第16話 他者に仕事を作れる人間は強いって話

倉庫につくと、キャンプ用の寝袋を用意して就寝可能な状態を作り出す。


「…本当は、前世でも。妻と一緒に…行きたかったなあ。」


結婚前、妻が「私はキャンプ行くのが好き」と言ってたから。

俺は興味もないのに、装備をかき集めたものだ。

…情けないことに、妻への未練が残存している事を実感してしまう。


レビューサイトを読み込んで。どんな機能があれば彼女を楽しませるか。

それだけを考えていた。…結局、一回も使わなかったけどな。

…本当なら。一刻も早く、こんな気持ちは断ち切ったほうが良いのだろう。


情けない感情を吐き出しながら、ブログを打ち始める。

季節は2006年3月。まだ少し、寒い時期だ。


だが、パソコンに強い負担を強いる動画編集などの作業も同時に行っている為、ノートパソコンや持ち込んだデスクトップPCは常時…熱を持って動いている。それが暖かくて…寂しさをかき消してくれているようにも思えた。


「真田くーーーん??いるーーー?」


大きな。そして優しい声が、倉庫の入り口から聞こえてきた。


「おおっ。佐々木さん…おばさんも。どうしたの?」


「どうしたのじゃないよ、まったく。玲奈に聞いてびっくりしたよ。本当に真田くんは行動が読めないね~。恩人に風邪でも引かれたら、寝覚めが悪いよ。」


諦めきった表情で、佐々木母が言う。

その横で、申し訳無さそうに佐々木さんがこちらに笑いかける。


「あ…あはは。PC修理もパパっとやって…来ちゃいました。」


「はは。こんな汚い倉庫に来るもんじゃないよ?俺もグッチャグチャで困ってるくらいなのに…。」


普段、自室や作業場を整理出来ていない事は、もう佐々木さんにバレている。

だから自虐を込めて言ったのだが…


「だから…です。」

「んん?」


「絶対、真田くんは…掃除。絶対終わってない場所で、寝るんだろうなって。だから私がキレイにしに来ました。…もう決めたんです。」


「「私達もいるよー」」

横から妹2名がバケツと雑巾を持ってくる。


「…おいおい。もう19時半だ。小学生は帰る時間だし、連れて帰んなきゃ…」


「…わがまま聞いてあげてよ、真田くん。」

佐々木母が、口を開く。


「18時には家に帰った玲奈が、…そわそわそわそわ。そりゃあもう、観てられない。妹達に気付かれない様に家を出ようとした時に、私に捕まったのよ。…何処に行くのよってね。」


「ううう…狭い我が家を恨みますぅ。」


「アンタも馬鹿ねぇ。女性に手を出さないように家を離れた男に。夜に会いに行く女なんて…絶対ロクでも無いわよ?」


…おいおい。家出少女2号じゃないか。


「…心配だったんです。優しいし、頼りになるけど…その…」

「ん?…何?」


「真田くん、身体弱そう…だなって」


ガ―――――――――ン!!


短い若返った人生の中で、1番つらい言葉だった。


それによって

「…そりゃ運動もロクにしてないし…PCばっかりいじっているけど…会社は欠勤ないし…残業後に…副業だって…ブツブツ…」


俺はいじけた。そりゃあもう全力で。


「…あーあ。いじけちゃったよ、真田くん。…玲奈も真剣に心配したのよ?それを横で聞いた妹たちなんか、自分たちも何か役に立ちたいって張り切って。寝かしつけても何度も何度も、起きてくる始末よ。」


あー。なんとなく来た理由が分かった。


「…わかったよ。掃除、ありがたく受け入れる。でも…20時半まで。それでもいい?俺は今日中にブログを仕上げたいから、時間を決めるよ?」

佐々木さんと妹2名がぱーっっと明るい表情になる。


「そして…」


「私達を…佐々木家に、早く帰したい。そんな感じ?」

佐々木母が、途中で割り込む。


なるほど。全て理解して、この人は行動しているな。


「はい。その通りです。近いとはいえ、夜道は送ります。」

「…そそそ、それは!…申し訳ないと言うか…なんというか。…お役に立つつもりがご迷惑を…」


「ほら、真田くんは親切を無理に押し付けても…丁寧に親切を返してくるでしょ?夜に突然!なんて、受け入れる相手じゃないのよ。…16歳なのに、ちょっとマセ過ぎよねー。」


そりゃぁ…、社会人でしたので。


それから…。あっという間に掃除が行われ、倉庫は小綺麗になっていく。

清掃作業は佐々木さんと妹2人で行い、佐々木母は様子を観ているようだった。


「おばさんは、やらないんですか?」

「玲奈から手を出さないで。って言われちゃった。」


「…ははっ。掃除は、おばさんが教えたんですか?」


「ええ。自信を持って家事全般、熱心に伝えたつもりよ?…玲奈、いいお嫁さんになると思わない?」


「ええ…。いいお嫁さんになるでしょうね。未来の旦那さんが、羨ましいです。」


――――――沈黙が生まれる。


「…んん?…真田くんは、貰わないの?」

「はは…どうなんですかね?」


なんとも。おっさんの返答方法をカマしている気がする。


「はぁー、つまらないわね。…調子崩さないんだから」

「希望に添えず、申し訳ない。」


…掃除は、順調に進んでいく。

良かった。デスクトップPCがホコリでやられることは無いようだ。


「…そういえば、おばさんに相談があったんですよ。」

「…なぁに?玲奈の好きなタイプ?」


「…それは。また、違う機会で教えてください。そうではなくて、節約についてまとめているブログを運用しているのですが…」


「あちゃー、玲奈もまだまだか。…うん。節約?なんか節約について教えてほしいってこと?」


「いえ。違うんです」

「う…ううん??」


「おばさん、そのブログの筆者になりませんか?形は相談ですが、おばさんをブロガー・Webライターとして雇いたいという…そういった相談です。」


「…どういう相談? もう…真田くんの言うことに対して、予想なんて出来ないわねホントに。」



パートに加え、少しでも収入になる話だ。

「正直おばさんにPC業務を覚えてもらう気は、さらさら有りません。」

「…私に期待してないと?」


「…違いますよ。期待しているんです。違う可能性に」

「違う…可能性?…もう、はっきり言ってよ。」


「端的にいいます。今は、情報がお金になる時代です。今後、佐々木さんと同じような生活やお金を節約して生活したいと考える人間は、どうやったら支出を抑えて行くことが出来るのかという情報を、必ず求めます。」


「え…ええ。そうね。私も色々聞いて勉強したし…」


「それをまとめた情報サイトを、俺は作りたいんです。夢に向かって節約したい人や生活に困窮している人。それらの人が助かり、そのサイトを見てもらうことで広告費が作成した我々に入ってくる。どうでしょうか?」


「り…理論は…わかるけど…。うまく…出来るかしら?」


「もう、ブログ自体は立ち上げています。この運用費用は月に5000円程度。この場合のリスクは、やったけどうまく出来なかった。それだけで俺が月に5000円払い続けたのが無駄になるだけです。」


「な…なら!真田くんのお金がもったいないじゃない。」


「僕では、節約ブログは書けないことが解りました。なにせ実態がない。実態のある人に書いてほしいんです。逆に俺の月5000円を助けると思って…働いてくれると嬉しいです。なんせ俺は他に9個、合計10個のブログを運用しています。…手が全く回らないんですよ」


「…ふう。もう、わかっったわよ。…しょうが無いわね。雇うなんて言わず、タダでやるわよ。…でも上手くいかなかったとしても、諦めてよね?」


「大丈夫です、ありがとうございます。(ブログは収益が出た時点で、絶対に賃金を発生させますがね。)」


「ホント…不思議な高校生ね。」


「「「終わったー」」」


「あ、終わったようですね」

「…行ってあげて。お願い。」


「おーい。ありがとう3人とも。」


「ううう…20時半ですぅ。全然、真田くんと話せていないです…。」

「お姉ちゃん、掃除頑張ったねー」


達成感を感じた妹たちと、何かやりきれない表情の佐々木さん。

そして心配そうな佐々木母。


「お母さんと、何か話したの?真田くん」

「ああ、仕事を依頼した。詳しくは聞いてくれ」


佐々木母が言う。

「節約ブログで困っているから、私に手伝わないかって。ホント、とんでもない高校生ね。…あ。あと。…真田くんに玲奈を、いい嫁さんになるって…勧めてみた。」


「~~~~~~~~ッツ!!おかあさあああん!!」


20時半とは思えない声量で。

牽制し合う佐々木親子をゆっくりと家に送って、その日は終えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る