第27話 逃げた悪魔の最後
…父の葬式はしめやかに行われた。
母は、泣き続けタ。
父の亡骸に向かって「貴方…貴方…」と呼び続けル。
どうして、こうなっタ。
司法に任せようとしたからカ?
佐々木さんが心配して葬式は全て手伝っタ。
「真田君、大丈夫d…真田くん?真田くん?」
「…何?」
「…恐ろしい目を、してました。本当に怖くなるような…」
「…そう?」
「…ええ。何を考えて…いたのですか?」
「…何も。…って言ったら嘘だね。…復讐。」
「…そんな…真田君はあんな人間と同じになっては駄目です…!」
「…アイツは、捕まったって?」
「…はい。あの後に凶悪事件としてニュースで話題になり、1週間もかからず捕まりました。真田くん、ニュース見たがらなかったから…」
「その途中で、アイツは何人殺した?」
「少なくても…数百人は。」
「悪魔じゃ…ないか…。」
日本最大の悪辣な事件として、後世に伝えられる事件となった。
警察は動きの遅さを世間に指摘され続け、俺と母は悲劇の主役として祭り上げられた。母は取材の前でも平静を装うことが出来なかった。
その悲痛な映像に、世間はその犯人である大塚へ強い批難を示していた。
その影響で工藤さんの家に向かおうとした時期は、一度取り止めとなり、連絡を取り直して再度機会を作ることになった。
「真田くん…大丈夫ですか?明日は…その…」
明日は事情聴取に参加する日となっていた。
事情聴取の横の部屋で、カメラやマジックミラー越しに大塚が刑事に取り調べされている状態を見る日であった。
悲痛そうな母は「絶対に…行かなければいけない気がする」と言い、俺もそこに付き合う形となった。俺は1人でも参加するつもりであった。
工藤さんと佐々木さんも付き添いという形で、俺たちに付き合う形をとった。
奇しくも、明日は俺の誕生日。18歳となる日だ。皮肉なものだ。
俺は覚悟を決めて、警察署に向かった
―――――――――。
警察署は4階建てで非常に高い。
その4階で、元上司である大塚の取り調べがされている。
「だから!…はお前の仕業だろ!!」
「へ…知らねぇな。そんな女ぁ。覚えちゃいねぇよ。」
「き…貴様ぁ!!」
横の部屋から、取り調べの状態を見ていると、胸糞が悪くなる。
窓から、爽やかな日差しと柔らかい風が入ってくるのに、一切、気持ちが良くならない。母は手を合わせた状態で下を向いて、話を聞いている。
「…どうですか?顔をまずは確認して欲しいんですが…」
「間違いないとは思いますが…マジックミラー越しやカメラ越しでは正直、はっきり言えませんね。態度は間違いなく僕が観た大塚ですが…」
「困りましたね…。証言で断定して欲しいところではありますが…」
「…警察官の方がいるんですよね?中に入っても?」
「な…それは危険です!!」
「守ってくれませんか?」
「だ…ダメです!!」
その声が聞こえたのか、大塚が隣から反応する。
「おおぅ…横にいるのは…パソコンショップのクソガキかぁ…?声が…するなぁ。」
刑事が反応する
「な、何を言ってるんだ…そんな事は…この部屋は防音にもなっているはずだし…」
「へへ…横で犯人の顔を見てもらおうってか…。残念だったなぁ。そ~んな勇気の有るような人間には思えなかったぜぇ。…っとぉ。と言っても俺はその1年前くらいにパソコンショップに行っただけだがなぁ。」
「き…貴様ぁ!!!警察を…そして被害者を侮辱するとは!!!」
ギィ…
「…呼んだかい、大塚大貴。」
「ほぉ…これはこれは。根暗野郎じゃねぇか。」
「な…なぜ被害者家族をここに!!お前ら、何をしてんだ…!!?」
「…はぁはぁ、すみません、警視。無理矢理に…突っ込まれました。」
「勇気あるなぁ…お前。そんなに俺を捕まえたかったか…?」
「俺もね。未来から来た。」
「!!?」
「な…君は何を言ってるんだ、すぐに被害者家族を追い出せ!!」
「待て!!…待てよ。刑事さん達…。おいお前。今なんて言った?」
「俺は未来でお前に刺された男だ。…覚えていないか?」
「……何だと?」
少し異様な雰囲気で、警察の手も止まってしまう。
犯人と被害者が、同じような妄想を話しているとでも思われてるのだろうか。
「…お前、【佐々木笑】の旦那か。…テメエのせいで前世の俺は捕まったんだ!!あのせいで…俺は…悪魔と契約して…この時代に…戻ったんだ!!!」
「…正解。お前のせいとはびっくりだ。アンタがやらかした悪行だろ?」
「お前が…!黙ってりゃ良いことだろうがぁ…!!」
「それを知った俺への口封じでの愚行だ。…それに同じ職場で働いていたのに名前すら出ないのか。ホント、残念だよ。」
「へっ…覚えちゃいねぇな。…何で、お前はこの時代に来た?」
俺は周囲が固まってこちらを見ている。
「…俺は天使に言われて、お前の凶行を止めに来た。」
「お前はこれから…司法に裁かれるだろうな。一生出てこれない牢屋に入る。」
大塚は、一度呼吸を整えて憎らしい表情でこちらを見る。
「はんっ…。死刑制度もないこの国で、いくらでもやりようはある…。俺は悪魔の契約も残ってんだ。まだまだ地獄に落とさなきゃいけない人間がいるんだよ…」
「…そうか。お前は生きている限り、悪行を続けるんだな?」
「…はは。……はははっ!分かってんじゃねぇか。絶対に脱獄して…お前の全てを…何もかもをまた奪ってやるよぉ!!!」
佐々木さんや工藤さんを思い浮かべてしまう。
元妻では無いのが、非常に残念だよ。
「それなら…。一緒に死のうか?」
「はへ?」
形見だと嘘をついて持ち込んだ熱で焼き切るモバイル断鉄機で窓際の鉄格子を手際よくスパッと切る。…良かった。細い鉄格子で
警察官が来た時にはもう遅い。
俺は手錠を掛けられた大塚の首を掴んで、窓際に向かった。
「4階だもんなぁ。即死だな、大塚?」
「くっ…辞めろよ…お前。お前も未来を知ってるんだろ…?一緒に…一緒に大きい事しようぜ?何でも、何でもだ。俺たちは何でも出来るぜぇ?」
「女も!!金も!!何もかもだ!!」
「何もかもを手にしてぇええええ!!!欲のままに生きることが出来るぅぅ!!!わかってくれよぉおおおおお!!!」
「…そうだな。飛び降り自殺も一緒に出来るな?」
「くそがあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
叫んだ大塚が、一瞬で表情が変わる。
「へ…。へへ…。会話している時間は、…無かったようだなぁ。」
そう大塚が話しかけてくると、俺は警察に取り押さえられた。
「か、確保!!」
「君、そんな事はやめなさい!」
「鉄格子を切るなんて…、なんて高校生だ」
佐々木さんや工藤さんも俺にしがみついて来る。
「だ、ダメです!!真田さん…」
「真田くん、死んじゃ嫌ぁ!!」
「は…離してくれ!!父親を…父親を…アイツは!!!…俺が。…おれがやらなきゃ…いけないんだ!!!」
警察と身内に取り囲まれ、俺の決意の行動は失敗する。
だが、結果はいつも俺の想像を超えていく。
「げ…ゲホゲホ。クソが…。あれ…【リサリサ】じゃん。…んんだよ…一緒にいたのかよ…。俺の女にする予定が…。全部こいつのせいかよ…絶対にゆるさn」
「あら…随分、余裕ね?」
その声は母であった。
「…貴方は、ここで死ぬのよ。良かったわ…。息子が死なないで。」
そう言って、母は女性とは思えない力で、大塚の首を持って窓際に走った。
「…幸村。貴方は強く、優しく生きなさい!!」
その速さは、誰も止めることが出来なかった。
俺への注意が一心に向いていたからか。
母は誰にも邪魔されること無く、大塚を捕縛して窓に向かうことが出来た。
「か、母さん!!…や、やめてくれぇえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
「や…やめろぉ!!クソ…ババアめがああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「だ…誰か!!!奥さんを止めろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「「おばさん、駄目ぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」
「さようなら、…大好きよ。幸村。」
そう言って母は、大塚と共に4階から身を投げていった。
俺は大切な両親を、立て続けに亡くすこととなった。
凶悪な悪魔を。この世から葬ることの代償に。
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