第35話 それぞれの愛の形


次の日からも、大学はもちろん続いた。


執拗に付き纏う、【佐々木笑】。


一度、怒りを示してからは。

俺は、出来るだけ、そっけない態度で接し続けた。


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「おっはよー!真田くん。」

「…ども。」


「明日、新入生の歓迎コンパあるってさー。もちろん行くよねー?サークル関係なしのやつだよー!?」


「…仕事で忙しい。元々行く気無い。」


「ええー!?せっかくの大学生活、もったいないよぉ。あ、サークルとか…どっかに入るか…決まった?」


「…君には関係ない。サークルも入らない。」


「…えぇ~。じゃぁー私達で、新しいサークルでも立ち上げる?…あ、ちょっと!どこ行くのよ~!」


「…玲奈さんと、もう一人の友人を待たせているので。」


「…絶対。絶対諦めないんだからぁ!!」


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――――大学の講義後。


一度、俺は銀行に来ていた。


両親の持っていた財産の整理も終わり、3ヶ月かけてゆっくりと対応したのだ。

相続税を含めて、過不足無く支払って。


手元には2700万円のお金と、実家の跡地&倉庫の権利を得た。

悪魔の火災によって顧客のpcが失われた部分も、保険と相殺させていく手間は。


とても大学生には出来るものでは無かった。

よかった、前世の知識があって。


まあ、一人でやった訳ではない。


「…元気にしていた?真田くん。」

「お久し振りです。…電話ではお世話に…。TVでは何度か御見掛けしましたが、お元気そうで。【渡辺 遊里】さん。」


そこには、悪魔に襲われた女性が居た。


「良いのよ。…恩人には何かを返したかったから。…あ、勘違いしないでね。これで恩返しが終わった訳じゃ…」


「十分ですよ、ホント。両親の相続関係、税理士への情報提供。…渡辺さんが居なければ…どうなっていたのか。」


「貴方なら、自分で探してやっていたでしょうに。私は貴方の負担を少しだけ減らしたに過ぎないわ。私は…もっと何かで助けてあげたいのに…。」


「はは…。そういえば、渡辺さん。あの記事、見ましたよ。凄いですね!」


「…あ、ああ。ありがとう。…でも良いの?恩人を使って私…本当のジャーナリストになってしまうなんて。」


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【渡辺 遊里】は元々、営業のOLだ。

大学で社会行動を研究しながらも、父に新聞記者を持つ。


あの悪魔の凶行後、襲われて助かった際に。

そのボロボロの状態でも、メディアに出続けた。


それは執念にも思えた。

あの悪魔が如何に凶悪か。

それを助けた人間は、如何に勇気を奮って助け出してくれたのか。


父である新聞記者と一緒に、メディアに大怪我の状態で出続けた。


「警察がもう少し早く動けたら。即座に捕縛できていたら。もう少し、危険度を私がしっかりと伝えられたら。」


「私を助けた青年は襲われず、その父親は惨殺されず。その母は犯人と心中する事は無かった。」


その後悔を、泣きながら発し続けた。


それは絶対に、世間から俺を。

助けた恩人を、擁護させるためだけに動いていた。


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俺への取材記事で、【渡辺 遊里】さんは一躍有名な記者となった。


「…違うんだ。助かるんだよ、あの内容。…そもそも俺が頼んだ訳だし。」


「…そっとしておいて欲しい。って内容ね。あれだけ書けば、良識ある人間は貴方を付き纏うような事は…しないでしょうね。」


事件から3ヶ月の間。

様々な興味本位の質問や、世間の注目を解消するための記者が俺に訪れた。


それに嫌気が差した俺は、早めに渡辺さんに連絡を取った。


【迷惑だ、近寄るな。興味本位で近寄る人間は許されない。】


そんな内容の記事を書いてくれた。もちろん多方に配慮の有る言葉で。


「…良識、ね」


「あ、あの記事で何かトラブルあったら…すぐに言ってよ?


「…渡辺さん、俺はもう大丈夫。」


「…貴方は、私が守るから。この先…何年経っても、この考えは変わらない。…それだけはわかって欲しい。」


「…んん。ありがとう。渡辺さんもいい人生を歩んでね。」



渡辺さんと、別れた後は佐々木さんと合流する。


「…玲奈さん。今日は晩ごはん、いらないから。」

「…え?…あ、そうでしたね?…やだ。いつもの感じで買い込んじゃった。」


「…大丈夫。また常備菜を考案してみて欲しいな。…結構、玲奈さんが帰った後に一人で軽食がてら…冷凍ご飯と食べるんだけど、好きなんだよね。」


「…私としては。幸村くんが食べるもの全部、その場で作ってあげたいんですけど…。時々のお夜食とかだって…、夜遅くなったらって、私達を帰すからぁ。」


「それは、玲奈さんと梨沙さんのプライベートが無くなると思ってね。バイトで縛り付けたくないから、ね。」


「…もっと縛り付けてくれても…いいですけどね!…一緒にこうやって居るのは、本当に私の幸せなんですからぁ!」

最近は、玲奈さんも感情を出してくれる。こうやってプンプンしている玲奈さんを見るのも、また楽しい。


「…ほら、急ごう。梨沙さんとの約束は18時だ。」

「あ、そうですね…もう15時。準備しないと…」



今日は【工藤 梨沙】さんの、通信制高校の入学式。


通信制であり、夜間の生徒と一緒に入学式となった為、今回この時間となった。

一般の学校と、時期もずらしての入学式となっていた。


普通は家族が出席する。

でも、梨沙さんは俺たちに「出て欲しい」。そう言った。



快く。

了解した。



―――――入学式。




そこには、着物に袖を通した、見目麗しい女性がいた。

名前は【工藤 梨沙】。



中学途中で家出をし、青春を失った少女は。


本当に晴れやかな表情でそこにいた。

その参加している姿は、月80万を稼いだとしても、人生を変えなければ…得られない姿だったのかもしれない。




「ようやく…私のスタートラインに立てました。本当に…本当にありがとうございます、幸村さん。私は、貴方と出会わなければ…身体を売って、どんどん取り返しのつかないことに…なっていました。」



俺は涙で、晴れ着が見えなくなった事を。

よく覚えている。


玲奈さんなんか、滝のように涙を流していた。




ふう…と一息を。

梨沙さんはついた。


「それで…。このタイミングで、言いたいんです。」




「んん?…なんだい?」

グッズグズの表情で、俺は返事をした。



着物をゆっくりと。


妖艶に、そしてとても洗練されたような。


そんな所作で。



…近づいてくる。



「…私は。」












「…私、【工藤 梨沙】は。」


「【真田 幸村】さん、貴方を。…貴方を心の奥底から、本当に、本当に愛しています。…お付き合い、して。…欲しいです。」



――――世界が、止まった気がする。



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