第38話 2008年になったよ


2008年、3月。

俺は墓参りに来ていた。


「…父さん、母さん。ただいま」


「おばさま、おじさま…お久し振りです。」

「おじさん…おばさん…。会いたくなるよぉ」


梨沙の発言に、苦笑してしまう。

「大学も一息つける時期になったよ。本当は夏も冬も、休みは有ったんだけど…仕事を優先してしまったよ。


「おじさま、聞いて下さい。幸村くんは…何度言ってもず~~~~~と働いてしまうのです。何度…何度寝て下さいといっても夜遅くまで仕事を…。大学生ですよ?」


「おばさん、どんどん…玲奈の発言がお母さんみたいになってきてます。正直、ついていけない梨沙を許して下さい…」


「…うるさいな」


「…てへ。」

「…ごめんて」


「…父さん、母さん。聞いてくれ。…俺、結婚とは…少し違うかもしれないけど。2人とこの先の人生を歩んでいこうと思っている。なるべく…普通の学校生活をしていくつもりだけど…」


2人の顔を見る。

右に梨沙、左に玲奈。


「…もし。子供を授かることがあったら…。授かっても、喜べる。幸せな家庭を…俺は築くよ。だから…安心して、天国で見ていてくれよな?」


「幸村くん…」

「幸村さん…」



「…さ、帰ろうか。」


「あ、私はまだ伝えたいことがあります。」

「わったしもー。」


「…じゃあ、もう少しだけ。」


2人は、心の中で、俺の両親に話しかけていた。


きっと、今まで言えなかった気持ちなども話しているのだろう。

俺のように金だなんだと、邪な発想は…


なかなか、墓参りでは言わないよなぁ…



~~~~~~~~~~~


佐々木玲奈


おじさま、おばさま。

とうとう、私達は一年前に幸村くんと添い遂げました。


…長すぎでは、無いでしょうか?

私は出会って4年かかっています。正直、何度も…心が折れました。


この人から押し倒される日は来るのだろうか、と。


わかります。理性に溢れて私達の事を最優先で考えてくれる。


本当に良い男性です。ええ、そりゃあもう。


おじさま、言いました。

「俺の息子は、佐々木さんを強引に、なんてする人間じゃねぇ。そう背中を見せて、育てたつもりだ、安心してくれ」って。



…違うんです。

育てすぎです、おじさま…!


もう少し…もう少し手を抜いても。

そこは良かったんじゃないかなぁ…なんて、思ったりしています。




おばさま、言いましたね?

「ウチの子が佐々木さんに手を出せるとは思えない」


…その通りでしたよ!…本当にその通りで、私の1番の悩みのタネはいつもソコにあると言っても、全く過言ではありません。

そう思うなら、高校時代にもう少し…何か、手助け欲しかった…


…お二人には感謝しかありません。


ですが…息子さんのそういった部分にだけは、不満があると。


それだけ、報告させて頂きます。

…絶対、来年には子供を宿して。…報告に来るんですからね!


それまで、安らかに眠っていてくださいね?

大好きなおばさま、おじさま。


~~~~~~~~~~~


工藤 梨沙


おじさん。言ったね?

「工藤ちゃん、男性に暴行されたってな。…すまねぇ。聞いちまった。だけどよ…、男は全員獣じゃねぇ!俺の息子は、絶対にそんな事しねぇからよぉ。」


…違う。違うんだよ、おじさん。

幸村さんには獣になって欲しいの。すんごく獣でも全然ok。なんならウェルカム。

どうしてそんなに理性的なのか。私、すっごい困ってる。助けて。


おばさん、言ってた。

「あの子はモテないから、どっちかが結婚してくれたら嬉しい」って。


…嘘つき。もう、ホント許せない。大噓つき。


もうメチャクチャ毎日、幸村さんは美人に声かけられまくってる。


コンビニでも、スーパーでも。

迎えに行った大学でも。

…迎えに来てくれた、私の通信制高校でも。


モテてんじゃん!…めっちゃモテてんじゃん!!

焦ったねー。私。

私の入学式ですら。数人の同級生と教師が…気にし始めていたよ、ホント。


いやね、服装とか髪型とか…気にしないから。

私達、2人で魔改造したもんね。


それはモテるよ。理想にしちゃったもん。

…でもね、ここまでは思ってなかった。


もう…こんなんなら…高校時代に勝負を決めておくべきだった!


来年は…絶対、絶対に。

おじさんとおばさんに、赤ちゃん出来たって報告するからね。


待っててね。私の心のお父さん。心のお母さん…。

大好きだよ?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「…はい。報告終わりました。」

「私もー。」


晴れやかな、その表情に、さぞ丁寧に…結婚報告のような事をしていたのだろうと。

俺はそう思った。


「…うん。じゃあ…また来るよ、父さん。母さん。」




――――――帰宅。




俺たちは、自分たちの部屋があるアパートへ帰った。


その日は、「私がやる」といって聞かなかった梨沙が、夕ご飯を作った。楽しみにしていてと俺達は自分たちの部屋で待たされた。…といっても玲奈は俺の部屋を掃除に来ているのだが。



「出来たよー。」

そんな電話が俺の部屋に響く。大きな声だが、嫌味のない声。




「今日は、思い出のチキン南蛮ー!!」



「おっ…懐かしいな」

「おー。凄いですぅ。」




ガブッ。



「…凄いじゃんか。まるっきり、この味だ…。」

「私も分からなかったのに…、どうして…」


胸を張って梨沙は応える。

「…ホントに大変だったんですよぅ~?…チキンは下味もすっごい研究しましたし…タルタルにいぶりがっこ使うなんて…最近まで気付かなかったですよぅ。」


「あ、ホントだ。ほんのりチキンに生姜とニンニクの感じが…」

「…ホントですね。いぶりがっこだ、コレ」


誇らしそうに梨沙は続ける。

「ヒントはご両親の出身でした。」


「???」

「…なるほど、確かに」


「おばさんは北海道出身でザンギが得意。おじさんは東北出身でしたから…優しいおばさんなら。もしかしたら…入れるかなって。」


いぶりがっこは東北でよく作られる【燻製たくあん】のようなもの。


「…ありがと、梨沙。凄い懐かしい気持ちになった。」


「えへへ、抱きしめてくれても良いですよぉ」


「はは…。それじゃー、少し仕事をやったら…ちょっとだけ、2人を抱きしめる時間をもらおうかな?」


「ええー。今が良いです!…私だけでもいいです。ずーっと抱きしめてて欲しいです!!」

勢いで、押し切ろうとする梨沙。



「途中…ずるくない?…でも私も賛成ですよ?幸村くん。」



「この一年、頑張ったじゃないですか。」



「…だって、ホラ。見て下さいよ、貴方のパソコン。」



そう言われてパソコンのモニターに目をやると、




株式売買結果 370,000,000円



「もう…働かなくてもいいくらい。お金はありますよ?」



3億7千万。ある意味一つのゴールには至った。


「…まだまだだよ。これから時代はどんどん進んでいく。」

今は中国の急成長に乗っかったに過ぎない。

これから米国の株に資金を導入して、どんどん増えていくのだ。


ブログ収益も月750万まで向上した。

…というのも俺ひとりではもうやっていない。


玲奈が母のように、学生目線での節約ブログをやり始めた。

非常に好評で、玲奈自身も「声が優しい」と評判だ。


俺は学生同士のネットワークが可能なサイトを運用した。

次代のSNSに近い発想のサイトで、そこそこの反応だ。


佐々木家の妹も、高校生になるので学生に向けた化粧をまとめたブログを立ち上げた。


梨沙はアニメや漫画の考察でどんどん専門的なサイトを立ち上げる。

梨沙だけの収益を見ても月280万は稼げている。



皆で、経済的に豊かになってきている。







4月からは大学2年だ。



「…聞いてくれるかい、2人共。」





「…幸村くんの話なら、いつでも。」

「あ、私だってー。なになに?」









「…家を建てて…。一緒に住もうか?」





「…。」

「…。」




反応がない。





「…嫌だったかな?」







静寂はすぐに破られる。





「…う…嬉しいですぅぅぅ!!!!!!!」


「や…やったぁぁぁあああああ!!!!コレで一緒に寝れるぅ!」





2人が抱き合って、涙しながら喜んでいる。






アパートもそんなに変わらないんじゃないか。

そう…思っていた自分を、少し…恥ずかしく思えた。




「…あ、あはは。」

どうやら、お待たせしていたみたい。

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