第59話 狂人の末路


「繋がっているのは、紛れもない運命だな。真っ黒な、ね。」




「ええ。…ええ。理解ってくれて嬉し…」






「俺たちは、向き合って。戦うべきだった。」





ガゴッ…!!!!





抱きしめてくる狂人に、俺は右拳をナナメに打ち下ろした。




「ゥグゥ…ッ!!!!」





「オンナだからと手加減は出来ない。俺は…このために、身体を鍛えた。…もう同じ失敗はしないようにと!」



「アハ♡…そうだったねぇ。2009年くらいだっけ?芸能界で問題あった時に、自衛で【護身術】…習い始めたもんねぇ。…嬉しかったなぁ。守ってくれる人間になるんだなってぇ。」




「…それが自分に向いてるのは、どんな気持ちだよ?」




「…最高♡」



ダッ…。




「な…!!?」




「うふ♡」





グサッ…!!





「ぐぅおおおお!!?」



狂人はパッとドライバーを拾い直すと、俺の右足に突き刺してきた。

なんとも手慣れている。



「私もね…。真田くんのお似合いのオンナになろうと頑張ったんだぁ。整形費用を…いっぱい稼いでぇ。何人か…パパを作っちゃったぁ。ごめんねぇ。…でも良いよね?こんなにキレイになったからぁ。」


「な…なんの話を…」



「…そんな事してるとねぇ。お金くれないで、逃げようとするおじさんも居てね?…最初は。自分を守るために持ってた…このドライバーだけど。お金渡さないおじさんを刺して、逃げる内に、理解ったんだぁ…。最初から、刺しちゃえば良いんだって。私の身体は真田くんの物だし…あんまり汚すのも…どうかなって。」




「…慣れちゃった、こういうの。」

エミはグリグリと右足のドライバーを回して、遊び続ける。



「ぐぁああぁ…!」


「あは♡未来の旦那の足を傷つけちゃったぁ~。今夜は私がぜ~んぶお世話してあげるねぇ。」





「…狂ってるよ、エミ。」





「あは♡…嬉しい、…名前で呼んでくれるのぉ?」





「…ああ、夢で呼んでたからね。…妻としての君を。こうやって。」




「あは♡…やっと白状したぁ。最初から…夢にも。…気付いていたの?」



「ああ、…出会った。その瞬間から。」




「…だから、あのくっつき虫を連れて、走って逃げたんだねー。」



「裏切るのを、俺は知っていたからな。」




「えへへ♡ ようやく、ちゃんとお話できてるね。私達。」




「ああ、そうだね。…エミ。一つ聞いてもいいかい?」



「なぁに?愛する真田くん…いや幸村くんなら。何でも応えるよぉ」



「僕らの…娘は。どうなった?」




「ああ。あの娘。…だって貴方の娘じゃないわよ?…大塚の娘よ?」




「…ッ!…いいから!!!…答えてくれ!!」

俺は何か嫌な予感をしながら、先を急ぐように答えを急かした。






「…捨てたわよぉ。あんな面倒な娘。大塚にも…貴方にも。懐かなかった娘だったし…。正直、邪魔でしかなかったわぁ。」



「…よく、わかったよ」







俺は両手をエミに向かって大きく広げた。


「おいで、エミ。」









「ああ…。ああ…。ついに。ついに私のものになるのね!真田くん!!!」



エミは俺の胸に飛び込んでくる。



「ああ…もう絶対に離さない。」



「ああ…離すなよ?絶対。」







俺はエミを抱きしめる。



「ああ、幸村くん。…ッ私の…幸村くん。」


涙を流しながら、抱きしめ返すエミ。



「もっと、強く抱きしめて貰えるかい?」





「…ええ。ええ。任せて頂戴」




エミは強く強く、俺を抱きしめる。

前世では無かった。愛情の有るハグだ。



後方では、愛する人間達が、何かを叫んでいる。

願わくば、これから先の出来事は観ないで欲しいものだ。


「あは♡負け犬達がほざいてるぅ。」






「…君に。見せたいものがあるんだ。」



「ええ。見せて頂戴、なぁんでも。」



抱きしめながら、エミを運んだ。

そこは。






庭の畑であった。



玲奈が丹精を込めて、世話をし続けた。

俺も耕したことが何度もある、思い出の畑。





「ここだよ、エミ。」


「なぁに?ココ、スッゴク土臭くて…私は嫌よ。見せてくれるなら…お金とか株の証券とかが…私は嬉しいなぁ。」




「きみが観るのは、天国では…無いだろうね。」


「ん?何のこと?」




「さようなら、エミ。永遠に。」


「え…何…を…」






そして、俺は抱いたまま。

勢いをつけて、全力で走った。


「な…ちょ…何を…!!」





そこには、畑を耕すクワがあった。


「昨日、畑を耕す時に…刺さりが悪くてね…研いだばっかりなんだ。だいぶ研ぎすぎてね。簡単に…俺の靴を切ってしまうくらいに。危ないから…子供が近寄らないように…そこに置いてあったんだよ。」




「や…やめて…そんな危ない事…」






「さようなら、エミ。一度は本当に大好きだったよ」



そう言って俺は、エミとともに。





今までに、したことが無いくらいの突進を。





そのクワに突っ込んでいった。





ドスッ……。






エミの腹部から。


クワの刃が飛び出て。俺の腹部にも刺さっている。




「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




「わ、私のお腹に…汚い、こんな刃が…刺さってるぅぅううううう!!!!!」




「ぐぉぉぉおおお…。」



家の窓がガラッ!と勢いよく、開く。


「幸村さん!」

「幸村くんッ!!

「会長ぉ!!」


由佳なんて、焦ってしまって会長と呼んでいる。

はは…面白い状況じゃないのに。笑ってしまう。




「た…助け…死んじゃう…!!」


「見栄を張り続けて、欲にくらんだ…最後が。…畑のクワとは…可哀想にな。…エミ。」



「て、テメェええええええええええええ!!!!!」



ガッ…


「グフッ…ぁあ。」

拳で殴られ、腹の刃が抉り直してくる。






ガラァアアア!!!


玄関からも…勢いよく扉が開かれる音が、聞こえる。



「か、会長!!」

「真田くん!!」


「おい、大丈夫かよッ真田ぁ!!」





そこに。

渡辺さん、福田父、福田さんがいた。



「…私達が呼んだの!警察と他の警備員と一緒に。」

俺に駆け寄りつつも…梨沙が叫ぶように、伝えてくれる。



ゆっくりと、俺の腹部からクワが抜かれ、手当が始まっていく。

「ぐぅぉぉぉおおお…。け、警察は…いつ?」




「…もう、呼んでるからぁ!いいから黙って、横になっててよぉ!!…幸村さんが、幸村さんが死んじゃうよぉおおおお!!!」



「し…死ねば…いいのよ。私を…こんな風に…しておいて…」



横では、怨念を呟く狂人がいた。



「そ…その悪魔から、離れておけ。…そんな状態でも…なにするか分からんぞ…」



狂人は。


壁に固定されたクワが、刺さった状態で。

何度も何度も…自分で抜こうと、もがき苦しんでいる。



「お、おまああえええらあぁぁ!!!私を、助けろぉおお!!」





「…お前は、死ぬんだよ。エミ。」






「てぇえめええええええええ!!!この人殺しぃいいいいいいいいいいいいい!!!」




血を吹き出しながら、叫ぶ元妻を観ながら。





「さようなら、もう。会えない…な。」




そう呟くと。警察が来て。

周囲の言葉で、すぐに抑え付けられていく元妻を観て。







そこで、俺の意識は途絶えた。






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