第4話:愚かな画策
時は少し
宝石箱の中に壊れた宝飾品を入れた物を抱え、ダーシー付きの侍女は当主であるフレドリックの所へと向かった。
シャーロットに罪をなすり付ける為に、証拠品を持って、誰よりも先に話をする為だ。
フレドリックの執務室の前で一度深呼吸してから、侍女はノックと言うには力強く激しく扉を叩いた。
緊急事態だと演出する為だ。
一瞬の間の後、不機嫌さを隠さない声で入室の許可がおりる。
中からフレドリックの侍従が扉を開けると、侍女らしくなく駆け込む。
「し、失礼します!」
さも急いだとの演技をしながら、執務室へと入った侍女は、フレドリックの執務机の前まで行くと、宝石箱の蓋を開けた。
「せ、正妻様がダーシー奥様に渡したくないと床に叩きつけられました!」
ダーシー側の使用人は、シャーロットを侮辱する意を込めて、
フレドリックがダーシーを愛していると疑っていない侍女は、これでシャーロットを追い出せると思ってこっそり口角を上げた。
シャーロットはダーシーが後継者を産んだ事に不貞腐れて実家に帰っただけ……実はフレドリックとの離婚が成立しており、レイゼル公爵家とは離縁しているなどとは知らなかったから。
「シャーロットが?……嫉妬、した……のか?」
フレドリックの反応は、侍女が期待したものとは真逆だった。
怒り狂って「あの女とは離婚する!」となると思ったのに、どう見ても喜んでいる。
何かが違う?
そう侍女が戸惑っている間に、宝石箱は侍従によってフレドリックの手に渡っていた。
「あぁ、まぁ、これ位なら宝石は割れていないし修繕出来るだろう」
家宝が壊されたのに、フレドリックの声には怒りもなく、とても軽い。
侍女は顔を
シャーロットを陥れる作戦が失敗した侍女は、部屋を辞そうと顔を上げた。
「これを急いで、正妻室の目立つ所へ、シャーロットの見ている前で、置くように」
まるで子供に言い聞かせるように言葉を区切って命令するフレドリック。
それは、その任務がかなり重要だと語っている。
何でダーシー様付き侍女の私が?
そうは思ったが口に出せるはずもなく、侍女は
さすがにあそこまで念を押して言われてしまったのに逆らうわけにもいかず、侍女は急いでシャーロットの居る正妻の部屋へと戻った。
侍女は特に何も伝えず、ただ言われた通りに目立つ場所……キャビネットの上に置いた。
確かに目立つ場所ではあるが、元々宝石箱が置いてあった場所でもある。
フレドリックの意を汲んだとは言えない行動だが、逆らってもいない。
侍女が出来るギリギリの抵抗だった。
侍女の狙い通り、シャーロットは宝石箱を開ける事無く実家へ帰って行った。
何か手紙を入れたのは辛うじて見えた。
おそらく『宝飾品は修繕出来るから気にしないように』とかその程度だろうと思っていた。
それならば、シャーロットよりもダーシーが見るべき内容だ。
そう、軽く考えていた。
シャーロットが出て行って、侍女長命令で正妻の部屋の片付けをしていた時。
メイドが二人、宝石箱を二つ持って家政婦長の所へと行った。
今はまだ
「あ!それはお部屋の目立つ所へ置くようにと、旦那様からのご指示がありました!」
嘘は言っていない。一部、
ダーシーの為に部屋を整えている今、皆がどういう誤解をするのかを解った上で。
悪意は無い。侍女はダーシーの味方をした
「やはり旦那様もダーシー様の方がよろしかったのですわね」
家政婦長の声が部屋中に響く。
その言葉の持つ意味と、フレドリックが
『後継者も生まれたので、これからは二人で色々な所へ旅行に行こう。爵位を譲られるまでは、二人で蜜月を過ごそう。』
内容はダーシーにも当てはまる。
しかしその宝石箱は「シャーロットの見ている前で、置くように」と言われた物だ。
間違い無くフレドリックから、シャーロットへの、手紙。
侍女は緩く首を振る。自分は自分の仕事は
その後に何が有ろうと、それは自分の責任では無いと。
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