存亡の秋

始源しげん魔法――シューティング・スターレインッ!!」


「『おや、随分ずいぶん見当違いな方向へ・・・・・・・・攻撃したね・・・・・。聖女様に剣神様』」


 アリスの放った流星の雨は黒神と魔物達を同時に狙った物だったが、黒神の現実改編で誰にも当たることなく地面や建物へ落ちた。

 デュランも黒神の首と魔物達を飛ぶ斬撃で同時に狙ったが見当違いな方向へ飛んでいったため、遠距離攻撃は決定打にならないと判断して突っ込んだ。


「ッ!? だったら!! 始源魔法――コメットチェイサーレインッ!!!」


「なるほど自動追尾ついびだんか、それは厄介だ。それではこうしよう」


 アリスはすぐに相手を自動追尾する彗星すいせいの雨へと攻撃を切り替えたが黒神は彗星を一カ所に集めた後、重力じゅうりょくを当てることでかき消してしまった。


刹那せつな一条いちじょう――紫電しでん


「どんな小さなすきでも見逃さない、流石だよ剣神――だが! 今は私の方が強いッ!!」


 デュランは雷のようなとんでもない軌道きどうで移動する刹那一条で彗星を回避しながら黒神へ斬りかかったが、黒神にあっさりと受け流されてしまった。

 そして隙のできたデュランの首を狙った黒神の一撃が予想以上のスピードで迫るのを目にしてもデュランは動揺せず、回転しながら受け流すことで再び黒神の首を狙った。

 しかし目に見えない何かへ衝突したことで攻撃をはばまれ、本能で危険を察知したデュランは一万倍の・・・・重力波をなんとか回避したが。そのあまりの威力に冷や汗を流した。


「――勝利しょうりだけをねがうならつるぎきばと変わりなし、つらぬがたじんみちまもくものひとという」


「――勝利しょうりだけをねがうならつるぎきばと変わりなし、すくいがたひとみちただみちびくものかみという」


 デュランは今のままだと太刀打ちできないと悟って天下無双の詠唱を開始したが、黒神も同じように詠唱を始めたことで目を見開いた。

 そうしているとアリスを重力波で黒神が狙ったため界波斬かいはざん――だんで防ぎ、お返しに黒神を気合きあいで吹き飛ばした。


無辜むこたみがため、つるぎとなりててきつ 」


すべてのたみがため、つるぎとなりてひとさばく――ッ!?」


 それでもダメージをまったく受けてない黒神の様子から恐らく重力のよろいを身にまとっているのだろうと予測し、飛ぶ斬撃を黒神へ向けて放った。

 黒神は何故今更こんな攻撃とでも言うように無視して詠唱を続けたが、その体を浅く切り裂かれておどろきながらも他の斬撃は回避した。


「ただ一筋ひとすじ閃光せんこうを、おそれぬのならるがいい――天下無双てんかむそうッ!」


世界せかいおお暗黒あんこくは、おそれるものすくうだろう――天下無双てんかむそう


 斬撃はブーメランのようにもう一度黒神へと迫るも、重力波で迎撃げいげきされてかき消された。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667661527415


 そしてお互いに天下無双の詠唱を終えると、超高速の戦闘がまくを開けた。


「さっきは驚いたよ、まさか重力の鎧を突破されるとは……何をしたんだい、剣神」


「ただの手品だ、分かったら大人おとなしく死ねッ!」


「……答えてないじゃないか、まあいいが」


 デュランは別に誤魔化ごまかしたつもりはなかったが黒神へは上手く伝わらなかったようだった。

 詳しく説明するか悩んだが態々わざわざ敵に教えることもないかと考え、そのまま黒神の首を狙った。

 ちなみに何をやったかと言うと斬撃を高速で回転させながら黒神の全身を巡る重力の流れに乗せるという、曲芸きょくげいと言っても過言かごんではない方法だった。……絶対に手品ではない。


「デュラン、僕が合わせるから全力で行って!!!」


「あぁ、頼んだぜ――アリス!」


「――やっぱりお前達は強いな、正直うらやましいよッ!!! 私は一人だからね!!!!」


 デュランはアリスが移動先へるハードプロテクションを足場として使うことで更に速度を上げて黒神を連続で斬りつけたが、その猛攻もうこうすらも黒神は最弱の能力を使って防ぎきった。

 しかし徐々に黒神の体へ傷が増えていき、最後には左腕を斬り飛ばされた。

 それでも現実改編を使ってその負傷を周囲の魔物へ押しつけ、戦闘を続行する黒神の姿にこのままだと勝てないと悟ったデュランは最後の切り札を切った・・・・・・・・・・


「持ってくれよ、俺の体ッ!! 鳳凰剣ほうおうけんだァァッッッ!!!!」


「何ィッ!? ――ガアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」


「デュランッ!??」


 鳳凰剣を使って更に攻撃速度を上げたデュランの手でとてつもないスピードで体を斬り刻まれ、何もできない黒神は現実改編で周囲の魔物へ負傷を押しつけ続けたが。

 やがて周囲の魔物がいなくなったことで黒神は目でとらえることすらもできない攻撃を防ぐことができなくなり、魔力で復活し続けることでなんとか生きながらえていたが。魔力が底をくのも時間の問題だった。


 ――いてぇなクソッ、意識がぶっ飛びそうだ。


 とはいえデュランの方も同じように限界が近づいていた。

 元より体と魂に負担を強いる天下無双へ更に鳳凰剣の重ねがけをしているのだから当たり前のことだが、普段天下無双を使っている時以上の痛みが全身を走り。

 今にも意識を失ってしまいそうな状態だ、長くは持たない。


「「――アアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」」


 だからこそ。ここからは意地と意地のぶつかり合いであり、耐え抜いた方がこの闘いの勝者となる。

 けれど――


「始源魔法――ヴィクトリーソングッ!! 今だデュランッ!! けェェェッッッ!!!!!!!」


「ッ!? ――愛してるぜェッ!! アリスゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!」


 ――黒神は一人きりだったがデュランにはアリスがいた、それ故にこの闘いの勝者はデュランである。

 アリスの始源魔法で肉体を更に強化されたデュランは黒神の魔力を削りきり、黒神へとどめをした。






「――ゲホッ、ゲホッ、ありがとう。アリス」


「――デュランッ!! 僕が治療するからしゃべらないで!!!」


 デュランがズタボロの体をなんとか治そうと四苦八苦していると近づいてきたアリスが光属性で治療を開始したのでお礼を言ったが、涙をボロボロと流しているアリスの顔が視界に入ったデュランは目を見開いて固まった。


「後でたくさんお説教するんだからッ! なんであんな無茶したのか問い詰めてやるんだからッ!! だからッ!!! だから……お願い、死なないで。

 デュラン――僕の側からいなくならないでよぉ」


「……ごめん、アリス」


 デュランはそう言いながら自身の体へしがみつくアリスにそうつぶやくのが精一杯だった。

 何故ならもう己の命が長くないことは誰よりも一番分かっていたから、死なないとは口けても言えなかった。

 何よりもアリスはハーフエルフ・・・。人族の数倍の寿命を持つエルフ族であることを考えれば、寿命の問題がなくても結局人族であるデュランはアリスをこの世に残して旅立つのだ。

 この問答もんとうを軽々しくあつかうことなど出来なかった。


「――見事だ、剣神。よくぞ、よくぞ、私を倒してみせた。

 この闘いの映像は私の力で世界中のありとあらゆる国々へ届いている、これならば確実に世界は変わるだろう」


「……お前。やっぱり負けるって分かっていて闘ったんだな、最初から」


 体が崩壊ほうかいしていってるにも関わらずまるで倒されるのが目的だったとでも言うかのような黒神の口ぶりから、デュランは闘う前感じた違和感の正体を悟ってそう問いかける。

 黒神はその言葉を耳にすると涙が出るほど笑った後、優しげな笑顔を浮べた。


「あぁ、その通りだ。お前達を見ていて私はやり方を間違えていたことを悟った――しかし、もうその頃にはたくさんの命をうばってしまっていた。

 だからこそ、死ぬ前に何かをさなければいけないと思った。このままでは死んでも死にきれなかったからな」


「……それでアイディール神国の連中を皆殺しにして後戻りできなくしたのか、己の退路を断つために」


 デュランは今自分がどんな表情をしているのか分からなかったが、こちらを見ている黒神がひどく驚いているのを目にし。

 きっと辛気しんきくさいつらをしてるんだろうなとさっしてため息を吐いた。


「そんな顔をするな剣神、馬鹿ばかな男が自業自得じごうじとくで死ぬだけだ。思いっきり笑った方がいいぞ?」


「笑えるかよ、バカじゃねぇの。お前」


「デュラン、まだ立っちゃダメッ!! 死んじゃうよ!!!」


 デュランはそう言ってから心配するアリスをなだめながら黒神の元までいくと己が魔力を吸収する際、あまった残りカスである闇属性の魔力を黒神の体へと少し流し込んだ。

 そしてマヌケ面をしている黒神を一瞥いちべつしてからアリスに大樹ユグドラシルへ連れて行ってくれと頼んだ。


「待て剣神! 何のまねだこれはッ!! 万が一私が貴様を殺そうとしたらどうするつもりだったのだ!!!」


「うるせぇなっ! 同情したんだよ!! 悪いかッ!!!」


「なっ!??」


 デュランは正直やってからやっちまったと思ったが、もう黒神は死ぬのだと開き直ってそう叫んだ。


「……自分でも意味不明な行動してるのは分かってるけどよ、どうせお前はもう死ぬんだ。

 最期くらい。苦しまなくてもいいだろと、思っちまったんだよ」


「――馬鹿な男だな、お前は。私なんかに同情するなど」


「もう知っとるわッ! 大人しくそこで死んどけ、バーカッ!!」


 黒神はそう言いながら自身の息子を助けるため、アリスと共に飛び立ったデュランを見送り。少しの間笑った後、安らかな顔であの世へと旅立った。

 ――こうして死んだ国民のため走り続けた男は、最期にほんの少しだけ救われて死んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る