第61話 生活スタイルが変わるよ
パリで風刺週刊紙が国際テロ組織イスラム過激派に襲撃され、過激派組織による大規模テロが各地で多発した。
また、中東やアフリカの紛争や迫害を逃れ、欧州を目指す難民が急増した。難民が大量に押し寄せ、国境にフェンスを設けて流入を抑える国も生まれた。
欧州連合は加盟国で分担して難民受け入れを決めたが、対策は追い付かず。
更に中国経済が景気減速。上海株急落に加え、突然の人民元切り下げもあり、東京やニューヨーク市場を巻き込んだ世界同時株安が起きた。
しまいには…ギリシャで緊縮財政の破棄を掲げた連立政権が誕生し、ユーロ導入後初の参加国離脱が一気に現実味を帯びた。支援継続をめぐるEUとの交渉は難航を極め、世界の金融市場に激震が走った。これがギリシャの金融危機。
そんな年が、2015年。
そんな世界情勢が、大変な時に。
俺は…。
・・・・・・カポ―――――――ン。
「…いい湯だねぇ。」
「幸村くん…本当に温泉好きですねぇ。」
「そんなに入ってたら…ふやけちゃうよぉ、溶けちゃうよぉ。」
俺たちは温泉に来ていた。
佐々木家も誘って、福田家も誘って。
慰安旅行がてら、北海道の登別温泉に来てみた。
理由は2つ。
…もちろん。一つは、この穏やかな時間を楽しむことであった。
「うふふっ…玲奈さんと梨沙さんは、だいぶ…のぼせやすいですねぇ。」
「くぅ…登別の温泉って…ずっと、ポカポカするから…それでだもん!家族風呂の中だけでも、相当暑いよぉ…。」
「戦わない、戦わない。…由佳も煽らないの。」
「…これは、すみません。」
「…えへへ。」
由佳は、そこまで暑さに弱くないのか。ほんのりと紅くなったその表情で、梨沙と玲奈がへばっているの、笑ってみてる。
梨沙は、もう簡単にのぼせてしまう。
初めは恥じらいで、巻き付けていたタオルも、崩れに崩れ。目のやり場に本当に困ってしまう。ここが家族風呂で…本当に良かった。
もし、他の人に見られたら。…こんなハーレム状態で言うのも何だが。俺は強い嫉妬を覚えてしまうんだろうなと。思ってしまう。
ザバァ…
「ふぅ…私も限界です。…上がりますね?」
玲奈もだいぶ顔が真っ赤になっていたようだ。立ち上がる時に、肢体にタオルがへばりついて、とても艶めかしい。…本当に困ったものだよ、全く。
「…おう、わかったよ。」
「これは…。私達は、少し苦手な部分かもしれませんね。…私は、子どもたちの様子、見て来ますね。…いくら、私の母が見ているとはいえ、久し振りに40分以上、子どもたちから離れていますから。…少し、落ち着かないです。」
「んんー。そっか。わかったよ。…でも、最初に言ったように…順番に。分けて入った方が良かったんじゃないかい…。」
「…それは…少し、少しだけ。…嫉妬しますもん。」
「ね、…ホント、そうだよねー。」
…そんなもん、なのかねぇ。
「あら、…私はしませんよ?」
最近は言い争いとも言えない、小さな戦いが頻発する。
勝ったら、夜の決定権を一番近い日で、得られる…らしいのだが。
俺の意見は…どこに有るんでしょうか?
「由佳もさっきから言ってるけど…煽らない、煽らない。」
「…ごめんなさい、つい。」
しかし、まぁ…。
年齢による焦りか。夜の主導権闘いになると、由佳は大人げない。
「あと少しだけ…、俺は浸かっていたいな。いいかい?」
「私は一緒に。…いさせて貰いますね?…約束ですもん。」
「…うん。待ってますからね?」
「くそ―。仕方ないかぁ。」
…どうやら。長風呂が好きな俺に、どれだけ付き合えるかで張り合っていたみたい。俺は好きでやってるんだけどなぁ。…苦行を強いてしまったのかも。
「ふふっ…二人っきりですね?」
「ああ…最近は4人で寝てるし、子どもたちも同じ場所で寝てるから。久し振りなのかもね?」
「…ホントですね。…それこそ、あの狂人が襲ってきて。…毎日、誰かが交代で貴方の横に、居た時…以来ですかね。」
「…ん。そだね。」
「…ふっきれました?」
「…んん?」
…チャプ…チャプン…
温泉の、お湯がヒノキの囲いにぶつかって。戻っていく音が聞こえ続ける。
「…【佐々木 笑】のことですよ。」
「…そうだね。だいぶ。」
「今日…最後まで、長湯にお付き合いできた人が聞こうって。決めてたんですよ。…殺すつもりで…あの狂人と向き合ったじゃないですか。」
「…うん。投獄されても、刑罰を受けても。…きっとあのタイプの人間は。いつか脱獄でも刑期が終わったとしても。何かをしてくると思ったからね。…俺は、人間として。やってはいけない殺人を、…本気で考えてしまったよ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
この一年。何度も取り調べを受けて、実刑に至った人間が居た。
凄惨な事件を起こした犯人として、逮捕・投獄された佐々木エミ。
相手は夢と言っていたが、前世の記憶を有しているかのような。
リアルな生活背景を、聴取時に話していた元妻の狂人は。取り調べの際に、こんな事を話していた。
「…殺人?違うわよ。…夫婦喧嘩の延長よ。」
「警備員を殺害…ね。あの男たちは、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…何度も。私と夫の再会を、邪魔してきたのよ。」
「…死んで、当然じゃない。」
「こんなに…愛しているのは真田くんだけなの。」
「この、お腹の傷も。…私は、許すわ。だって…愛する夫の、軽いDVだもの。受け入れてあげなきゃね…。」
「アンタ達も…邪魔だては絶対に許さない。私の愛は…本物なのよ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
・・・・・・・・。
その発言を、取り調べの刑事や渡辺さんを中心とした記者から伝えられた時は。家族の危険を感じるとともに、その執念に…驚愕と恐れを感じるものがあった。
2015年、呟くSNSが流行った時期に。
「〇〇なう」と呟くよりも早く、この事件は色んな拡散をされていった。
「ウチのグループにエンタメ部門があって、良かったよ。SNSと動画発信を組み合わせて…この事件をかき消すくらい。明るい話題を振りまいてくれたから。」
「…そうね、会長のためにって。皆、楽しみながらも必死で…仕事に取り組んだみたいね。業績も上がったけど…1番は、ゆっくんが…現場に来なくてもいいくらいに、グループが大きくなったことかしら?」
…チャプ…チャプン…
湯の動く音が、心地よい。
「…ああ、もう働くことは。…もう良いかな。」
25歳。普通は働き盛りの年齢。
「…それで。良いんじゃないですか?」
「…なんか、罪悪感があったけど。目立つことって…家族を危険に晒すことでもあるんだよなぁ。…これからは、配当金やら投資の利益。これで生きていくのかも。日本の経済成長は…投資で応援が基本になるなぁ。…まだ世界と戦える企業を作れてないし…。」
「ええ。…投資とか、グループの方向性だけでも…ゆっくんが決めていけば。貴方の意向は十分に残りますよ。」
きっかけはどうあれ。社会的な立場だけを残して…
俺の、真田幸村の。
経済的自立と早期リタイア。
「Financial Independence, Retire Early」…
略して…【FIRE】。
その瞬間が、訪れた。
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