亡国

 男は愛する仲間共に創った国が好きだった。

 表通りを歩く者達からはめとさげすまれるスラム街の仲間達と共に誰もが幸せに生きられる国を創り出すのだと一から努力し、きずき上げた血と汗と涙の結晶であり。男と仲間達のきずなそのものだったから。

 そうして順風満帆じゅんぷうまんぱんに国を運営していた男はある時、多種族のことで悩んでいた。


 スラム街の悪童あくどうにもき出しなどの支援をしてくれた起源きげん統一教団とういつきょうだんが彼らのことをように言っていたため、それを何も考えず受け入れて今までごしてきたが。

 一国の王として多種族の者達と関われば関わるほど彼らもただの人間なのだと知り、非道な扱いを受ける彼らのことを見て見ぬふりをすることが出来なくなってしまった。

 そして真の意味で誰もが幸せになれる国だと言うのならば、彼らも受け入れるべきなのではないかと思うようになっていった。

 ……しかし彼らを助けると言うことは、超大国であるアイディール神国を敵に回すことを意味する。

 助けるというのならば仲間と共に創り出した国を滅ぼされることになるかも知れないと考えた男は仲間達を集め、自身の覚悟を語ってそれでもついてきてくれるかと問いかけた。


『――お前達! 無謀むぼうな挑戦だと分かっていても私はもう見て見ぬふりは出来ない!! この国の王位を退しりぞくことになったとしても私は多種族彼らを助ける!!! ついてきてくれるか!!!!』


『『『『『――当たり前だァッ!!!!』』』』』


 そうして男の国――ウィンクルム連邦国は多種族と共に数々かずかずの困難な道を歩み、他の国々の多種族へ対する扱いを変えてしまうほどまでに大きく力強い国へと成長した。

 多種族は男の国を最後の楽園とひょうしてウィンクルム連邦国へと集まって人族と共に暮らし、アイディール神国でさえも無視できない存在となった。

 だが人間という者は正義正しさという凶器を手にどこまでも残酷ざんこくなことができる生き物である――ウィンクルム連邦国はアイディール神国の放った百発の核ミサイルによって一夜で滅ぼされた。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667299831457


 最新鋭の技術を使って創り出された小型の核ミサイルは一発一発が太陽並みのエネルギーを秘めており、男の仲間や国民である多種族と人族を吹き飛ばし。

 運良く生き残った者も重度じゅうど放射線ほうしゃせん被爆ひばくしたことで苦しみもがいて死んでいった。

 光属性に耐性を・・・・・・・持たなかった男は・・・・・・・・幻想を司る闇属性の力で生き残ったが、目の前で自身よりも幼い子供が、友が、愛する国民が。死んでいくのを何もできずに見守ることしか出来なかった。


『――ウワアアアアアアアアァァァッッッ!!!!!!!!

 死ぬなお前達!!!! お願いだから死なないでくれェッ!!!!』


『おう、さま、あり、がと、う……ぼく、たち、を、しあ、わせ、に、して、くれ、て』


めてくれェッ!!! お前達を助けることもできない私を――そんな目で見ないでくれェェェッッッ!!!!!!』


 この日。全ての者達が自身へ口々に感謝をしながら死んでいくのをいていることしかか出来なかった男は己の無力さを呪い、復讐ふくしゅうの鬼となったが。

 国民達の感謝がただアイディール神国を滅ぼすという愚行ぐこうに走るのを止め、恒久こうきゅう的な世界平和を創り出すのだと。それだけを目標に生きてきたが。

 男は剣神という真の英雄と出会ってしまい、彼が世界を変えてしまうところを目にしたことでアイディール神国への怒りを抑えられなくなった。

 ――それ故に今夜、アイディール神国は滅びることになる。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667299867434


 そして男――黒神ナイト・エンペラーはアイディール神国の上空であの日と同じ百発の核ミサイルを現実改編で創り出し、アイディール神国の全国民へ聞こえるように空間をつなげた上で叫んだ。


「――アイディール神国の国民達よ、私はウィンクルム連邦国の王だ!! この百発の核ミサイルが見えるかァッ!!! あの日お前達が私の国であるウィンクルム連邦国にったのと同じ物だ!!!!

 お前達にも愛するものを奪われる気持ちを味わせるために三十年待った!!!

 あの時の私と同じ地獄に苦しむがいい!!!! 死ねエエエエエエエエッッッ!!!!!!」


 そんな黒神の言葉を耳にしたアイディール神国の国民は全員が例外なく、あの日のウィンクルム連邦国の国民達のように苦しみもがいて死んでいった。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667299916129


 そして黒神の言葉を宣言通りにしないため大樹ユグドラシルで待機していたデュラン達が事態じたいへと気が付き、デュランとアリスの二人がアイディール神国に着いた時。アイディール神国はもう既に黒神の手で滅ぼされていた。

 だがかつてアイディール神国の国民だった魔物を従えながらデュラン達を待ち受けていた黒神は、何故か・・・配下の大魔王や魔王を連れていなかった。


「来たか、剣神。悪いがもう少しだけ感傷かんしょうにふけらせてくれないか。

 やっと三十年かけた復讐が終わった所なんだ」


「……お前の叫び声が大樹ユグドラシルまで届いてきた。

 その様子だとお前は本当にウィンクルム連邦国の王だったんだな、なんで俺を待っていた」


 デュランがそう言うと黒神は笑みを浮べながら「まあ、そう焦るな。すぐにでも話してやるから」と言った後、デュラン達を滅びた国には不釣り合いなほど綺麗なテーブルとイスへと案内した。

 デュランは怪しく思いながらも何を企んでいるのか分からなければ対処のしようがないと考え、アリスと共に大人しく座った。


「さて、何から話せばいいか考えるのに時間を使ってもいいのだが。客人相手にそれは失礼だろうからな、結論から話そう。

 ――私の名前はナイト・エンペラー。このアイディール神国に滅ぼされたウィンクルム連邦国でかつて王をしていただけの、つまらん男だ」


「……ウィンクルム連邦国は百発の小型の核ミサイルで跡形もなく吹き飛んでた。それは旅の途中立ち寄った僕とデュランも見ている。

 ナイト・エンペラー、君はどうやって生き残ったんだい?」


 そうアリスが言い返すと黒神はその言葉を予想していたのか「簡単な話だ、私も生まれつき。剣神と同じ体質だったのだよ」とつぶやき、それを耳にしたデュランは驚きのあまり固まったしまった。


「もっとも、私の場合は光属性の方に耐性がないのだがね。それとなんで待っていたのかか?

 それに関しては簡単な話だよ、私は今の世界はこのままで本当に恒久こうきゅう的な世界平和が実現できるのか悩んでいる。

 だから剣神と闘って見極めようと思うのだ、今の世界は存続するべきなのかをね?」


「……俺にあの時最終目標を教えたのは確実に復讐を遂げるためだったんだな、アイディール神国がそれほど憎かったのか。黒神」


 その言葉を聴いた黒神は拳でテーブルを叩き割りながら「当たり前だ! 憎いに決まっているだろう!! 奴らは私から全てを奪ったのだから!!!」と叫んだ。


「……だが、私はお前と――剣神と出会うまで、復讐をげることが正しいのか分からなかった。

 そのために己の憎悪を押さえ込んで戦争のない恒久的な世界平和を創るのだと、彼らの感謝へむくいるため走り続けてきたが。

 剣神が世界を変えてくれたことで私は復讐に走ることが出来た、感謝する」


「黒神、お前は――」


 デュランはその言葉を聴いて何かを言おうとしたが、黒神はもうおしゃべりは終わりだと言うかのように腰の刀を抜き放ちながらイスから立ち上がった。


「――私達の因縁いんねんを終わらせよう、剣神」


「……俺は世界が滅ぼうが存続しようが正直どうでもいい、だがなッ!! アリスの、いや――俺の大切な者達が愛する世界を壊そうとするのならば!!! 容赦ようしゃしないぞ、黒神ッ!!!!」


「デュラン、僕が援護するから全力で闘って!!! 始源しげん魔法――シューティング・スターレインッ!!」


 こうして決戦の火蓋ひぶたは切られ、世界存亡をかけた闘いが始まるのでした。

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