第28話 慰める事。これからについて
「…ありがとうございましたー。」
俺はコンビニで弁当を買い込んでいた。
ボーっとして何を考えていいか、分からない。
俺の浅はかな行動で、母は死んだ。
息子が命を賭けて、己の愛する旦那の敵を討とうとしたのだ。
母として、あの状況では…ああいった行動をとってしまうと。
今になっては思う。
「…俺が、母さんも殺したようなものだ」
警察は被害者家族の管理不十分というで、世間に批判された。
「被害者家族の強い意思を止め切ることが出来ず…、こういった結末に。本当に申し訳…ありませんでした。」
…警察の人たちにも申し訳ないものだ。
世間は、この話題に対して、言いたい放題・好き放題に議論しあっている。
「この家族の気持ちはわかる」
「それでもこれは駄目」
「犯人の人権が…」
「そんな凶悪犯に人権など…」
「もしかしたら犯人は脱走して復讐も考えたかも…」
もう、ニュースの内容も聞き飽きた。
一度、警察のカウンセリングも受けたが、【ショックが大きい。】それだけの結果となった。ぼんやりと焼けてしまった自宅の近くに借りた自分のアパートに戻る。
「お、おかえりなさいです!…真田さん。」
「…ただいま。工藤さん、お弁当だ。」
「わ、私が買ってきたり…作りますのに…」
工藤さんは今、佐々木さんの家にお邪魔させて貰っている。
PC修理等のバイトは出来なくなった佐々木家で、収益が減ったにも関わらず「これも縁だから」と佐々木母が泊めてくれている。
何故、その工藤さんがいるかというと…
「真田さん…。大丈夫ですか?アニメサイトをここで続けて良いとは言ってくれましたが…。正直、真田さんが心配になりすぎて…手がつかないですよぉ。」
「んん。すまん。…じゃあ…どっか行ってくるかな?」
「違います!もうそろそろ佐々木さんも来ます。何か気分転換しようって言ってました!」
「んん…。そんな気分じゃないな。…ああ、先週辞めた工藤さんの家、今週末に行こうか。その方が重要だ」
「こんな時に私を優先しなくても…」
俺は工藤さんの仕事を邪魔しないように、部屋の端でブログ運営を続けていった。
正直、生きていきたいとは思わなかったので中々仕事が進まない。
「…ふう。全然身が入らないな。」
そうしていると…
ぎゅ…
後ろから、暖かいものに俺の身体が包まれていく。
「今の真田さんを見ていると…私、すっごい辛いです。」
「…ん。心配させてるかい?でも…駄目だよ。簡単に男性にくっついちゃ…」
「簡単じゃ…ありません」
「…え?」
「大切な人に…元気になって…欲しいんです。全然、簡単じゃありません!!」
俺は困ってしまって、返答が出来なかった。
そこに…
「あああーーーーーー!!!工藤ちゃん、ずるいです!!!」
佐々木さんがやってきた。
「あう…良いところだったのに…」
「…駄目ですよ!私だってまだ抱きついた事無いのに…。」
「佐々木さん、叱らないであげて?…落ち込んでる俺を慰めようとしたみたい。」
「そ、…それなら、私も…私だって、慰めます!」
ギュウウウウウゥゥゥ…
そう言って、佐々木さんは俺の目の前から抱きついてくる。
「だから女性が簡単に男性にくっついちゃ…」
「私は…簡単にくっついたつもりは有りません!!真田くんを慰められるなら…私は何だって…何でもしますから!!どんなお願いだって…私は聞くんですから!!」
「あ、ず…ずるいー!佐々木さん、そんな事言ったらダメですー!」
「そ、そうだよ。女性が何でもって言ってはいけないよ?」
「私、真田くんなら…何されたって大丈夫ですもん!!」
「あ、ああ…だ、だめだめだめ駄目ー!私だって…私だって真田さんなら、何されたって大丈夫ですもん。」
そう言って工藤さんも、後ろから抱きしめてくる。
・・・・・・・・・・・・・・。
「…ふ。」
「「???」」
「…ふふっ。ありがとうな、2人共。」
「あ…真田くん」
「わ、笑ってくれましたぁ」
「…贅沢な話だけど、今は凄い落ち着く。少しこのままでも…いいかい?」
「…はい。真田くんが望むなら」
「あ、ずるいー。私だっていくらでも!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
…2時間はこうしていただろうか。
都度、抱きしめ直す2人の密着に、すこしだけ魅力を強く感じてしまうが、安らぎのほうが今は勝っている。
「…ありがとう、2人共。もう大丈夫だ。」
「え…これだけで良いんですか?」
「そうですよぅ。他にもお願いして下さいよぉ。」
思わず笑ってしまう。どういう意味なんだろうか。
「…俺ね。あの時アイツと死ぬつもりだった。」
「あ、…はい。怖かったです」
「真田さん、居なくなっちゃうと思うと…」
「俺が出来なかった事を母がやってくれた。」
「…おばさま。」
「…辛いです。」
一旦、間を空けて言葉をつなげる。
「正直、俺が母を殺したようなものだと思っている。」
「…そんな!そんな事は決して無いです!!」
「そうですよぉ!絶対にそんな事ありません!」
「…ありがとう。俺、母の後を追おうかと思っていた。」
「だ、ダメです!絶対駄目!!」
「駄目ぇ!!!」
その反応に、思わず苦笑してしまう。
「大丈夫、もうしない。」
「ホントに?」
「絶対?」
「ああ。最後に母に言われたからね。【貴方は強く、優しく生きなさい!】ってね。俺は自分で自分の命を絶ってはいけないんだよ。」
「真田くん…。」
「う、嬉しいですぅ!」
「俺、決めたよ。」
「「ええ??」」
「胸張って、父さんと母さんに「いい人生だった」って。誇れる人生を歩んでみたい。そんな人生にするって…決めたんだ。」
ぎゅ…
ぎゅぎゅ~~~!!
「う…ぅおおお???」
佐々木さんと工藤さんは、俺を再度抱きしめ直してきた。
「…お手伝いしますよ、真田くん。」
「私だって…私は真田さんが進む未来を手伝います!ブログだって…サイトだって…なんだってやります!!」
「むむ…私はブログとかに書ける好きなことは無いけど…お母さんの節約を受け継ぎますし、真田くんが望むことは絶対に拒否しないって誓えますもん!!」
「な…ずるぅ!私だって…真田さんに何だってしてあげるんだからぁ!!」
「そ、その喧嘩だけは…やめてくれぇ…」
俺もいい人生に向かっていけそうだよ、父さん。母さん。
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