第32話 大学生活と元妻?
――――大学。
俺にとっては…単位をなんとなく取って、空いた時間をバイトや麻雀、ソシャゲに費やす。つまりは【面倒くさい場所】のイメージだった。
佐々木さんのように、学びたい事が有るのはとても素晴らしい。
今後の時代はPC技術やインターネットサービスが発展していくことで、IT関連がぐんぐん伸びていく時代だ。佐々木さんのように有能な人材ならブラックな企業に行くことも無いだろう。
俺も、コピペばっかりだったプログラミングを一から学び直す事になる。
楽しいような、二度手間のような。
「真田くん、真田くん。一緒の講義を受けましょうよ。」
「んん。そうだね。」
――――ざわざわ――――
…んん?なにやら周囲が騒がしい。
「…アイツ、…ってホントかな」
「…間違いな…、だってニュースと…」
「…なんか、ざわざわしてるね。佐々木さん」
「…自覚ないんですね?」
「…え?」
小声で話しかけてくる
「…皆、貴方を…観てるんですよ!凶悪事件で、有名になったじゃないですか…!女性助けた事も…あの女性が証言していたし…、何にも考えていないのは、真田くんだけですよぉ!!」
そう言えば卒業式も。何やらあんまり話したことが無かったクラスメートから、写真をいっぱい撮られたな。文化祭で泣かした女子なども「思い出いっぱいだね」なんて言ってきた。…おいおい、アンタと良い思い出、全く無いぞ?
ギャルも…写真を撮ってきた。
「アンタ…〇〇大学行くんだってな?」
「ウチも行く。行ったら…少しは仲良くしてやんよ?」
「あ、いいです。…遠慮する、大丈夫。」
そう言って、メチャクチャ怒られたのを覚えている。
だって嫌われてたじゃんか。
現在に戻ろう。
有名ってのは、あんまり良いことじゃない。
それを今、体感している。
講義の詳細が乗っている掲示板を観ていると…
「…おい。お前が、新入生の有名人か?」
「…新入生ではありますが、有名人だとは思えないですね。」
「…けっ!女連れて良い身分だなぁ。調子乗ってんじゃねえぞ?」
「彼女は同じ高校の友人ですね。…先輩ですか?俺、今講義を調べてただけですけど…」
「…うるせぇ!あっち見ろよ、ざわざわしてんだろぉよ。」
「俺が…原因ですか?違わないですか?」
変な人間に絡まれたものだ。
学力が上がると、こういった人種は減ると思ったんだがなぁ。
「…っち。うるせぇな。お前が…」
「あー。…有名人が、なんか怖い先輩に絡まれているー。」
ビクッとした。
聞いたことがある声がした。
「な…俺は、そんな…」
「ああー。先輩、…悪い人ですかぁ?」
「あ、いや…そんな。俺は注意しようと…」
「あ、じゃあ良い人ですねー。これからよろしくお願いします~。私…
【佐々木 笑】って言いますー。」
「あ、そこの…男の子…真田、くんだっけね?そっちもよっろしく~。」
…妻だ。間違いない。
この声、この仕草。
…なのに、元妻とは思えない顔立ち。
どういう事だ?少し地味めな顔立ちだ。
でも、名前はそのままだ。
…待て。この大学だったなんて聞いてないぞ?
もっと低いランクの大学出身だったハズだ。
どういうことだ。…未来が変わったのか?
不信感の塊になった俺は、挨拶をロクに返さずに。
その先輩が。元妻に弁解しながらも、その後を下心で着いていった、その後ろ姿を。
観ていることしか出来なかった。
その日はずっと、心ここにあらずという状態で過ごした。
講義などは、全て佐々木さんに選んでいってもらった。
途中、同じ高校を卒業したギャルから話しかけられたが、上の空であった。
それによって、また怒られたのだが。
俺たちは帰宅した。
俺の今の収益は月360万くらい。もっぱらWeb関連の収益だ。
結構良いところに住むことは出来たが、そんなに贅沢はするつもりはなかった。
数回の吟味の結果、オートロックが付いているアパートを借りて住む事となった。
そのアパートには3階に俺、2階に佐々木さんと工藤さんが住むこととなった。
佐々木さんは呟く。
「私達は外国人みたいに…シェアハウスでも良いと思いましたのに…」
工藤さんは同意する。
「ホント、ホント。いつも一緒に…いれるのにねぇ。」
「…駄目だよ。若い女性が、結婚前に男性と住むなんて。」
「「頭、カッチカチですぅー!!」」
女性陣は、ブーブーと講義をしてくる。
「どう言われても構わない。…君たちは、一緒に住んでいいんだよ?」
「むー。それも考えましたが…」
「…私達も色々有るんですぅー!」
「…仲、凄く良いじゃないか」
「仲良いですけど…。それとコレは…別なんです!」
「…一緒に真田さん居るなら、2人共OKしますよ?」
俺は苦笑してしまった。
「…理論がわからないよ。」
その日は、自室に帰ってベッドに倒れ込む。
夕食は工藤さんが先に帰ってきて、準備していたらしい。
18時に工藤さんの部屋で食べることを皆で約束した。俺は「考えたいことが有る」とだけ伝え、自室に戻った形となる。
【佐々木 笑】
誰に対しても、人当たりがよくて嫌われない人間だった。
…思い出せば、俺と結婚した後は、笑顔を見せることは少なかったような気がする。
会社内でも、色んな年代の社員と会話が弾んでおり、俺には本当に眩しく見えていた。持ってくるお弁当も、いつも皆との会話の糸口になっていた。
…あれ?俺って…妻にお弁当作ってもらったことが無いような…
元上司と逢う事も無くなるなら、浮気も無くなるのではないだろうか…?
元妻は【特別な人】が好きだったし…。今の俺なら…。
今の…俺なら…?
今の俺は…
彼女と付き合いたいのか?
結婚したいと思うのか?
…裏切られたのに?
あ、でもこの時代はまだ裏切ってはいないような…
更に気になるのは、顔立ち…だ。
どう考えても、前世の顔とは…ほぼほぼ違う。
元妻は…違う人物なのだろうか?
悩みは尽きない。気がついたら、気を失うように俺は眠っていた。
――――――――。
「…きない。」
「…てるのよ、どうしましょ?」
・・・・・・・・・・・。
「…だけ!お願い!」
「…だ、駄目よそんな事…」
そんな少し言い合うザワツキから、俺は目を覚ました。
「ん…んん?」
「あ…起きたぁ。」
「…もう!佐々木さんのばか~。」
起きて、いきなり何なんだ?
佐々木さんが困り顔で説明してくれる。
「約束の時間になっても、来られないから…どうしたのかなって。合鍵で一緒に入ったら寝ていて…無理に起こすのは良くないって。…そしたら。」
工藤さんが悪びれない表情で、すり寄ってきた。
「進学の不安とか…周囲の環境とかで疲れているなら…寝かせてあげたいなって。前みたいに…落ち着く状態で、ね?」
「んん?…前?」
「うふ…。抱きしめてあげようと思ったの。」
「だ、だから…そんなの駄目なんですって!!」
「…ホントに?」
「「え?」」
「あ、いや…すまん。気にしないで。少し…ツラくて。それで…眠ってしまったものだから、つい…。」
ぎゅ…
ぎゅぎゅ…
前後から、温かい柔らかなもので包まれていく。
「…っ大丈夫ですか?…真田くん。」
「…気づけなかったなぁ。もっと、…いっぱい見てないと、駄目だなぁ」
以前と違うのは。
前に工藤さん。後ろに佐々木さんがいることだ。
「…うん。ありがとう。…ごめんな、凄い…落ち着いて…気持ちが…楽に…なっていくよ…。」
「ふふ~ん。…それなら、いつだって。毎日だってしてあげますよぉ。」
「あ、ああ~!ずるぅ~。それなら、それなら私は…」
ふわふわなセーターを脱ぎ捨てて、工藤さんは俺をその豊かな胸元で抱きしめる。
「むぐぅ…!!」
「…私は、どんな事をしていても。真田さんを…優先しますよぉ?こんな都合のいい奥さん候補、どうですかぁ?」
「…な、何してるんですかぁ!!?そ、そういうの駄目って…二人で決めたばっかりでしょぉおおお!!?」
「む…そう言われると…困るかも。」
「い…いいから。離してくれ、く…苦しい!」
落ち着いた感情が、違う方向に引っ張られそうで大変だった。
工藤さんの家での夕ご飯は、すき焼きだった。
メチャクチャ、美味しい。
締めのうどんとクッタクタの白菜。
染みっ染みの豆腐が、何よりも気持ちを落ち着かせる。
変わり種の具材でトマトを入れてきたのは驚いたが。
…トマト、うまぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます