第41話 ギャル、謝って済ませたくない。

―――――ここは街中のおしゃれなカフェ。


「…居心地、悪い。」


「…もう。我慢して下さいよ、幸村くん。」


「…わかってる。…だけど…なんとなく昔から…こう…苦手なんだよなぁ。今はいないけど、こういったカフェにパソコン持ってきてパチパチ打っているの…。何かそんんなに意識が高い人間な訳ではないし…」


「…???なんの話ですか?」


「…気にしないで。」




―――――カラン、コロン。


「…悪い、待たせた!仕事で…その、偉い人とかに絡まれて…」


「…大丈夫。」


「…あ、その。お久し振りです、福田さん。」

「…おう。来てくれて嬉しいよ。…佐々木。」


・・・・・・・。




沈黙が続く。




「あ、あのな…」

ギャルは口を開く。



「…は、はい。」

緊張しながらも、返答するのは玲奈。


これなら。

この雰囲気なら、トラブル方面の会話ではないだろう。


そう感じた俺は、完全に。食に興味を向けていた。

俺は、ベーコンレタストマトサンドを食べる事に、少し必死になっていた。



「アタシさ…。去年から…モデルをやってんだ。」


「…あ、はい。存じ上げてます。」




ガサゴソ

…上手く食べれないな。すぐに具が落ちそうになっちゃう。

逆から…駄目だな。どうしよう。




「そ、それでな。…なんで、そうなったかというと…」




ズルッ…。

「…ああ!何だこれ、全然食べられないじゃん。」





「ちょ…アンタ、ホントに何なのよ。アタシ、佐々木に本気で謝ろうとしてんじゃん。…静かに食べてらんないの?」

ガチギレのギャル、怖い。



「…ごめんなさい。」

…そんな怒らなくても。




「…うふふっ。幸村くんらしいですね。」

玲奈は俺の事だと、すぐに笑う。…失敗は辞めて欲しいけど。



「…調子狂うわ。端的に言うよ?」


「…は、はい。」



「アタシもここ数年、どん底に貧乏になってた。親がビジネスと株で大きく失敗したから。…だからアタシは、大学生になった時から…稼げる仕事をしていって…今は、モデルになってる。」


「…それは、大変ですね。…凄い、頑張ったんですね?…きっと。」


「…笑わないの?」


「…何故ですか?」





バンッ!!


勢いよく。机に両手をついたのはギャル。

「…アタシは。アンタの貧乏笑ったんだよ?…高校時代、アンタは…お昼に弁当だって食べなかった。…アタシは。アタシは、助けるどころか!馬鹿にして…笑ってた…。」


「…福田…さん。」



「…アンタは私を笑う権利があるんだ。こんな馬鹿な女、本当にみじめだよ…。ホント。…ホント、本当にごめん。あの時、何にも分かって無くて…本当に、ごめんなさい。」


ギャルは机に向かって、頭をぶつけるかのごとく。

勢いよく頭を下げて、謝った。

声は震え、涙声にも聞こえてしまう。



「…福田さん、私は。」

玲奈は、優しい表情でギャルに語りかけていた。

横にいた俺が…見惚れそうになる程に。



「…頭を、上げて欲しいです。福田さん。」

「…え?」



「私は、感謝しています。」

「…は、はぁ?意味わかんな…」



「貴方のお陰で、真田くんと関係が深まりました。あの日が有ったから…私はバイトを始めて、借金を返し始めて…こうやって大学まで来ることが出来ました。あの日以前の私は、その日生きることすら…ツラくて。身体を売ろうかとも…考えました。」



「…ご、ごめんな。アタシはそんなアンタに…」


「…違うんです。本当に、今は恨むことなどありません。」

「…さ、佐々木。」


「実は…福田さんが貧乏になったかもって…知ってたんです、私。」

「…高2、か?」


「…はい。文化祭で元気な女の子が何度も準備を誘っていた日…。私も急いで帰らないといけない日で、見てしまいました。男性と逢って、お金を受け取って…ホテルに入るところを…」



悲しそうに。それでいて何処か諦めた表情で。

ギャルは力が抜けたように聞いていた。


「…そっか。情けない。そうだよ。援助交際、してたんだ。その繋がりで…今は偉いおっさん達からギャル雑誌の…モデルの仕事、貰ったんだよ。…ホント、なっさけない人生だよな。」



「情けなく…情けなくなんか…これっぽっちも無いんです!」

玲奈は…泣きながら、反論した。



「貴方は…。運命を変えなかったら、私も同じことをしていたんです。同じなんです!!私達は、おんなじ…境遇だったんですよ。笑える訳…無いじゃないですか…。」



「佐々木…。」


「逆に、お聞きします」

「…何?」


「私と福田さん、立場が逆転しました。…羨ましいとか、妬ましいという感情はありますか?私が…憎いとかの感情です。」


「…そんな事か。…ああ、そう言えばそんな風に思ってもおかしくないなぁ。」


「…そう、ですか。」


「…でも。…でもね、佐々木。アタシ、今…アンタを憎いなんて…これっぽちも思えないんだ。【ごめん】とか【なんで言ったんだろう】って後悔しかない。」



「…福田さん。」


「アンタみたいに…真面目だったら。アタシも身体売らなくても、良かったのかなって。…なんなら尊敬すらしてるよ。アンタの生き方はアタシには真似できない。」








俺は。BLTサンドを食べ終わって、ようやく落ち着いた。


「ふう…。ねぇ。福田さん、借金どれくらい?」



「アンタは…。この雰囲気も、わからないのかよ…。そうだな、6000万って言ってたような。もう…返すのに、どんだけアタシはオッサン達に…いいようにされていけば良いのか…わからないよ。」


やけくそ気味になって、ギャルはぶっきらぼうに返答する。

俺にも玲奈に対する優しさを寄越せよ。


「玲奈、どうしたい?」


「もちろん。…助けたいに決まってます。」



「よっしゃ。決定だ。」



「な…何?なんなの?」




「いや…ずっとね。俺、伺ってたんだよ。玲奈への悪意とか…なんかの打算とか。お金目的かな…とかさ。まぁ…こんな短い時間だから、上手に隠し切れたかもしれないけど…俺にはそう見えなかったからね。」


ポカンとしているギャルを。

俺はしっかりと見つめて、応える。


「…何?アタシ馬鹿だから、遠回しな言葉わかんないけど…。アタシ、マジで佐々木に謝ろうと来たんだけど!?…茶化すんなら、邪魔しないでくんない!?…どっかいってよぉ!!」

少し意図を理解しないギャルに、怒られそうになる。




「…玲奈も信じた。だから、俺も信じるよ。」




「…え?何なの、ホントに。いい加減にしないと…」





「…福田さん、その借金、俺が肩代わりしよう。」


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