第42話 ギャル、びっくり。
「…はあぁぁぁぁぁあああ????」
…声が大きいよ。耳が痛い。
「な、何…馬鹿なこと言ってんのよ。6000万よ、6000万。あんた…少しくらい儲かったからって…無理なもんは無理よ!…気持ちは、嬉しいけど。」
「…大丈夫ですよ、福田さん。私の家は2000万程の借金でした。…幸村君は、それを1年半程で完済の目処を付けてくれたんです。」
「…で、でも。アタシ、高校時代…コイツに結構悪態ついてたよ。…何で、アタシを助けてくれんのよ。」
その通り。スキンヘッドから助けたのだってお礼すら無い。
「…玲奈が。…助けたがったから。」
「…は?そ、それだけ?」
「んん。そう、…それだけ。」
「…幸村くん。」
「…はぁ。バカップルだわ、ホント。…で、何?アタシを助けてくれんの?嘘でしょ…?アンタ、アタシをいいように…。」
「勘違いしないで。君に何かをするつもりはない。」
「…へあ?」
「君の家の借金先が、俺になるってだけ。利子が無くなって、返済しやすくなるよって事。…最後まで返してくれるのであれば、だけどね?」
「か、返すわよ!今だって…必死に返してんじゃない!!」
…怒るなよ。助けてくれる人間を。
「んん。じゃ…君の両親の所に、まとまった額を持っていこう。ああ、証人も必要だったっけな。住所は?…ああ、そうだね。俺たちの地元だった。玲奈のおばさんにも来てもらうか。証人になってもらおう。」
「凄い…スムーズだけど、ホントにアンタそんな大金持ってんの?…あ、そう言えば【佐々木笑】の奴が言ってたね。株で大儲けしたって。…成金?」
…嫌な言い方だな、ホントに。
「…違うよ。それはもちろん、株に投資しているけど。俺はビジネスもやってる。6000万は、すぐにそこから用意できる。君には株での成功資金を譲るとかでは無い。ビジネス資金から、融資をするだけだよ。」
「…???」
「…大学の経営の講義受けてるだろ?…融資は俺にもメリットが有る。税金対策だよ。」
お金の動きが不透明な2008年。こういった会社からの個人融資も一定数あった。いくつかは悪い人間が愛人を囲うために行うことでもあったのだが。
ここは有効活用してみよう。
「…それって、そこまでメリットじゃ無い筈だったような…」
「そうだね、そんなに税金対策にはならない。投資した方が、ナンボもお得だ。」
「じゃ、じゃぁ…」
「福田さん、受け入れて下さいよ。…なんだかんだ言って、幸村くん。恩を感じないように貸付けをしようとしてるんです。…不器用ですよね、ホント。」
「…う、五月蝿いなぁ。」
「…借りる。」
「んん?」
「…借りたいです。貸して下さい」
「あ、…だから。貸すってば。」
「…アンタに酷いこと言った。助けて貰ったのに、お礼もしなかった。」
「…覚えてんじゃん」
「文化祭でも、クラスの人間に詰められた時、…助けてくれた。」
「…それは、覚えてないかも。」
「佐々木に許してもらえる場所も、作ってくれた。」
「それは、玲奈に感謝だね。」
福田は立ち上がる。
そして、90度しっかり頭を下げて…
「…いままで、本当にごめんなさい。」
その自慢の金髪が、まばらに床に着いても。
辞めること無く、頭を下げ続けた。
ああ、この人は筋を通そうとしてるんだ。
昔、自分が馬鹿にしてしまった人間に。
無償の優しさを受け取れるという場面で、この女性は。
わざわざ、自分の行いを振り返って。許しを乞うてから。
ちゃんとした、スタートラインに立ちたい人なんだ。
「玲奈が選んだ人は、間違ってなかったようだね。」
――――――――モデル事務所。
ざわざわ…
今日の撮影、終了ですーーー。
「おっつー。」
「おっつー、ねぇ。聞いた?あの話…」
えええええええええええええええ!!!
「な、なに…【えっちん】辞めんの?今、めっちゃ人気じゃん!」
その話題の中心人物である福田は、奥から着替えて出てきた。
「…何?…ウン、そうなんだよね。ウチ辞めんねー。さよなら。」
「…え、だってお金が…」
「そうだよ、えっちん。大変なんじゃ…」
「ああ、もういいんだ。借金は…有るけど。大丈夫」
「辞めないでよ、えっちん…オッサン達のパーティーとか…確かに嫌だけど…一緒にやっていこうよ。ね?」
「ウチ、もうメディアに出れないと思う」
「…え?」
「どういう…意味?」
そこに強面な男が来た。
「聞いたぞ…。おい福田ぁ」
「…社長、聞いたでしょ?ウチ、今日でさよなら。」
「な、何いってんだ、福田!…急にどうした?お前んち…借金もあるんだろう、働かないとって言ってたじゃ…」
「…もう、話しかけないでくれる?」
「な、しゃ…社長に向かって…なんて口の聞き方を!!」
「若い、オンナをいいように食べ放題ぃ。…楽しかった?」
「な、何だよ。いきなり…」
「アタシ、馬鹿だったからね…。使いやすかったでしょー?」
「…な、何の話だよ?」
ガタガタガタ…ガラァア!!!!
奥から、痩せたサラリーマンが飛んできた。
「しゃ…社長!た…大変です!!」
「うるせぇ、こっちも大変なんだ!稼ぎ頭の福田が辞めるって…」
「外に…外に報道陣が…!!!」
「アタシ…生放送のテレビで言っちゃったんだよね。…社長に襲われた。その後からずっといいように扱われてたって。仕事の為だって…耐えてたって。そう言ったの。…泣きながら。」
「…き、貴様ぁ!!」
パァァアン!!!
「痛ッ…。」
横っ面を平手打ちされて、福田は数m吹き飛んだ。
「きゃあああああああ!!!!」
「騒ぐな、お前らぁ!!いいか、ここで皆、絶対に動くなぁ!!俺が今、報道陣に対応してくるから…」
「…殴ってくれて、ありがとう?」
福田は笑いながら、起き上がる。
「…さようなら、社長。一瞬、好きになった時があったよ」
「や、やめろ…。ま、まさか…」
そこには。携帯電話をもった福田がいた。
【通話中】と記載された画面を見せながら。
「今、外の報道陣と…繋がってるの。」
「あ、ああ…な、なんてことを…」
「聞こえる?渡辺さん。」
「…ええ。聞こえるわ。このまま生放送で中継されてるわよ。…芸能界の闇が、暴かれちゃったわね?貴方、もう芸能界にいられないかも…。」
「覚悟は決まってます。…真田が、助けてくれたので。」
「…貴方も助けられたの?…私もよ。」
借金返済。
俺は、福田の両親と会って。
6000万の借金返済を即座に行い、人材派遣会社の経歴を持つトラック運転手の福田父を雇用した。仕事に就けなかった福田母も同時に清掃人として雇った。
その為、俺も企業を立ち上げることにした。
その人間の長所で働く会社。
「E-smile」
そう名前を付けた。
良いスマイル。…なんちゃって。
…周囲には名付けセンスで、徹底的に馬鹿にされた。
…それでも良い。
2009年から、アパレルブランドも始めた。
その筆頭責任者に、【福田 恵美】を起用した。
そのアパレルブランドは、2005年を境にどんどんと減少していく【ギャル】からの、見事な卒業先として、2010年以降は大きな利益を挙げていく事になるのだが、今はまだ誰も知らない。
…何かから、解放されたような。
清々しい表情で、最後のテレビ報道陣とのやり取りを楽しむ【福田 恵美】と。
その中継を両親で見ながら、涙を流して「良かった…。コレでほんとに…良かったんだ」と噛みしめる福田両親が印象的であった。
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