鳳凰剣

 アイディール神国で決戦の火蓋ひぶたが切られたのと同時刻、大樹ユグドラシルでも闘いが始まろうとしていた。

 ゴリラの大魔王ストロングをリーダーとした大魔王五人に魔王三十人が魔物の軍勢百万と共に大樹ユグドラシルを急襲きゅうしゅうし、今の世界を終わらせようとしていた。


「――大魔王共、お前らの相手はこの私だッ!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667365676242


 そんな彼らは七大竜王のリーダーである光竜ライオードではなく、たった一人の人族の剣士を相手に攻めあぐねていた。

 転移などの能力をもちいてもまるで背中へ目が着いているかのように反応して斬りせ、対象を認識して発動する能力の魔物は残像ざんぞうすらもとらえることができず。そのまま断ち切られる。


「それ以上やらせるものか!!! 死ねェッ!!!!」


「――刹那せつな一条いちじょう


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330665321564779


 かつて筆頭大魔王が目にしたのと同じ光景を見せつけられたストロングは戦力をこれ以上減らさせないため、その拳を握って襲いかかったが。

 瞬時に反応した剣士――ヘルト・ライオットの一刀でその体を斬られた。


「……流石は剣神の二番弟子、強いな。だが我の能力は最強の能力、その程度の一撃で倒せはせんぞッ!!」


「最強の能力か、確かに父上の言っていた通り。まるで巨大な山を斬ったかのような手応えだ。

 だがお生憎様あいにくさまだったな、私もなれるんだよ! 最強に!! ――鳳凰剣ほうおうけんッ!!」


「な、何ィッ!? そ、そんな虚仮こけおどしが我に通じるか!!!」


 それでもヘルトの一撃では小さな傷跡をつけるのが精一杯だったという事実でストロングは勝利を確信して笑みを浮べたが、ヘルトの全身の筋肉と魔力が鳳凰剣と言った同時にふくれれ上がったのを感じ取り。

 そのあまりの力に恐怖して一瞬足を止めてしまったがなんとか己を鼓舞こぶしてヘルトへと襲いかかるも、その体を真っ二つに斬られて即死し。二度目の死を迎えた。

 しかしヘルトはそれでもよみがえってくる者がいることを知っていたためその体をさいじょうに斬り刻み、嵐流刃らんりゅうじんで消し飛ばした。


 ――鳳凰剣は天下無双をどうしても使えなかったヘルトが開発した技であり、デュランが一日中やっている筋肉の破壊と再生を超高速で繰り返えし。強くなり続けるという奥の手だった。

 破壊と再生を繰り返すことから不死鳥とも呼ばれる伝説の霊獣である鳳凰の名前を取り、鳳凰剣と名付けた技である・・・・

 技、つまり技術であるという特性上魔法とも併用へいようができるという恐ろしい事実もあり、エルフ族の血を受け継いでいるヘルトは当然のごとく精霊魔法が使えるため。ストロングを消滅させた後はアリスの魔法であるスカイジャッチメントを魔物の軍勢へと振り下ろした。


 ……ちなみに本来鳳凰剣と叫ぶ必要はないが、デュランの天下無双に憧れているヘルトは技を使う際は必ずそう叫んでいた。


「――ストロングが倒されただと!?? とんでもない奴だな、次世代の・・・・剣神は・・・

 だが、これならばどうだッ!!!!」


「次世代の剣神?! ――って、しまった!??」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667365784152


 ヘルトはそのまま別の大魔王へと襲いかかったがその相手から言われた次世代の剣神という言葉が嬉しくてつい動きを止めてしまい、かめの大魔王グラビティが能力を発動するすきを与えてしまった。

 ヘルトはグラビティに三百倍の重力波を上空から叩きつけられ、一気に地下三千メートルまで送られてしまった。


「クソッ、脱出できない。ならばッ!! 奥義おうぎ――嵐流界刃らんりゅうかいじんッ!!」


 重力波から自力で脱出することができず、そのままだと冥界めいかいまで直送されてしまうと判断したヘルトは嵐流界刃破で斬り返して脱出した後。

 超スピードで地上へ戻るとストロングと同じようにグラビティを賽の目状へ斬り刻んでから嵐流刃で消し飛ばした。


「ぐ、グラビティまでも、ば、化け物め!! 音でその体を粉々にくだいてやるッ!!」


「刹那一条――紫電しでんッ!!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667365731537


 ヘルトは白鳥の大魔王サウンドソングが放った耳で聞き取ることができない超音波による攻撃を本能で察知さっちすると、雷のようなとんでもない軌道きどうで移動する刹那一条で回避しながらサウンドソングを一刀両断し。賽の目状へ斬り刻んでから嵐流刃で消し飛ばした。


「――サウンドソングッ!? だったら災害はどうだ!!! 死ねェッ!!!!」


界破斬かいはざん――だんッ!! 刹那一条ッ!!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667365740635


 地震や雷、津波などの災害がなまずの大魔王ディザスターによって放たれ、その軌道の先へ大樹ユグドラシルがあるのを視認したヘルトはその攻撃を避けず。

 巨大な界破斬で地震以外の全てを飲み込んで大樹ユグドラシルに被害が出るのを防いでから刹那一条でディザスターを斬り、賽の目状へ斬り刻んでから嵐流刃で消し飛ばした。


「ヒィッ! ば、化け物だ!! こ、恐いよぉ……」


「嵐流刃ッ!! ――何ィッ!??」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667365725221


 ヘルトは最初に感じた五つの強大な気配の持ち主の最後の一体であるねずみの大魔王フェーブルを斬ろうと近くまできたが、自身へあわれに思ってしまうほど怯えているフェーブルの姿を見つけてしまい。

 気のせいだったかと思いながら嵐流刃で消滅させようとするもフェーブルの体へ当たった嵐流刃はきりのように散ってしまい、ヘルトはその光景を視界へ入れたことで思わず動きを止めてしまった。


「ッ!? ――誰だッ!!」


「……なるほどわたくしの完璧な奇襲きしゅうを避けますか、これは大魔王七人で・・・相手しなければなりませんね。

 レスレクシオンッ!! 復活させなさい・・・・・・・!!!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330664561736495


 そんな一瞬のすきを逃さずにヘルトを背後から奇襲したのは、かつてプライド王国の闘いでデュランの手で完全消滅したはずの筆頭大魔王――ウロボロスだった。

 そしてウロボロスはそうつぶやいた後、隣へ立っている鹿の大魔王レスレクシオンにそう命令した。


「――了解しました、ウロボロス様」


「させるかッ! 刹那一条――紫電ッ!!」


「『おや、見当違いな方向・・・・・・・へ急に進みましたね・・・・・・・・・。どうしたのですか剣神殿?』」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667365701181


 ヘルトは復活というのが何を意味しているのか分からなかったが本能的にさせてはならないと判断し、レスレクシオンを斬るため刹那一条を使って近づこうとしたが。

 ウロボロスの現実改編で見当違いな方向に進んでしまい、慌てながらもう一度突っ込んで斬ろうとするも横から飛んできた重力波で・・・・阻止そしされた。


「申し訳ございません、筆頭。我は貴方からリーダーの地位をたくされたにも関わらず、醜態しゅうたいをさらしました。

 この闘いが終わったら如何様いかような処分でも受けます」


「いえ、次世代の剣神が相手では無理もないことでしょう。

 剣神に敗北したのはわたくしも同じですしね、ここからは大魔王一丸いちがんとなって闘いましょう」


「おぉ、やはり貴方こそが筆頭大魔王。完璧な策士、我をこまとしてお使いください」


 ヘルトは先程殺したはずの大魔王達全てが復活しているという悪夢のような光景に目を見開いたが、復活したのならばレスレクシオンとか言うのを殺してからもう一度全員殺すと覚悟を決める。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667365696015


 しかしヘルトは大魔王七人と共に気が付けば黒一色の不思議な空間へと連れて来られていた。


「よくやりました魔王ファンシー、後は見物でもしていてください」


「……言われずともそうさせてもらう」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667365705580


 ヘルトは新たに現れたドラゴンの魔王ファンシーとウロボロスの会話を聞いたことで、ここはファンシーの能力で創り出された空間だと知ることができたが。

 この空間は空気がなくて呼吸ができない上に充満じゅうまんする闇属性のせいで魔力の回復もできないため、魔力で呼吸するための空気を創り出しても鳳凰剣へ魔力を使っていた影響えいきょうでそれほど持たない。


 ――その時間は約一時間、それがこの空間でヘルトが生きていられるタイムリミットだった。


「『おっと。見当違いな方向へ・・・・・・・・剣を振ってどう・・・・・・・したんだい・・・・・、剣神殿?』」


 そう悟ったがそれでもこの七人を引きつけていれば大樹ユグドラシルを防衛できる可能性が上がるため、ヘルトは全力で闘ったが連携する大魔王の力は脅威的きょういてきであり。徐々にヘルトは追い詰められて行った。

 それでもタイムリミット寸前まで全力で抵抗したが、ついに魔力がそこいて大魔王達の攻撃で吹き飛ばされた。


「――やっと倒れましたか、まったっててしぶとかったですね。

 ですが貴方が死ねばとても強い魔物へ生まれ変わるでしょう!! ですのでこれからはわたくし達の仲間として歓迎かんげいしましょう!!!」


「……にん、げん、を。なめ、る、な、よ」


「おや、まだしゃべれるのですね。敵としてあっぱれです……このまま死ぬのを待ってもいいですが何かを仕掛けてくるかも知れませんね。

 ――ここは貴方を押しつぶして確実なる安全としておきましょう!!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330664564733195


 ヘルトは落ちてくる巨大な山をみながらここで自身が死ぬことを悟り、目を閉じた後。周囲の闇属性の魔力・・・・・・を取り込みながら・・・・・・・・立ち上がった。

 そして最後の力を振りしぼって嵐流界刃破を放ち、七人の大魔王達をなぎ払った。


「ちち、う、え、はは、う、え……ごめ、ん」


 ヘルトは最後の最後まで未熟者みじゅくものだった己をじながら涙を流し、空間の崩壊に飲み込まれていった。……そして誰もいなくなった。

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