宝物

あの建物から一回洞窟に帰るため、帰路についた俺はふと疑問に思った。


「なぁ,何でお前は名前がないんだ?」


そう、名前だ。この世界の人間も名前をつける文化があることは知っている。魔物と違い人間と同じ知力のある吸血鬼ヴァンパイアは名前をつけないんだろうか。


そう聞くと彼女は悲しそうに答えた。


「名前、は、忘れました」


曰く、彼女が囚われていた期間はかなり長いらしく、一年は余裕で過ぎているのだとか。そんな長い間幽閉され、傷跡が身体中にできるほどのことをされれば、名前なんて覚える暇すらなくなるだろう。


「ならば、俺がお前に新しい名前をつける。名前がないなど不便だろ。もし本当の名前を思い出したらその名前を呼んでやるから」


「、、いいの?」


「断る理由がどこにある、。それとも嫌か?」


「ぜ、全然!、そんなこと、ないっ!」


弾かれたように首を左右に振り否定する


「なら、つけるぞ。」


少し悩んだが、案外すぐ見つかった


「シエル、お前は今日からシェルヴァーナだ」


「シェル、ヴァーナ、、」


どうやら気に入ってくれたらしい。


「あっ、貴方の名前は?」


「俺の名前?」


そういや俺の名前なんてなかった。ファフニールという種族名ならあるが果たしてそれは名前なのか?今後、もしかしたら人間どもの街に潜伏するかもしれない。その時にちょっと面倒だな。


「俺に名前なんてない、好きに呼べ」


「じ、じゃあ私!私があなたに名前をつける」


「お前が?俺に?」


「だめ、かな?」


「さっきも言ったろ、好きに呼べ」


彼女、いやシエルは顔をパッと輝かせ考え込む。

そして


「決めた、アスティー、アスティリア!、どうかな?」


「アスティーね、いい名前だ。大切にする」



そんな他愛もない話をしていると俺の住んでいる龍さんの洞窟へ着いた。まず俺が何とかしないといけないのはシエルの栄養状態だ。多分何日も食べていないのだろう。

いや、そもそも何を食べれるかなんて知らないし。

「吸血姫ヴァンパイアって何を食べるんだ?」


「大体は誰かの魔力を吸っているよ、。

首元のあたりに牙を立ててそこから吸う感じ。」


「そうなのか?」


ならば話は早い、俺の魔力、とやらを吸わせればいいのだろう。


「ならば俺のを吸え、」


「ひゃっ、!」


俺が首元を見せた途端、シエルは顔を真っ赤にし背いてしまった。、何か不味かっただろうか。


「もしかして何か問題でも?」


「い、いやっ!そういうわけでは、。

でも、私が魔力を吸うと、アスティーは体がだるくなるけどもいいの?」


「別に構わない、今日はもう休む予定だしな」


「じ、じゃぁお構いなく、、。」


そして俺の首筋に顔を埋めた。

、、今更ながら色々と危ない気がするがまぁいいだろう。

なんてくだらないことを考えているとシエルの体に変化が訪れた。だんだんと傷がいえてきたのだ。俺の首筋から口を離した時には、痩せていたシエルは健康的な体格に戻っていた。


「ありがと、おかげで元気になった。」


「あれだけでよかったのか?」


魔力とやらを吸われると体がだるくなるのだと、さっきシエルから聞いたが俺の体には何の異常も起きていない、


「うん、アスティーの魔力は何だか、人のより濃かった」


「まぁ、俺龍だからな」


「え、えぇぇぇぇぇぇ!!!」


洞窟中、いや森中に響くような大きな声でシエルが驚く。

曰く龍という生物は世界でも数体しかいなく、そのどれもがその地域の魔物の頂点に君臨しているのだとか。確かにこの森では俺は負けなしだったが。


「そんなにすごいのか?」


「だって、場所によっては土地神的な存在だから、」


どうやら俺はこの世界に対し無知すぎるらしい。無知ほど怖いものはない、という。俺はシエルにこの世界のことを色々教えてもらうことにした。







___________________________________________


追記

前回の話、私の入力ミスによりカクヨムさんの方で1日早く公開してしまいました。

木曜日に変更したわけではなくこれからも金曜の0時に公開予定なのでよろしくお願いします




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る