第60話 凶行の翌日

痛い。


…すっごい痛い。




俺、なにか悪いものでも食べたろうか。

なんだか…お腹がずっと鋭利なもので刺されているような…


鋭利なもの?





ガバぁ!!



「こ…ここは?」






…俺は腹部の痛みで、起きた。



周囲はカーテンで閉められており、視界を塞がれている。

横には点滴と心電図を示す機械が置かれ、病室だと知ることが出来た。




「あ…あの後、一体…。エミは?家族はどうなった?」





そう思って、立ち上がろうとすると…



「ゥグゥ…。痛ぁ。」


腹部の痛みで、俺は動くことが出来なかった。




ガラガラ…


廊下だろうか。音がする。


「す、すいません…!看護師さんでしょうか?」


「はーい?なんでしょう。」


「すみません、今、目を覚ましたのですが…。私の入院の経緯など知っている方は居ますか?もしくは家族など…」



「あ、はーい。308号室の…真田様ですね。あ、ご家族が今、医師と話しているそうですね。連絡してみますねー。」


「あ、た…助かります。」




その後、数分もせずに玲奈と梨沙。そして由佳が子供達を連れて病室にきた。


「良かったよぉおぉ!!!生きてるぅぅぅううう!!」

「…ホントに、良かったですぅ。」


「本当に。本当に心配しましたよ。…会長。」



「あ…あはは。助かってよかったよ。…佐々木エミは?どうなった?」



「…生きています。あの後、すぐに捕まって。警備員も一人殺して、3人は腹部や背中に何度も凶器を刺していたようで…皆、救急車で運ばれました。あのオンナも…治療後に逮捕が決まっています。」




「警備員、殺した…のか。」



「はい。年配の警備員さんが最後まで抵抗してくれたようですが…最後には。」


どうやら警備員の待機所に催涙ガスを投げ込んで、その後スタンガン等で拘束していったそう。催涙ガスを受けても…スタンガンを受けても。その年配の警備員は抵抗し続けたとのこと。


その人は、震災の被害者で。家族を含めて仕事を斡旋し、住居などのサポートで受け入れた俺に…心から感謝を示してくれた人間だった。



「若い警備員も、顔をズタズタに切られてしまった方もいるそう…です。」


若い警備員は、元モデルのスタッフと付き合っている男性だ。前に何度も、狂人を捕縛したこともあった。…その為、恨まれていたのかも知れない。




もっと早く。なんとか出来てたら良かったのに。

常に…後悔だけが残っていく人生だなぁ。



「由佳。…俺の配当金から、お亡くなりになった警備員のご家族に。給料相当の額を毎年送れるように、して欲しい。」


「こんな時まで…。貴方は他者の事ばかり!!」



「…若い警備員も。相応の額を毎年送ってあげて欲しい。」


「だから…幸村さん!自分のことを…」




「…皆、ごめんね。」


「幸村くん…。」

「謝らないでよ…」

「会長が謝ることなんて…」



「由佳、あの時から…会長呼びに戻っちゃったね。」


「…もう!そんな事をいってる場合じゃ…」



「…俺ね。父さんに、憧れてた。」


「???」

「おじさん?」


「うん、そう。…俺の父さん。真面目で、仕事に一直線。変な遊びもしなければ、贅沢だってしない人。」


「…いいお父さんだったよね、おじさま。」

「大好きだったもん、おじさんもおばさんも。」



「俺の行動指針って…きっと父さんだったんだろうな。」




「父さんだったら、あの悪魔と刺し違えてたかもって…警察署では行動したし。父さんだったら…佐々木エミを家族に近づかせないよなって。」


「幸村くん…」

「…おじさま、そんな危ないことを望まないよ?」




「ふふッ…。理解ってる。父さんがその場にいたら…凄い、怒ってるだろうなぁ。…でも思うんだ。その場に父さんいたら…きっと同じ事をしていた。」


「うん。…おじさまなら。…そうかも」

「悪いところ、似ちゃったなぁ。」



「あはは…似たのは、俺は嬉しいよ。…でもね。家族を残すわけにはいかないな。5人も子供がいて。死んでる訳にはいかないよなぁ。」




・・・・・・。

何やら3人の様子がおかしい。


「…8人に。なるかもしれないですねぇ。」



「ふふっ…そうだね、今のところ、8人の子供と言わないとねぇ。」




「あ、2人共~。新居に行ってからのサプライズなのに~!!」





「…まじかよ。…俺と野球チーム…作れちゃうって。」




更に、賑やかになるようであった。





―――――退院。


俺は数週間の入院後、退院となった。



退院後、渡辺さんが来て…事件の全容を聞いてくれた。

記事にして、同様の事件が起こらないようにするらしい。


…同様の事件、起きることはそうそう無いと思うなぁ。


あと、3人の妊娠を知った渡辺さんは…

「…私はまだ、結婚も出産も…していないのに!!…ホント、何なのよ!!真田家にだけで出産祝い8回って…人生いったいなんなのよぉ!!」


それでも、なんだかんだ。

出産祝いと、赤子のおもちゃを持ってきてくれる渡辺さんは。

ウチの女性陣の良い「お姉ちゃん」の立ち位置で居てくれる。



福田父は、我が孫のように可愛がる。


「あ、会長!今日は働きすぎたら駄目ですよ…。ああああ可愛いでちゅねぇぇえぇぇぇええええええ!!!元気かなぁぁ???愛ちゃん・真人くぅぅぅん!!!!!」



…キャラ崩壊していないかな。


玲奈の家くらいしか祖父母と呼べる人が居ないからなぁ。…助かるけど、正直愛が重たすぎるような。


由佳は施設出身であった。

両親の顔は知らず、本人もそれでいいと考えていた様子だった。

「私は…会ty…ゆっくんさえ、いれば。別に両親を探そうという気になりませんね。正直、何故捨てたのかなんて…考えるだけ、無駄ですから。」




「あー。またイチャついてる。辞めてよね―、真田。」


福田さんは、今まで以上に精力的だ。


「…そんなこと言ってていいの?福田さん、アレみてよ。福田さんのお父さん、もう完璧なジジ馬鹿だね。じじバカ。」



そこには、愛にお馬さんにされ、真人に剣で切られ続ける。

満面の笑みの、福田父がいた。



「…はぁ。ったく。アタシがオトコ連れてこないって…前にずっとグチグチ言ってきやがったんだよ、あの馬鹿親父。」





「そんな事言うなよ。…いるだけ、幸せだよ。両親ってのは。」


「…うん。そう…なんだろうな。」





「ま、まぁ…困ったら、どうにかするよ。どうにか。アテは…有るんだ。それまでは…アタシは仕事を頑張っていきたいんだよ。理解ってよ、真田会長?」



少し焦ったように返す福田さんに、苦笑しつつも。

俺は平穏と安らぎを噛みしめる。


「…ん。助かってます。」





そんな会話をしていたら、年は過ぎていくのだ。




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