドラシルでの闘いへ援軍えんぐんとしてけつけてくれた神聖プライド王国の王様がしてくれた演説えんぜつのおかげで混乱による被害は最小限でんだ。


 それから一ヶ月の間。僕達はルイスさんのスミス王国でさわぎが沈静ちんせいするまでお世話になりながらデュランが帰ってくるのを待っていたけど、デュランが戻ってくることはなかった。

 それでもどこかできっと生きているはずだと信じて家族でスミス王国を旅立ち、世界中の国々や竜穴を回ってデュランを探し続けても見つからず。気が付けばデュランがいなくなってから半年が経っていた。

 もしかしたらデュランはもう死んでいるんじゃないかとこの頃には思い始めていたけど、それでもあきめきれなかった僕はデュランを探し続けて――ある竜穴でボロボロになった彼の上着を発見した。


 それを見つけた僕はもうデュランに会えないのだと悟って一晩中泣きじゃくり、たくさんのことを後悔した。

 その中でも一番後悔したのはデュランに愛しているとちゃんと言っていなかったことだ

 いつもずかしくて面と向かって大好きなんて言えなかったけど――こんなことになるのなら大好きって、きちんと言っておけばよかった。







となりすわってもよろしいでしょうか?」


「えっ、あ、はい。大丈夫ですよ」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667831842972


 僕はベルメーアの浜辺はまべにあるベンチへと座ってボーとしていたが、木製の杖をいているお兄さんからそう声をかけられて気のない返事をした後。

 ベンチの真ん中へ僕が座っているから杖のお兄さんが座れないのだと気が付いて少しあわながらはしによると、お兄さんは苦笑しながらベンチへとこしかけた。


「どうやらおどろかせてしまったようで、もう少し気を遣えばよかったですね。すいません」


「と、とんでもないです。僕の方こそベンチを占領せんりょうしてご迷惑めいわくでしたよね、本当にごめんなさい」


 僕がそうして誠心せいしん誠意せいい謝罪しゃざいすると、何故かお兄さんはおお袈裟げさに首を振った。


「迷惑だなんてとんでもないッ!! 私は正直貴女あなたのあまりの美しさに少しの間れていしまっていたくらいですから――まるで一枚の絵画かいがのようでした」


「アハハッ――ありがとうございます」


 僕のことをストレートにめるお兄さんの姿はまるでいつものデュランのようで少し悲しくなり、涙が出そうになったが。

 お兄さんの前で泣くわけにはいかないと服のそでで目をぬぐい、褒めてくれたお兄さんへお礼を伝えた。


「そう言えばどうして貴女のような綺麗きれいな人が、こんな所でものおもいにふけっていたのですか? いや、答えたくないのであれば答えなくても大丈夫ですよ。

 ――ただ気になっただけですから」


「そうですね……では少しの間、お話ししても大丈夫でしょうか?」


「えぇ、大丈夫ですよ」


 僕はお兄さんの返事を聞くとデュランとの出会いから話し始め、デュランはとてもメチャクチャな人で僕の暗くて苦しい人生を光りかがくものへ変えてしまった大好きな人だと言った後。

 エルフ族の里で結婚してから一緒に旅をしながら様々な場所で人助けをしたことを言い、最期はこの世界を救って死んでしまったことを伝えた。


「……立派な人だったんですね、そのデュランって人は」


「うん、僕の大好きな人。自分勝手で、優しくて――そんなデュランと一緒いっしょだったから楽しかった」


「おじょうさんッ――泣いて」


「えっ」


 僕はお兄さんからそう言われたことでようやく目からめどなく涙があふれ出していることに気が付いた。

 なんとか止めようと袖で拭い続けたが涙は一向いっこうに止まらず、服の袖が涙で変色へんしょくしてしまった。


「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛、お゛に゛い゛さ゛ん゛」


「……」


 どうしても涙を止めることのできない僕はお兄さんへ必死に謝ったが、お兄さんはそんな僕の姿を見つめながら頭をかいた後。


「――あぁ、もうめだめだ。アリスを泣かせるなんて、何をやってんだ俺は・・


 そう言いながら頭に片手を置いてから、そのまま上に引っ・・・・・・・・張った・・・


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667831835482


「あぁ、そのアリス。だましたような形になってごめ――」


「――デュランッ!!!」


「――イタァッ!??」


 僕は一瞬固まってからお兄さんの正体がデュランだったことに気が付くとそのまま抱きつき、デュランをベンチの上へと押し倒した。

 するとデュランが痛そうな声を上げたので、慌てて離れた。


「ご、ごめん。だ、大丈夫……デュラン」


「だ、だだ、大丈夫だからそんな顔すんなアリス。アリスを泣かせたことを思えば、こんな痛みはなんてことないから」


「――やっぱりどこか痛むんじゃない! 今すぐ治療するからそこで待ってて!!」


 僕はそう言いながら急いでデュランの所へ行こうとしたが、デュランは何故かかなり慌てながら両手を前に突き出して制止せいしした。


「……アリス、俺の魂はもうボロボロでさ。闇属性どころか光属性での治療も今はできないんだ、ごめんな」


「どうして、そんな」


 僕はデュランの話した内容に絶句ぜっくしていると、デュランはふるえる体で杖を持ち上げた後。あの暴走する竜穴の中で何があったのか、僕に教えてくれた。


「――竜穴に飛び込んだ後、俺は竜穴を汚染していた百足むかでの化け物を倒して竜穴を浄化しようとしたんだが。

 汚染が予想以上に深刻しんこくで普通のやり方じゃ間に合わないと判断した俺は自分の体をフィルターわりにすることでなんとか浄化を終わらせたが、流石にもう限界で動けなくてな。竜脈りゅうみゃくの中を流されて海底の竜穴から放り出されたんだ」


「それで、どうなったの」


 僕がそう聞くとデュランは僕の頭を優しくなでた後、続きを話し始めた。


「これはもう死んだって正直思ったんだが、天晴てんせいに助けられてなんとか近くの無人島へ辿り着くことができたんだ。それからいつものように魔力で体を治そうとしたら激痛が走ってな。

 天晴に見てもらったらもう魂が傷つきすぎていて魔力を使うのは止めた方がいいと言われてな、この半年間。体が治るまで無人島で暮らしてたんだ」


「……体は治ったの」


「あぁ、ただ無茶しすぎたのか手足がこんな状態でな。こんな姿をアリス達に見せたくなかったから天晴にこのマスクを創ってもらって別人として会いに来たんだ。

 ……本当にごめんな、騙したような形になって」


 デュランはそう言いながら頭を深々と下げていたけど、僕は生きて帰ってきてくれただけで嬉しいとデュランに伝えてから覚悟を決めた。


「デュラン、僕ずっと君に言いたくて、でも言えなかったことがあるんだ」


「うんっ、何を?」


 不思議そうにこちらを見ているデュランの方を見ながら僕は全力で叫んだ。


「――デュラン大好き!! 愛してる!!!」


 叫んでから僕は赤くなった顔を隠すためにデュランのお腹へ全力で抱きついた。

 デュランは目を丸くして少しの間固まった後、笑みを浮べて「俺もだアリス、愛してる」そう言ってから僕を抱きしめた。

 ――デュラン、おかえりなさい。 

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