卑怯者

「まずは剣神貴様からだッ!!」


「――ッ!」


 デュランはそう言いながら目の前に迫っていた酒呑童子の金棒かなぼうが途中で進行方向を変え、隣のアリス目がけて振り抜かれたのをなんとか受け流した後。

 陽動ようどう四肢ししの全てへ高速の一撃を入れると――それらはあっさ・・・・・・・りと命中した・・・・・・


「グワァッ!??」


「――勝利しょうりだけをねがうならつるぎきばと変わりなし、つらぬがたじんみちまもくものひとという」


 デュランは陽動だったはずが余裕よゆうで命中してしまって動揺したが、例えわなだとしても絶好ぜっこうの機会を逃してなるものかと天下無双の詠唱を開始した。

 そして痛みから体勢たいせいを立て直せていない酒呑童子の目を斬り裂き、返す刀でその首を狙ったが。その一撃は大きく後ろへ距離を取ることで避けられてしまった。


無辜むこたみがため、つるぎとなりててきつ 」


「ガアァッ!! ――貴様アアアアアアッッッ!!!!!!!!!」


 ただあまりにもすきだらけだったので詠唱を続けながら首へ数十の飛ぶ斬撃を放ってみると、びっくりするほど簡単に酒呑童子は激怒した。

 そして地面が陥没かんぼつするほどのみ込みで一瞬でデュランの前へ現れ、その金棒を振り抜いたがやはり技術が未熟みじゅく容易よういに受け流せたため。

 天晴を上空へ投げて酒呑童子の意識をそちらに向けさせてから脇差わきざしを抜き放ち、両手で先程斬りつけた目の傷へ深々と突き立てた。


「――グワアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」


「ただ一筋ひとすじ閃光せんこうを、おそれぬのならるがいい――天下無双てんかむそう


 脇差しを酒呑童子の目から抜くと同時に天下無双の詠唱が終わり、落ちてきた天晴を受け止めて二刀流になると。脇差しで金棒をはじき飛ばしてから天晴で胸の宝玉ほうぎょくを貫こうとしたが。

 本能からか宝玉目がけて突き出した天晴を酒呑童子は拳で弾いてから距離を取った。


奥義おうぎ――界殺かいさつッ!」


「ッ!? ――嵐流界刃らんりゅうかいじんッ!!」


始源しげん魔法――ハードプロテクションッ!」


 そして全身の筋肉を隆起りゅうきさせながら金棒を上段に構えた後、酒呑童子はそう言いながら金棒をデュラン目がけて振り抜いた。

 デュランは周囲を破壊しながら迫ってくる一撃へとっさに嵐流界刃破を放つことでなんとか相殺することができたが、その影響で発生した二次被害までは防げなかった。

 しかしアリスがこの十年で新たに開発した始源魔法でなんとか余波を封じきり、大江おおえ山が崩壊するのは防ぐことができた。


冥界めいかい亡者もうじゃ共よ、今こそよみがえるり。現世げんせを飲み込め!」


「なっ!? ――嵐流界刃破ッ!!」


「始源魔法――シューティング・スターレインッ!」


 デュランは酒呑童子が金棒を天高くかかげてそう言うと同時に地面を突き破りながら現れた亡者の群れへ動揺したが、それよりも酒呑童子を殺すのが最優先だと判断し。アリスに視線で亡者の対処を頼んでから嵐流界刃破を酒呑童子目がけて放った。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667141371805


 そしてアリスは流星をした一撃の雨を・・放ち、亡者の群れを飲み込んで消滅させた。


「奥義――破界殺ッ!!」


始源しげん魔法――ハードプロテクションッ!」


 しかし酒呑童子が再び破界殺という技を放って嵐流界刃破を相殺されたたが、余波はアリスがなんとかすると信頼していたので。

 間髪かんぱつ入れずに空間を斬ることで酒呑童子の核であるを宝玉を斬ろうとするも、酒呑童子は分身することで斬撃を交わして逃げ出した。


「あの野郎! 逃げやがった!! ――アリス、大丈夫かッ!??」


「デュランッ!? あっちはヘルト達がいる天幕の方向だッ!! 僕はいいから速く追いかけて!!!」


「――クソッタレめッ! そこで動かず待ってろよ!!」


 デュランは大量の分身を出しながら逃げ出した酒呑童子を追いかけようとしたが、脂汗あぶらあせを流しながら座り込んでいるアリスを心配して足を止めた。

 だがアリスからヘルト達が危ないという事実を知らされ、苦虫をみ潰したかのような表情でアリスを置いていく決断を下し。じっとしているよう言ってから酒呑童子を追いかけた。


「剣神!! 死ねぇ!!!」


邪魔じゃまだァッ!! そこをどけェッ!!!」


「「「グワァッ!??」」」


 そうすると酒呑童子とまったく同じ姿をした分身達がデュランを取り囲み、本体を追いかけさせまいとしていたがすぐに全員殺すと空間を斬り。

 天幕の近くへと移動しようとしたが、地面の中に隠れていた分身の手で邪魔されてしまった。


「ウザいんだよッ!! とっとと死ねぇ!!!」


「「「グワアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」」」


 再び空間を斬って移動しようとしてから邪魔されたら時間をかせがれてしまうと考えを改め、全力で走り出したがやはりまだ分身はいたようで足止めしようとこちらへ攻撃してくる。

 しかし一歩も止まらず斬り殺し続けているとやっと天幕に着いた。

 するとそこには――


「――お前は黒神!? なんでお前がここに!!」


「……遅かったな、剣神。私がいなければやばかったぞ」


 ――ヘルトを抱きかかえながら酒呑童子と対峙たいじしている黒神がいた。

 そして黒神はため息交じりにそう言うと後方で倒れているルイス達を指差ゆびさした。

 デュランはその光景を目にして黒神から助けられたことを理解すると、ため息をきながら「助かった、ありがとう」と短く言いながら酒呑童子へと斬りかかった。


「ま、待てこの体は貴様の親友の物だろう! 助けたいとは思わないのか!!」


「あぁ、思うね」


「だったら取引をしよう。わしを見逃してくれるのならばこの体は――」


 その一撃をなんとか避けた酒呑童子はデュランの怒りに気が付かず、なんとかこの場を乗り切るため口を回したがいつの間にかその体を唐竹割からたけりに斬られていた。

 酒呑童子は親友をあっさりと手にかけたデュランへ恐怖し、無駄むだなのが分かりつつも無事ぶじだった宝玉を守天しゅてんの体から外に出した。


『覚えておれよ、いつか新たな肉体を得て復讐ふくしゅうしてや――何ィッ!??』


 そうして守天の体から出た酒呑童子が目にしたのは恐ろしい光景だった、なんと驚くべきことに無傷むきずで草原に転がっていたのだ――守天の体が・・・・・


「――今まで貴様が見ていたのは俺の殺気が見せたまぼろしだ、やはりその体は貴様のような雑魚ざこには上等じょうとうすぎたな」


『や、止めろ!! わしは鬼人族を創造そうぞうした神様だぞ!! 消していいと思っておるのか!!!』


 デュランはこのおよんで情けない命乞いのちごいをしてくる水晶玉の声を無視して周囲の魔力を取り込んで力をため、今までの怒りと共に上空の水晶玉へと解き放った。


「嵐流界刃破ッ!!!! ――死にやがれええええええッッッ!!!l」


『イヤじゃ、死にたくない! せっかくよみが――』


 こうして乱神らんしん酒呑童子しゅてんどうじは完全に消滅し、二度と復活することは出来きませんでした。……あまりにも情けない死に方ですね! みじめ!!


 その後酒呑童子に体を乗っ取られていた守天の体をデュランが詳しく調べましたが、デュランが斬りつけた目と四肢の傷も含めて酒呑童子の力で治っていました。

 ただ神である酒呑童子に体を乗っ取られた代償だいしょうとして二十年分の寿命を削られてしまい、それは天下無双状態のデュランでもどうしようもありませんでした。


「……すまない守天、俺がもっと速くけつけられていればこんなことには」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330667094465728


「デュラン殿は精一杯やってくれた! 気にしないでくれ!!

 そんなことよりも酒呑童子を倒してくれてありがとうデュラン殿! 鬼人族を代表してお礼申し上げる!!」


「――あぁ」


 デュランはそう言って親友である守天へ謝ったが逆に感謝されてしまい、どうすればいいか分からなくなり。そう返事をしてから部屋を出て庭へきた。

 そして自身の弱さを恨みながら拳を血が出るほど握りしめ、今よりも強くなることをちかい。止血してから修行を開始するのでした。

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