第62話 癒やしと本質
温泉で少し、身体を癒やした俺たちは。
北海道で観光していた。
ここは、北海道の登別で有名なクマがいっぱいいる牧場。
「おっ…こっちに向かって、【頂戴】をしているぞ。クマも食欲には勝てないんだなぁ。愛、真人…どうだ?見えるかい?」
「うおー。クマー!」
「クマしゃん、…くさーい。」
愛。…確かに、少し臭うけど…、最初の意見がそれなのかぁ。
真人は男の子らしく、クマを己が目で観ることで…非常に興奮していた。
「最初はクマの牧場に行くって言われて…何を言ってるのかと思いましたけど。…匂いはともかく、面白い場所ですね。幸村くん。」
「ねー。玲奈も言う通り、まだ少し病んでるのかなって。心配したよー。あ、クマ。こっちに【頂戴、頂戴】してるよ~。可愛い~!」
家族も喜んでいるようだ。
おっと、福田父が…またクマの餌を買ってきたようだ。
「愛ちゅぁああん、真人くぅぅん!!おじちゃん、また餌買ってきたよぉ。一緒に投げましょうねぇ~!」
…紛れもない、ジジ馬鹿だ。
何度、愛と真人に餌を投げさせればよいのか。
福田家も佐々木家も。一緒に楽しんでくれているようだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
佐々木妹の2名について。
上の妹は今年20歳。メイクアップアーティストを目指して、現在上京中。やけに恋愛ごとに首を突っ込む性格で。やや自己愛が強く感じる時もある。
下の妹は今年、18歳。玲奈の後を追って、パソコンの勉強をするようだ。…そう言えば、俺の家で皆でパソコン修理をしていた時、彼女だけは修理を手伝うことが出来なかった。
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玲奈が寄って来てくれた。
「うふ…。妹たちも大きく、なりましたぁ。」
「…うん。健やかに育ったね。」
佐々木さんは少し顔をしかめて、返答する。
「片方は…貧乏が嫌いで、見た目ばかり。気にしています。私を嫉妬する発言もあります。もう片方は心配になるほどに…私の後を追ってくれています。…ちょっと気になりますね。」
「…何か、含みのある言葉だね?」
・・・・・・・。
「…ふう。」
玲奈はため息を一つ。吐いてから、話し始めた。
「下の妹は…真田くんと会わなかった時の自分を…少し。…少しだけ、重ねてしまうんです。」
「…うん。似てるよね。…常に、誰かからのバッシングを怖がる感じ。…乗り越えた姉を見習いたいんだよ。」
「…ええ。」
「…それだけじゃ、…無いよね?」
「…そうですね。私は…【佐々木笑】のことがトラウマです。あの狂人のような…感情を。上の妹から、少しでも感じてしまうと…恐ろしくなります。…何言ってるんでしょうね?私…」
「いや、良いんじゃないか。」
「…幸村くん」
「【佐々木笑】の恐ろしいのは、人間の欲望なんだ。自分の手にしたかも知れない富と人気…というと、おこがましいかな?…それが強かったからね。狂っているほどに。」
「…ええ。本当に。」
「…でも人間、欲がないとね。…行動できないんだ。」
「…というと?」
「俺は、最初にお金を稼いで…好きなものを何でも買ってみようと思ってた。それでパソコンやらカメラやら。果ては株やら仮想通貨。他の人から見たら…俺のほうが欲の塊のような買い物をしてる気がするよ。」
「…で、でも。でも…幸村くんは、私を助けてくれました。梨沙ちゃんも…福田さんも。皆…皆、助けて来たじゃないですか!」
玲奈は、俺の手を握り…しっかりとした意思で。
俺を、まっすぐ見つめていた。
「…違いは、そこなんだろうなぁ。」
「・・・?」
「俺ね、玲奈を助けたのは…自分の為だった。」
「俺が、その場の雰囲気を許せなかった。その後は自分のビジネスに…いじめられていた玲奈を利用しただけ。それに近いことを…佐々木笑もしていたよ。」
「…してたでしょうか?」
「俺が大学初日で目立ってた時、アイツは先輩から俺を助けた。その後、自分の欲のために俺を利用しようとして近付いた。…どう、違う?」
「…それは。…上手く返答、出来ないです。…でも。でも、全然違う。あんな人とは絶対に違うと…私は、思います。」
「ありがとう。…俺はね。…人間、そんな皆あんまり変わらないって思ったんだ。…芸能界の偉い人も…悪魔の【大塚】も。…そして俺も。梨沙も、玲奈も。皆、欲望がはっきりしていた。悪い人たちは…残虐で、とても同意できないような内容だったけど。」
「…はい。私も、【私の真田くん】に対する執着心で…ここまで辿り着いたかも…しれませんね。」
「あはは。すっごい嬉しいんだけどね。…玲奈が好きになってくれたのが。」
「…それは、こっちのセリフです。」
ふと、2人で見合わせて。…笑ってしまう。
「妹さん。佐々木笑の様にはならないと…俺は、思っているよ。」
「…それは、何故ですか?」
「君が。そして俺とここにいる皆が。…知ってるからだよ。その欲望の末路を。あんな不幸せな末路を、ね。」
「よく…わかりません。」
「あはは…。俺もね、具体的には何も言えないよ。…でもね。俺は妹さんも、そして俺自身も。あんな凶行は起こさないと…断言できる。こんな素敵な家族がいるんだ。」
「…そう、かもしれないですね。」
「誰かが堕ちてしまいそうなら…その前に助けよう。俺たちはそれが出来る家族を持ったと思っているよ。」
・・・・・・。
「あ~~~~!!また2人でイチャついてる~~!!」
愛すべきもう一人の人間に見つかって。
嬉しい気持ちを隠せないまま、家族の輪に向かって…俺は走っていった。
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