乱神

https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330666849195564


「どうしたんだ杏香きょうか、一体何があったんだ?」


「――青葉あおば近寄るでないッ! こやつは杏香じゃない!!」


 青葉は突然入り口が破壊されたかと思えば自身の娘が訳の分からないことを言っているのを聞き、混乱しながら杏香に近づこうとしたが。守天しゅてんから近寄らないよう言われて動きを止めると守天の方へと振り向いた。

 杏香の体を乗っ取った存在はそんなあからさまなすきを見逃してくれる相手ではなかったようで、青葉の背中を手刀でつらぬこうと襲いかかってきた。


「何者だ貴様!! 我の娘に何をしたッ!!」


「中々の反応速度だな、それでこそわしの肉体に相応ふさわしい」


「――ッ!? 体をうばい取ることが出来るというのか!! 杏香の体から今すぐ出てけッ!!」


 即座に青葉を抱きかかえて後ろへ跳躍した守天の姿を目にして気分をよくしたのか、杏香の体を乗っ取った存在は自身の正体をベラベラとしゃべりだした。


「貴様がわしに肉体を大人しく渡すのならば出て行ってやるとも。

 それと儂の正体が何者か知りたいのかだったか? ならば宿賃やどちんの先払いとして教えてやろう。

 儂はかつて起源神きげんしんワールドとかいう小娘と、あの忌々いまいましい剣士に破れた酒呑童子しゅてんどうじという者だ。

 奴らさえいなければ唯一神になっていただろう神である。鬼人族の中にはわし乱神らんしんと呼ぶ者もいたな」


「……乱神は悪逆あくぎゃくの限りをくし、それに激怒げきどした剣神の手で滅ぼされたはずだ。生きているはずがない」


「……剣神? それがあの剣士のことならばその通りだとも、わしの肉体は完全に破壊されて消滅した。

 ――しかしわしはその寸前、自身の魂を宝玉の中へ閉じ込めて逃すことに成功したのだ!! そして今夜貴様の体を手に入れて完全復活をたすというわけだ!!!」


 酒呑童子の言葉を耳にした守天は鬼人族きじんぞくをかつて恐怖で支配していた乱神を復活させないため、最愛の娘である杏香を手にかける決意をした。


「そんなことをさせるものか! 杏香を犠牲ぎせいにしてでもここで貴様は倒すッ!」


「ほう? 貴様に最愛の娘を殺せるのか?? 大人しく体を渡せばこの娘の命だけは助けてやるぞ」


「貴様のことは昔話でよく知っている!! 約束を守るわけがないッ!!」


 酒呑童子はその言葉を聞くと守天のことを嘲笑あざわらいながら手刀を振り下ろした――杏香の首へと・・・・・・


「――杏香きょうかァッ!!?」


 その光景を目にして思わず杏香の腕を止めてしまった守天は飛んできた宝玉を避けることができず、その体の中へと入り込まれてしまった。


「――ガアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」


『クハハッ、やはり子ども思いの親相手はこの手に限るな!! この間抜けめ!!! ――むっ』


 まんまと守天の体の中へ入り込むことができた酒呑童子は守天を馬鹿ばかにしたが、身動きが取れないことに気が付いて驚いた。


「ひ、卑怯者ひきょうものの貴様のことだ、隙を見せれば必ず乗ってくると思っていたぞッ!

 青葉!! 今のうちに杏香を連れて逃げろ!!!」


「分かった、剣神様を呼んでくるから待っててくれ!!」


 青葉が杏香を抱きかかえながら山を駆け下りていったのを見届けた守天は魔力を限界以上に高め、一分でも多く酒呑童子復活を遅らせるため。全力の抵抗を開始した。


『貴様!! まさか最初からこれを狙って!!!』


「違う、貴様を杏香ごと殺せるのならば殺そうと本気で思っていたとも。ただ貴様の卑劣ひれつさに対応できると思うほど自惚うぬぼれてもいなかっただけだ。

 不本意だが、貴様はデュラン殿に倒してもらうことにする。

 だがな酒呑童子! この体、そう簡単に奪えると思ったら大間違いだぞ!

 ――家族のために闘う父親の底力そこぢから!! めんじゃねぇッ!!!」


『き、貴様アアアアアアッッッ!!!!!!!!!』


 それから五分間。守天は神である酒呑童子を相手に耐え抜いて見せたことで青葉達を逃がしきることができたのだった。

 酒呑童子はここまで手こずった事実にプライドを傷つけられたが、何はともあれ最高の肉体が手に入ったことを喜んでいるとデュランとアリスの二人が姿を現した。


「――守天! クソッ、遅かったかッ!!」


「……そんな、守天さん」


「貴様が剣神とやらか! もう一人が誰かは知らぬが、どちらもこの場でほうむり去ってやろう!!」


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330666849239604


 こうして完全復活を果たした酒呑童子とデュラン達は戦闘を開始するのだった。








 デュランは風でれる草原の中、胡座あぐらをかいた足の上にヘルトを乗せて月を見つめていた。


https://kakuyomu.jp/users/kokubyouyamana/news/16817330666849165158


 そしてヘルトが自分の意思で口を開くまで待っていると着物のそでを小さな手が掴んだのを感じ取り、デュランは優しそうな笑顔を作ってからヘルトに問いかけた。


「……どうした、ヘルト。何か言いたいのか?」


「……父上、昼間は申し訳ございませんでした。

 私のせいでせっかくの旅行を台無だいなしにしてしまいました、本当にすいません」


 デュランはそう言って小さくなっているヘルトの頭をなでてからその体を抱きしめ、自己評価が低いのはアリスそっくりだなぁと思いながら正直な気持ちを伝えることにした


「いや、俺は逆に安心したぞ? ヘルトは今までがいい子すぎたからな、あれくらいのがままは可愛いもんだ。

 むしろもう少し我がまま言ってもいいのになぁって、よくアリスとも相談してたしな」


「えっ、で、でも親友である守天おじさんと一緒に過ごすのを楽しみにしていたのではないのですか? それを台無しにしたんですよ、ここは怒るべきではないのですか??」


 ヘルトが戸惑いつつもそう言ったのを聞くとデュランは思わず腹を抱えて笑ってしまった。

 そして目を点にしているヘルトを抱き上げながら立ち上がり、そのまま肩車してから天幕の方へ向かって歩き始めた。


「なあヘルト、お前は俺のことを世界が荒れてるのを見過ごせずに介入した立派な人間だと思ってるふしがあるがな。

 俺が世界を変えたのは一から十までアリスのためだ。

 俺にお前とアリス以上に大切なものはないし、世界がお前らを排除はいじょしようとするのなら逆に世界を滅ぼすくらいのことは平気でやるぞ?」


「えっ、でも普段はそんな感じじゃ……」


「それは当たり前の話だ、そうしないと俺みたいなのは排除しようとするのが人間だからな。

 よく覚えておけよヘルト。自分よりも強い存在を怖がるくせして排除せずにはいられない、人間はそんな矛盾むじゅんした生き物をなんだ」


 デュランは報復ほうふく戦争を止める中で嫌でも垣間かいま見ることになった人間の闇をヘルトへ伝えたが、やはりまだよく分からないようだった。

 それでも魔法で削られていく己の寿命じゅみょうを考えれば伝えずにはいられなかったと、どこか冷静な部分が判断してるのを感じながらデュランは後どれくらい生きていられるだろうかと考え。縁起えんぎでもないと思考を打ち切った。


「――アリスさん、剣神様はどこにいるんだ!! 頼む守天を、私の夫を助けてくれッ!! 頼む!!!」


 そうして歩いて天幕まで着くと同時にそう叫けぶ青葉さんの声が聞こえてきた。

 デュランは何か異常事態が起きたのだと理解し、ヘルトを地面へ下ろしてから青葉さんに話しかけた。

 そして数百年前に剣神の手で滅ぼされたはずの酒呑童子がよみがったという話を聞き、一分一秒を争うとその場で打って出ることを決めた。


「ルイスとノアはこの天幕とヘルト達を守ってくれ! ヴィンデと青葉さんは里の住人の避難を!! そして酒呑童子の相手は俺とアリスでする!!!」


「デュラン、そうはいってもアリスはまだ動けるけどお腹の中に赤ちゃんがいるんだぞ? アリスが留守番で俺達が出た方がよくないか??」


 ルイスがそう言うのを聞くとデュランは首を振り、この配置になった理由を話し出した。


「いや、ダメだ。前アイディール神国が再生した機神を相手取ったことがあるから分かるが、ルイス達じゃ力不足だ。

 俺も不本意だがアリスの手を借りるしかない状況だからな、仕方ない」


「うんっ、僕も闘うよ!! 親友の守天の為だものッ!!」


 そうして話を終わらせた後、デュランとアリスは守天の屋敷まで急いだがその頃には酒呑童子が守天の体を乗っ取り終わっていた。

 デュランは相手の気配の強大さに容易たやすい相手ではなさそうだと、天下無双を使う覚悟を決めるのだった。

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