第15話 つらさって、時間が経つと増すものなんだ

女性陣が落ち着いた頃を見計らって、俺は帰宅した。


「落ち着いた…かな?」


何事もないような自宅になっていた。

泣き止み、着替えか何かも終わったのだろう。


「…ふう。そしたら、俺は倉庫に移動するかな?ブログ用の記事を増やしたいからノートPCは必需品と…後は…ポータブル電源もあった方がいいか。2006年のレベルだと重たいな、蓄電も少ないし…」


倉庫で過ごせる環境を整える。

なんだかこれも、秘密基地感覚で楽しいものだ。


身体に引っ張られて、精神的にも若返ったのか。

はたまた、男はいくつになってもこういった事が好きななのか。


「あの…真田…さん?」

「んん?」


そこには家出少女がいた。

「あ…あの、すみません。こんな事になって。」

「いいって。あ、俺の部屋…適当に使ってね。盗られて困るもんもないし。PCは初期化してある。居る間は好きに使ってくれ。…っと。あとは何が必要だろうか…。」


古いデスクトップPCだが、データを移動して初期状態にしてある。

男子高校生が隠したいものは、もうそこにはないのだ。


男子高校生といえば、今の収入は身に余る。

PC修理で月50~100万、ブログ運用で50~60万、撮影依頼で月イチ200万程度。

合わせて300万~360万となっている。税金の問題で父名義では有るが…


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ブログついては、2023年でもよく分かっていない人間が多い。だからこそ副業として使用されることも多いジャンルであった。ちなみに継続率が低く脱落者も多いのが知られている。(生き残るのは3%程度)


このブログとは、日記ではなく【他の人が望む情報が乗っている記事】のことだ。


今後はより多くの人間が日常生活で情報を検索するため、ブログ運用がより強まる事が予想される。というか知っている。


更に数年後は、動画サービスにそのブログ内容をそのまま動画にしてUPしていくことでスムーズに媒体を変えていくことが出来る。2023年現在の情報系動画発信者のやり方だ。


文字→動画になることで、何が起きるか。

音声情報や視覚情報が増え、知りたい情報がより簡単に受け取ることが出来る。


時代はいつも、楽な方に流れていく。

回る回るよ。時代は。


これからインターネットが普及し、検索サービスが強まる。


携帯電話をポチポチすれば、すぐに知りたい情報にたどり着く時代。

2006年はこれが普及していく時代。


次に2010年代になると、動画サービスが隆盛する。

文字で見るより、実際の動画で知りたい情報に触れられる。

それに伴って、素人がエンタメに乗り出す。「〇〇してみた」系の動画だ。


2020年以降はショート動画が強まり、より短い動画に情報量を多く載せて発信する時代となる。

ここでようやく他者と違うことが武器となり、協調性の必要性や意味合いが薄れていく。ボッチというのも武器となり、動画発信者の枕詞に〇〇系ぼっち、どうも△△です。みたいな自己紹介が増えていく。


これは「僕は友人がいないよ」というのを発信しても、許される時代になった証拠でもある。


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…身に余る金銭を得ているんだけど、ね。

一回、社会を知っているから。伸びしろも知っているわけで。


・株もやり始めれていない(時期も悪い)

・不動産投資も出来ていない(未成年で購入は難しい)

・複数の動画サービスチャンネルを運用する土台がない


ここらへんが非常に気になるところだ。


人を助けている場合じゃないのも知っているんだが…

2006年にいじめを苦に命を絶った若者が多かったという記憶が、なにかしないと罪悪感に苛まれそうになるのだ。

未来で死ぬ人をある程度知っていて行動しないのは…自分が許せないのだろう。単純な自己満足なのだから。


だがブログ運用と後の動画サービスには1人、成り行きだが適任者を見つけている。その人に頼み込んでまずはブログから記載してもらうかな。


そんな風に考えていると…



「あ、あの…黙々と準備している所、すみません!」

「ああ、ごめん。話しかけてくれたのに。集中するとすぐこうなっちゃうんだ」


「ああ…いえ。まずは真田さん。親身になって助けてくれてありがとうございます」

「う~ん。本当は何度も言ったけど警察や児童相談所が動くべきなんだ。…俺もこれで本当に良かったのかわからないよ?」


・・・・・・沈黙が生まれる。


「まあ、でも。」

「?」


「つらい経験ってさ。耐え切るにも限度があるんだよ」

「…そうですね」


「だから、今回は逃げて正解。そうしとこうよ。」

「…はい!ありがとうございま…」


俺は手を前に出して制止した。

「…お礼はもう十分だよ。今日はゆっくり休んで、明日からゆっくり色んなお金の勉強やら手に職をつけていこうね。」


「…はい…! よろしく…よろしくお願いします!」


「ちなみに…工藤…さんは、なにか得意なこととか好きなことはある?」

「得意…好きなこと、ですか…?得意なことは分からないけど家事全般なら。好きなことは…お恥ずかしいですがアニメが大好きで…その声真似とかがずっと好きでした。ホント子供ですよね、私…」


「んん。素晴らしい。俺には正直分からん分野だが、将来間違いなくお金につながるいい趣味じゃないか。ここにいる間観たいアニメとかあったら探しておくよ。」


「え…アニメ観て…いいの?」


「え?駄目なの?」


「だって…色んな人にバカにされるし…」


「…大丈夫。断言するよ。…将来好きで良かった趣味だって言える。アドバイスするとしたら…そうだね。【誰よりも詳しくなって教えられる事が多い、情報を他の人でも理解できるようにまとめておく】と、ただ楽しむより将来に活かせる知識になるよ。…どんなアニメでもね?」


「…観ても…大丈夫で、将来に…活かせる?」



話しながらも、まとめていった荷物も十分にまとまった。

「それじゃ、一回荷物持っていくよ。」

「あ、あの…私も手伝いま…」


「いいって。休みなよ。…休んでも誰も怒らない。むしろ休んで褒められるんだ。」


「…はい。嬉しいです。」


返答を聞いて上機嫌になって、真田は部屋を出ていった。



「アニメ…観ていいなんて…初めて言われた。」


「真田さん、不思議な人だな…。なんか…お父さんかお兄ちゃんが最初からいたら…あんな感じなのかな?」


「なんか…安心する…人だな。」


「こんな…汚い…私なのに。なんで…助けたんだろう…」



「よく…わかんな…い…や。」


―――その日、工藤梨沙は久し振りに熟睡した。

母の恋人が来てからというものの、常に良い子でいなくてはいけないという気持ちも生まれ、学校ではつらい悪口に苛まれていたのだ。気が休まる訳もない。15歳程度の少女には、いささかキツイ状況だったろう。


ようやく、彼女も一つ。安心できる場所で、休まる時間を持つことが出来たようだ。


それを本人や真田が知るのは、―――随分と先になる。

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