武闘会

 酒呑童子が起こした事件を父上が解決してから三日後、復興ふっこう祝いの武闘会が開かれることになった。

 私は最初は出ないつもりだったが、決勝戦の勝者には剣神である父上とのエキシビションマッチがあると知って参加を決めた。

 そして力自慢の鬼人族を相手に私はなんとか決勝戦まで勝ち進み、武闘会の会場で父上の刀である天晴様と向かい合っていた。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667188747144


「天晴様! 今日は胸をりさせてもらいます!!」


「借りるほどないけどいいよ~~、ご主人様と闘う前のウォーミングアップだから優しくしてあげるからね」


 私は天晴様がこの決勝戦を勝ってから父上と闘うことしか考えていないその言動に青筋を立てたが、それくらいの実力差があるのだと頭を冷やしてから拳を構えた。


「――刹那せつな一条いちじょう


「ぐっ、だりゃッ!!」


 天晴様の姿が消えたとしか思えない正拳せいけんきを両手でつかみ取り、天晴様の体を引っこ抜くように勢いを流し。

 そのまま床へ叩きつけようとしたが、天晴様は空中で体勢たいせいととのえてあっさりと着地してしまった。


「ッ!? ……流石はご主人様のご子息しそく、やりますね」


 ――パンッ


 私は天晴様の賞賛しょうさんに返事をしないまま天晴様の目の前で手の平を打ちらした。


「えっ、あれ?」


「――やああああっ!!!」


「うわぁっ!!? ――ゲホッ、ゲホッ」


 私は天晴様が猫だましで体勢を崩したのを目にするとすぐさま正拳突きを放ち、天晴様の胴体を打ち抜いた。

 元々は刀である天晴様も息はしていたようで息を荒げている中、二発目の正拳突きを放ったが避けられてしまった。


「……すいませんヘルト様、どうやら貴方をあなどっていたようです。ここからは本気でいきます」


「――こい! 勝つのは私だッ!!」


 私に対してそう言った天晴様の言葉は事実だったようで手足で同時に・・・闘いを仕掛しかけてくるその連撃は残像ざんぞうすらもとらえることが出来なかったが、気配と本能だけでなんとかわし続けるも一瞬のすきを突かれて吹き飛ばされた。


「ぐっ、まだまだァッ!! だあッ!!」


界破斬かいはざん――だん


「――えっ ガッ!???」


 それでも空気を蹴って突撃しながらもう一度天晴様へ攻撃したが確実に命中したと思った攻撃はすり抜けて・・・・・しまい・・・、無防備な背中への攻撃で私は床に叩き落とされた。


「おぉ~と、これは勝負ありかァッ!」


「――まだだッ! まだやれる!!」


 すさまじい痛みで私は少しの間気を失っていたが実況の声で目を覚ますと、負けん気だけで立ち上がって拳を構えた。


「そうですか、では終わらせましょう――嵐流刃らんりゅうじん


「ッ!? ――嵐流刃ッ!!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667188729146


 私は天晴様が放たれた嵐流刃を嵐流刃で押し返そうとしたが力の差がありすぎて無理だったため上側になんとか流したが、そのエネルギーは天井付近で爆発し。天井の一部を吹き飛ばした。


「――刹那一条。楽しい闘いをありがとうございました、ヘルト様……また今度、やりましょうね」


 私は嵐流刃を受け流すのに精一杯だったため天晴様の攻撃へ反応できず、体を袈裟けさりに斬られて倒れた。

 自身の血が勢いよく傷口からあふれ出るのをどこか他人事のように見ながら「父上と、闘いたかったなぁ」とつぶいた後、私の意識は暗闇くらやみに落ちていった。







 意識を取り戻した私が一番最初に視界へ入れたのは、こちらを心配そうに見つめる杏香きょうかの顔だった。


「……杏香? そうか、私は負けたのか。杏香はどうしてここに」


「べ、別にヘルトが心配で看病かんびょうしに来たんじゃないわよ! ただ無様ぶざまに負けたことを笑いに来ただけなんだからね!! 勘違いするんじゃないわよ!!!」


「そうか、看病してくれたのか。ありがとう、杏香」


「///~~ッ!??」


 私は手ぬぐいを持っている杏香の姿を目にして看病してくれたのだと悟り、お礼を言ったが何故か杏香は顔を真っ赤に染め上げて固まってしまった。

 なんでそうなったのか私には分からず思わず首をかしげてしまったが、私は勝者である天晴様を称えるため急いで会場へと戻ることにした。


 するとそこには――


「――やだやだやだァッ!!? 私がご主人様と闘うの!!! 反則なんてしてないもん!!!!」


「しょうがないだろ、お前は人間の姿をしていても武器なんだから。それにこの大会は武闘会だ・・・・

 出来るからって手刀で相手を斬ったらダメだろ、常識的じょうしきてきに考えて」


「そ、そんなぁ――うわああぁぁぁんッ!!!!」


 ――何故か審判しんぱんである父上へすがりついて泣き叫ぶ天晴様の姿があった。

 訳が分からない状況の私がしばらく固まっていると、耳に入ってきた二人の会話で天晴様が私を斬ったことで反則負けになったのだと理解した。

 私は反則負けになった天晴様が審判である父上へすがりついて泣き叫んでいるのを複雑な感情で見ていたが、負けは負けだと己を納得させてから父上の元に向かった。


「父上ッ!! 少しよろしいでしょうか?」


「うんっ? どうしたヘルト」


 父上がこちらへ視線を向けたのを確認すると大きく息を吸ってから叫んだ。


「この武闘会は! 武器の使用を制限するルールはあっても手で相手を斬ることは禁止されては・・・・・・いません・・・・!! ですので天晴様と闘ってあげてくださいッ!!!」


「……お前はそれでいいのか、ヘルト」


「――はいっ!!」


 私が面白そうに笑っている父上へそう言うと、父上は私の頭をなでてから天晴様の勝利を宣言した。

 そして天晴様に向き直ると構えを取らず、ただの気合きあいだけで天晴様を吹き飛ばした。


「それじゃあ天晴、かかってきな。少し遊んでやるよ」


「はいっ! 胸をりさせてもらいます!!」


 天晴様がそう言うと同時に正拳突きを放ったが再び気合いだけで相殺されたかと思えば父上がその手を掴み取り、片手で投げ飛ばしてしまった。

 天晴様はなんとか体勢を整えようとしたが気合いで動きをふうじられ、そのまま床に叩きつけられた。


「ッ!? まだですッ!!」


「そうだなまだだ・・・。俺が掴んだのだから、お前に体の自由はない」


 天晴様はそれでも諦めずに立ち上がろうとしたが父上の手で動作を起こす前の段階で封殺され、立ち上がることすらできなかった。

 しばらくそうして二人が繰り広げていた見えない攻防は天晴様が体から衝撃波しょうげきはを放ったことで終わりを告げ、なんとか天晴様は立ち上がることができたが。

 私には見えないどころか音すらも聞こえない父上の連撃で天晴様は倒れし、しばらく時間が経っても立ち上がらなかった。


「……たぬき寝入ねいりなのは分かっている、時間の無駄むだだから早く立ち上がれ」


「……ご主人様、私はこれでも結構意識を失っていましたからね。狸寝入りじゃないです」


 私は中々天晴様が立ち上がらないので心配していると父上がそうつぶやき、それに答えるかのよう天晴様は立ち上がった。

 それから三十分間。父上の一方的な攻撃に天晴様は何度も床へ倒れましたがその度立ち上がり、徐々に倒れる回数が少なくなってきた頃。

 父上は唐突に「面倒くさくなってきたし、そろそろ終わらせるか」とつぶやき、何をしたのかは分かりませんでしたが天晴様が刀の姿へ戻るほどのダメージを与えました。


「――き、決まったァッ!! 勝者は剣神デュラン・ライオットッ!!! 最強はやはりこの人だアァッ!!!!」


 私はそんな実況の叫び声を聞きながらいつか父上に勝ちたいと思いましたが、父上へ育ててもらったおんを返すため。

 勝ちたいでは・・・・・・なく勝つんだ・・・・・・と決意を新たにし、くやし涙を流しました。

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