第29話 家出少女の再出発と幸せへのスタート
ガタン――ゴトン――
「前は車で来たけど…電車も悪くないね。」
「は…はい。…なんだかデートみたいで嬉しいですぅ!」
「…私もいますけどね。」
電車内で俺を挟んで、少女2名が牽制し合う。
前はもっと仲良くしていたような…。
「なんか前から喧嘩すること増えたね、2人共…」
「あ、違いますよー。」
「喧嘩じゃないですー。」
…じゃあ、これは一体何なんだ。
今は2県隣の県に向かっている。
そこには工藤さんの母親が住んでいる。
1年半という時間を要したが、ようやく工藤さんが自分の母と逢うことが出来るようになったのだ。
多分、母の恋人という人間もいるだろうが。
そこは全力でフォローする。
「…でもすみません。真田さんの身辺が落ち着く前に…私の事を優先してもらって…。本当ならあそこの店跡をどうするかって…話をしなきゃいけないのに。」
「気にするな。あそこはもう、何を建てるか決めている。大丈夫だよ。」
「え?」
「…なんですか?」
「小さなスタジオ」
「???」
「よく…わかんないです」
「まあ、おいおい…ね。」
―――――プシュー。
「お、着いたみたい。」
「き、緊張しますぅ」
「私達がついているからね?」
「が、頑張ります!」
-------------約束したカフェ。
「…本当に来るかな、あの娘。」
「…来ないかもなぁ、1年半家出してきた奴だぞ?」
先に待っていたのは40代の男女。
「あ、あそこかな?」
俺が先に声をかける
「あ、あの工藤さん…でしょうか?私、ご連絡した真田ですが…・」
「あ、そうです。貴方が真田さん?…思ったよりお若い…」
「ホントに…アンタが梨沙を匿ってたのかよ…」
「そこも含め、まずは本人からお話を聞いて下さい。」
「…お、お母さん…」
「…梨沙。」
おずおずと。工藤さんは俺の後ろから姿を現した。
「…ひ、久し振り…?」
「あ、貴方って娘は…なんで家出なんか…!!」
俺が間に入る。
「落ち着いて下さい、お母さん。」
「な…部外者は黙っててよ!!」
「部外者では無いですね。…貴方は捜索願などを出されましたか?…その間の梨沙さんを自宅に泊め、両親に世話を願い出たのは私です。話に入る権利は有ると思いますが…」
「…はんっ!!小僧が…。どうせ、梨沙の身体目的で、泊めたんだろうよ…信じるな、こんな奴の言葉なんか…」
―――――――バンッ!!!
工藤さんが、力いっぱいにテーブルを叩いた。
工藤さんは珍しく怒りに震えていたようであった。
「…貴方が、私を襲った貴方が…恩人である真田さんを…!!!」
「り…梨沙?」
工藤さんに、手を伸ばす母の恋人。
―――――バシン!!
その手を、工藤さんは強く振り払った。
「…触らないで下さい。もう一度、私に触れないで下さい。」
「な…なんてことを言うの!貴方のお父さんになる人よ!!」
「…お母さん、お父さんってどんな人?」
「…何よ、急に。…お父さんってのは家庭を支える、守る人のことよ!」
「…ふーん、そうなんだ。そのお父さんは娘を好きなように扱えるの?どんな事をしてもいいの?」
「お、おい…止めろよ!梨沙…お前何言ってるか…」
―――――うふふ。
工藤さんは、不敵に。どこか妖艶に微笑んだ。
「…何をいってるか。わかってるよ、私。…お母さん。…まずは…今の私の状況、聞いてくれる?」
「え…ええ。…聞かせて頂戴?」
「私は今。真田さんの助けを貰って、アニメや映画の詳しい説明や考察についてをまとめたブログやサイトを3つ運営しているの」
「ブログ…?そんな日記みたいなのが、いったいなんなの…?」
「ははっ…。それが人気でね。広告をつけて運営していると…月80万くらい稼げているんだ。…何にも出来なかった私が。ちゃんと稼げるようになったんだよ…」
「ま、まあ!!凄いじゃない!!」
目に見えて反応が変わってくる工藤母。
その反応を一つ一つ確かめるように見る、工藤さん。
「…そうだね。それで…家出の原因だっけ?聞きたかったよね、お母さん。」
「や、止めろおおおおおおお!!!!!」
工藤さんの母の恋人が、いきなり襲いかかろうとする。
工藤さんは予期していたように、その場からさっと逃げて俺の後ろに隠れる。
「お母さん!!」
「な…なに?」
「私は…、私は…」
「や、やめて、やめてくれええええええ!!!!」
そう言いながら、俺を押しのけて工藤さんを捕まえようとするも、テーブルに引っかかり転倒する恋人さん。
「…私は!…その人に!!…乱暴されたの!!!!!!!」
言えた。
その言葉が言えるか、心配していたが。
手伝いなしでも言えるじゃないか。
佐々木さんと俺は視線を合わせて、笑うことが出来た。
工藤母は驚愕する。
「な…なんですって…?」
「ち…違うんだ。仲良くなろうと…」
その言葉を聞いて、工藤さんは追撃する。
「ふーん。貴方の仲良くなるって…そういうことなんだぁ。どうなの?お母さん。こんな人と結婚するの?」
「…あ、え、あの。…その。」
「お母さん、どうしたの?この人を選ぶの?」
「だって…その…入籍…しちゃった…し…」
「ふーん。そうか。」
満面の笑みになった工藤さんは、俺に一度視線を合わせて頷いた。
俺も意図を理解して、しっかりと頷いた。
「じゃあ…もう会えないね。バイバイ、お母さん。」
「ま…待って!待ってよぉ!!梨沙!梨沙ぁ!!」
追いすがる工藤母に、工藤さんは振り返る。
「そうだね…。最後の質問。応えてくれたらいいよ。」
「こ…応える!大丈夫よ、私達はやり直せる!!」
「なんで…捜索願、出してくれなかったの?」
「あ…うぁ…そ、それは…」
「…私がいなくて、過ごしやすかった?」
「い…いや、違う…」
「私、何度もお母さんと一緒に過ごすことを考えたよ?…お母さんはどう?」
「も…もちろんよ!!」
「じゃあ聞くね?…私を襲うお父さんが一緒に住むなら、どうしたら良い?」
「あ、えっと…その…」
「私はね、ずっと考えたし真田さんにも相談した。鍵付きの部屋なら大丈夫かなとか。お母さんが別れてくれるかなとか。」
「あ、…そうね!そうよね!!」
「でも…。今日逢ってわかった。この人は私のお父さんじゃないし、一緒に住めない。いざとなったら口封じする人だ。そしてお母さんは即座に私を選ばない。」
「…そ、そんな事!!」
「…だから、もう会わない。ありがとう。…さようなら。」
「り…梨沙ぁああああ!!」
その言葉を聞きながら、胸を張ってカフェを後にする工藤さん。
「これは今日の場所代です、お支払いにお使い下さい。」
俺は代金として1万円を置いて、工藤さんを追う。
後ろでは罵り合う言葉が飛び交っていたが、聞こえなかった。
なんせ、今までに見たことがないような晴れやかな工藤さんが目の前にいたのだから。
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