第36話 真田の結論
「な…」
俺は言葉を、つなぐことが出来なかった。
玲奈さんが真剣な顔で見つめる。
「梨沙ちゃん、本気…なんだもんね。」
梨沙は、笑った。
「…ふふ。分かってる。」
その笑顔が、とても悲しそうな。
「…私、汚れちゃってるから。玲奈さんの方がお似合いなのも。分かってる。」
俺はブンブンと首を横に振る。
「そ、そんな事ない!!」
「…優しい。本当に優しい。…でもね、私は汚れているのは事実。」
「それでも。…それでも私は、【真田幸村】が。貴方の事が大好きなの。好きで好きで好きで…たまらない。一日中、貴方の事だけを考えてしまうの。」
どんどんと。
【工藤 梨沙】から言葉が溢れてくる。
「玲奈さんと一緒の大学。…ずるいなって思っちゃった。私がそこに居たい。私がずっと横にいたいって…。でも、私は【真田幸村】さんの幸せも。同時にすごい大事。」
「だって。…こんな底辺に堕ちそうな人間を救い出してくれた、私のヒーロー。誰よりも、幸せになって欲しい。…本当にそう思って…います。」
「梨沙…さん。」
「梨沙ちゃん…」
「玲奈さんも、私にとってはお姉ちゃん。誰よりも大事な家族。本当に…幸せになって欲しい、大好きな大好きな家族なの」
「でも、辛いの。」
「私だけのモノになって欲しいとか。私を求めてほしいとか。」
「…何度も、襲ってしまって。既成事実を作ろうかとも。…思ってしまった。」
「…大好きなの。…ううん。」
「…愛しているの、心から。」
眼が、トロンと蕩けたような。
紅く頬が染まって、夕焼けと相まって。
とても綺麗な、表情。
「…好意は。知っていた。…すまない」
俺の絞り出す言葉を聞いて、嬉しそうに微笑む。
「今日、爆発しそうになったの。入学式で泣いてくれた幸村さんを見ていると。」
「私を…本当に…大切に思ってくれたんだなって。…そう思うと、貴方が欲しくて欲しくて欲しくて…仕方ないのです。つらいのです。」
「梨沙さん…」
「…駄目ですよぅ。こんなタイミングで名前なんて呼んだらぁ。…襲いかかっちゃいますよぉ…。もう…私は自分の気持ち…抑えられる、気がしないんですぅ。」
ポロポロと。
涙を流し始める、【工藤梨沙】。
「こ、こんな女…そ、傍にいちゃ…駄目なんですぅ。」
「違う。」
横に居たはずの、玲奈さんが。
いつのまにか、梨沙の傍に居た。
「ち、近寄っちゃ…駄目だよぉ。【告白は辞めよう】って二人の約束を破ったのにぃ…。こんなズルい奴、駄目なんだよぉ!!!!」
【工藤梨沙】は拒絶する。
「…そんな事を。それぐらいの事。なんとも思いません。」
「…はへ?」
グイッ!!
玲奈さんは目を見開いて。
梨沙さんの顔を両手で包み、自分の顔と近づけた。
「…私なんか、私なんかぁ!!ずっと…ずっとずっとずっとずっと…!幸村くんの部屋で寝泊まりしていた時から…。」
「貴方を、どうにか【私の真田くん】から。【私だけの真田くん】から離そうと思いました…。私は、貴方が思っているより何十倍も醜い女なんです…。」
「何度…私に、勇気があれば…。合鍵を使って何度も何度も寝ている【私の真田くん】を。そんな不純な事ばかりを考えて。それでも…関係が壊れることが怖くて怖くて仕方なくて…」
「そんな時に…積極的な梨沙ちゃんを見ると…もう、駄目でした。私は貴方を何度も嫌いになりかけましたし、そんな梨沙ちゃんを見る幸村くんが【私の真田くん】で無くなっていく事を…私は、憎みました。」
玲奈さんは振り返る。
「こんな…心が醜い。私ですが。」
「私も【工藤 梨沙】さんに負けない気持ちが、あります。」
「【真田 幸村さん】」
「…はい。」
「私は、貴方が大好きでしょうがないんです。…貴方が居ない世界は考えられない。」
「…気が、ついて。いました。」
「…はい。あれで気が付かない訳は無いと。私達は思っていましたよ。」
玲奈は紡ぐ。
「…それでも。私達は貴方と一緒なら良かったの。」
梨沙は言う。
「…嘘つき。」
玲奈は笑う。
「ふふ。その通りよね。…お互い、自分だけの幸村くんにしたくて。…したくて、したくて、したくて仕方ない。仲良しなのに…本当に大事な家族だと思った友人の好きな人を奪うような事を…お互い考えていたのにね…。」
「「最低…よね」」
二人は同時に、言い放った。
まるで人生を諦めるような。
そんな発言だった。
「い…嫌だよ。2人共、なんか…どこかに行ってしまいそうな…そんな発言しないでよ…。俺にとって、大事な。大切な友人なんだ。」
「…どちらかを選んで、誰かが居なくなるのを選ぶなら…俺はどちらも選べないよ。」
最低な発言かもしれないが、俺はまだどちらとも付き合っていない。
付き合うことが、この関係性を破壊するなら。
俺は、その先を望まなかった。
「わかってました。…優しい幸村さんなら。そう考えるって。」
「私も。気が付いていました。」
・・・・・・・・・。
ヘタレがバレていたのか。
「ふふっ…。そんな複雑そうな顔、しないで下さいよぉ。」
梨沙さんが近寄って、右腕に抱きついてくる。
「ホント…私達、貴方のその顔は見ていられない様になってしまったんですよ?」
玲奈さんも左腕に抱きついてくる。
「はぁぁぁぁ……、やっぱり、こうなっちゃうんだなぁ」
梨沙さんは、大きなため息をついた。
「ふふ…。私達の考える【もしもの結果】になっちゃいましたね?」
玲奈さんは笑っている。
何か覚悟が決まったような。
何かが決定したような。
そんな雰囲気。
「な…なんの話?」
2人は仲良さそうに、顔を見合わせた。
「私達の。」
「限界ってのも」
「「あるんです」」
2人は俺の両手を掴んで、ズンズンと歩みを進めて行く。
「…ちょ…、待ってよ。2人共。どんどん歩いていくけど…、この後はお祝いのレストランに…」
「そんなの、さっきキャンセルしました。」
「…えええ???」
「それより、大事な場所にいくんです。」
「いや…お祝いも、してあげたいし…。何処に向かっているか、良くわからないし…2人はなんだか…強硬姿勢だしで。…混乱しています」
「そのまま、混乱していて下さい。」
「私達はもう我慢しません。」
足早に連れてこられたのは。
大人なホテル。
「ちょ…ちょ!!!!な、なんて…」
「入りましょうか。ね、玲奈さん」
「そうね、すぐに入りましょ。梨沙ちゃん」
「…倫理が、破綻してるって!これは付き合ったり、結婚した人が…」
「…うるさいなぁ。」
「頭硬いですね…」
2人が。こちらに、睨み付けるように振り返る。
「私のことは好き?幸村さん。」
「そ、そりゃぁ大切な友人だ。好きだよ」
「じゃ、じゃぁ私は?幸村くん」
「だからぁ!好きだって。大切だってば!」
再度、両腕を掴まれて。
ホテルに歩みが始まっていく。
「じゃぁ、良いですね。私は愛しています❤」
「私も愛しています❤」
「ほ…本気なの?」
「ええ。」
「…もちろん。」
「…わかった。」
引かれていた両腕を。
俺が2人をリードできるように組み直す。
「…俺も男だ。2人に… 玲奈と 梨沙に。恥はかかせられないよ。…行こうか。」
「「~~~~~~~❤❤❤!!」」
女性陣は一気に顔が紅くなり、下を向いてジタバタしている。
「梨沙さんばっかりは…駄目ですよ?」
「2人共、満足させて下さいね?」
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