第33話 元妻への対応と稼ぎを増やすこと
大学の朝は遅い。
今日は10時20分からの講義が最初だ。
それまでは…惰眠を貪ってやるのだ。
…トントン…トントン…
「今日は…して…他の…ね。」
「あ、で…今日…な…なのにー。」
にぎやかな声が聞こえてくる。
「む…。おはよ。2人共。…まだ7時半じゃないか…」
「あ、おはよー真田くん。」
「おはよ、元気?ぎゅ~する?」
「ははっ。元気だから大丈夫。」
「むー。」
ふてくされる工藤さん。
「ふふっ。眠そうですね。…今日の朝は和食御膳です~。鮭を焼いて、小鉢いっぱいにしてみました~。お味噌汁は、なめこにしてみました♪」
「…最高だね。でも、もっと遅くてもいいのに…」
佐々木さんは笑ってしまう。
「うふふっ…真田くん。朝ごはん食べないで行く癖付いちゃいそうだから…最初から生活リズムを付けていきましょ?」
横で工藤さんが悔しがっている。
「くっ…。良い嫁感が強い…。私は…私は、それなら…徹底して堕落させてやるんだから…!ゲームでも…アニメでも…楽しいこといっぱいにしてあげますからね~。」
…張り合う2人が、心を落ち着かせてくれる。
「2人共、ありがとね。」
「真田くん…」
「あちゃ、バレてたかな?」
「もう…落ち着いたから大丈夫。大学、頑張るよ。」
「…うん。」
「…いつでも抱きしめるし、養うからね。」
「…恥ずかしいから、大丈夫です。」
「そ、そんな事は…」
「全然、もっとお願いして欲しい~。」
女性陣は今日もにぎやかだ。
―――――――大学にて。
「最初の講義だ、頑張ろうか。」
「そ、そうですね。頑張りましょう。」
そんな決意を示した俺たちは、教授が来るまで、講堂の後ろで着席していた。
「あ、有名人だー。…隣いい?」
早速現れた、元妻…の可能性【佐々木 笑】。
「い、いいけど…広いし、席は空いてるよ?」
「あ、ひど―い。一緒に受けたくない感じ?…あ、彼女を気遣ってたりとか?」
「…いや、そういう訳では。彼女は付き合っている訳じゃない。」
「…ッ!…へ~ぇ。そうなんだぁ。…え?どんな関係?」
奇妙な雰囲気を、感じ始めた。
「同じ学校の同級生で…とても大切な友人だ。」
「…へぇ。…仲良しさんなんだぁ。」
勘違いだろうか。
舌舐めずりしたような。そんな気がする。
「じゃぁ…私も、仲良しさんになるチャンス、結構有るかもねぇ…よろしくね、友人さん?」
佐々木さんに向かって、元妻(?)は握手を求めた。
佐々木さんは穏やかな表情を見せて、元妻(?)に告げる。
「…そうですね。これから宜しくお願いしますね。まだ逢ったばかりの佐々木さん。私の名字も佐々木です。…【佐々木 玲奈】です。」
少しだけ、この場から逃げ出したくなるような。
静かな牽制戦を見ているような、そんな気がした。
ガラァァァァ。
「お集まり、ありがとう。それでは授業を開始する」
助け舟の登場で、その場は沈静化されたのだった。
だが授業が始まっても、佐々木笑の行動は止まらない。
「まず皆さんにはパソコンの概要と―――――
教授は授業内容の説明に入った。
真面目に言われることの確認を、手元の資料で行っていると…
カサッ…
隣の佐々木笑から、小さく折り畳みこまれた紙が渡される。
小声で、話しかけられる。
「ひ・ら・い・て…。」
ノートを取りながら、タイミングを見て紙を開く
その中身はやはりというか、なんというか。
彼女はいないのか?
どこに住んでいて、何が好きといった質問が沢山書いてあった。
「…すまんが、授業中だ。」
「っっと。そ、そかそか。ごめんねー。時間ある時でいいから。」
にこやかに返答する佐々木笑に、俺は苦笑しか出来なかった。
その後は、もう一人の佐々木さん…玲奈さんに少し近づくようにして授業は過ごしていた。もちろん、聞き取りづらい教授の小声に戸惑うことが多かったからという理由もあるが。
「―――――本日の講義は、コレで終了とする」
「…ふう。聞き取りづらいな。後ろの席を取ったのは間違いだったか。」
「ふふっ…。そうですね。今後は前方に席を取りましょうか?」
「あ、ウチもウチもー。」
「…む。佐々木…笑さんは講義しっかり聞いてなかったようだけど…?」
片手で髪をクルクルしながら、佐々木笑は返答する。
「あ、この講義。過去問あったら楽勝だって聞いてるから…。そんな集中することは無いんじゃない?」
…不真面目だな。
「…そうなのか。それは教えてくれてありがとう。佐々木笑さん。」
「あ、ちょ…ちょっとさー、せっかく 友達になったのにフルネームってどういう事~?ウケるんだけどー。」
俺は苦笑してしまった。
「ん…。あはは。そうだね。せっかく 友達になったのに、 名字で呼ぶのは違うよね?」
「あははー。そうだよ、真田くん…って何?名字って?…私はフルネームって…」
「そう思わない?… 玲奈さん。」
「え…あの…、う、嬉しいです… 幸村くん。」
「…え?何なの、一体?」
「いや、俺ら高校1年から友達なのに…名字で呼んでたから…」
「そ、そうですよね。」
「じゃ…じゃなくて。私のことを下の名前でって…」
「佐々木、笑さん。…俺はすぐに友人関係を作れる人間じゃないんだ。すまない。…この感じが嫌であれば…今後は俺と関わらなくても、大丈夫だよ?」
「あ、え。な、何で?…私、そんな可愛くない?」
「外見の事は言っていないよ?…俺がそういう交友関係の築き方ってだけだよ。」
玲奈さんが頷いて、フォローしてくれる。
「…幸村くんにとって、貴方は大学の知り合いです。幸村くんは信用した人間を…信用して初めて、【友人】と呼んでくれます。…凄く、人を大切にする方です。」
「な、ななな…じゃ、じゃぁ信用してよ、アタシのこと!過去問とか…なんか、得になることイッパイしてあげるよ?他には…」
俺は覚悟を込めて言う。
「佐々木、笑さん。」
「ふ、フルネーム止めてよ。」
「質問してもいい?」
「え、ええ。もちろん。」
これは未練を捨てる、そんな質問。
「君は…どんな人が好き?」
「え…。あ、なんだぁ。結果、やっぱり真田くんも男じゃーん。」
「…好きな人の特徴は無いの?」
「…ふぅん。そうね、私は【特別な人】が好き。皆から注目されて羨ましがられるような、そんな人。」
「…へぇ。そうなんだ。」
「…私ねぇ。【パソコンショップS】のブログ見てたの。あんなニュースで、騒がれる同級生。その悲劇の主役のブログを見てたら、ここの大学を受けたって聞いて…。どう?私、貴方を追ってきたのよ…?凄いと思わない?」
「…それは、凄い行動力だねぇ。」
「ね、ね?だから…私と仲良くしよぉよ…。私は、何にも望まないよ?…貴方と街中を歩くだけでいいの…。皆が貴方を知っていて…貴方に声を掛けてくれる。そんな人の彼女なんて…私、私…それだけで【気持ち】が昂ぶっちゃうわぁ…。その代わり、私はなぁんでも。してあげる…から。」
「…ありがとう。」
「…へ?…あ、ああ!付き合ってくれるって事…」
「…未練を、これっぽっちも無くしてくれて。本当にありがとう。」
「え、ええ!元カノかしら、…私全然気にしないから…」
俺は、下を向きながら。
言葉を繋げていく。
「佐々木、笑さん。」
「だ、だから…フルネーム嫌だってば。」
「俺ね、今Web関連で仕事していて…月360万稼いでる。」
「わ、わぁーー!!す、すっごいじゃない。大金持ちでもあるんだ!」
「株式も2100万円、運用している。」
「え、ほ…本当に凄いのね」
「未来の妻の為に、いっぱい副業を勉強して。小さい失敗もいっぱいした。」
「す、凄いじゃない!そんな人の奥さんに成れたら、ホント最高よね!」
俺は、ガバっと頭を上げて、【佐々木笑】を睨みつけた。
「その妻が、裏切らなかったら。ね?」
「な、…う、裏切らないわよ!」
「君 は 、 絶 対 に 裏 切 る 。」
そう言って、玲奈さんの手を引いて…俺は、大学の講堂を飛び出していった。
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