第14話 いじめられっ子に仕事を。俺には愛を

俺の自宅に戻る車内、俺以外は非常に元気だ。

なんとも喜ばしいことだね。


悲惨な経験を乗り越えて、こんなに議論できるのは素晴らしい。


「なななな、なんでお兄さんが家を出るんですかぁ!!そんなの…だめだめです!!」

「そうですよ、真田くん。なんで真田くんが倉庫なんかで…そ、そそそsそれなら…ウチに…ウチに来てくれたって…」


「なぁぁにを考えてんだぁ!!バカモン!!あの倉庫はPCパーツ用で、お前用じゃないんだぁ!!」


…俺が批判されている以外は。


「…もう決めた。もう変えない。」

「なっ…!!ったく!この頑固者がぁ!!誰からそんなの覚えた、こんにゃろぉぉ!!」


アンタだよ。アンタしかおらんよ、父さん。


「…父さん、俺思うんだ。」

「…ああぁ!?何だ、言ってみろ。」


「俺が家出娘、拾う」

「おう」


「俺の家泊める。何が不安?」

「そりゃお前が、その娘に手を出さないか…」


「俺、倉庫。その娘安全。」

「…ふむ。」


父には弱点と呼べるものがある

「俺、もっと誇れる男になりたい。手伝ってくれ父さん」

「…なるほど。人助けで女性を気遣うその心意気…。」


「ちょちょちょぉぉぉ!!!」

「ななな納得しないで下さいよぉ!おじさん!」



正直、父さんはちょろい。

昔ながらの【理想の男】に近づく努力には、とことん甘いと言うかなんというか…


「決まった」

「…そうだな。男が倉庫くらいに住めなくてどうする。お前はいい男だ。」


「男に」

「二言は」

「「無い」」


「えええ??」

「ああ…そうか。真田くんの父親なんだ。こういう考えなのね…。」



女性陣はずっとなにかしら言っているが、聞こえない。

改めて昔の俺は、なんでもっと父親と接しなかったのか。

…悔やまれるな。


精神年齢が近づいたせいなのか。

父親と友人のように接することが出来るのは、非常にいいことだ。


「男は愚直に仕事に向き合え」

何度も帰省した際に聞かされた言葉だった。

今となったらこの人の血を引いていたから、本業・副業と頑張れたんだろうな。


家につくと母が対応する。

「あらあら、どうしたの?」

「幸村が人助けした。なんにも聞かず、世話してやってくれ。部屋は幸村の部屋。幸村は落ち着くまで倉庫で頑張ると誓った。」


「誓った」


「あら~。じゃあ仕方ないわね。…狭い我が家ですがゆっくりしていってね?」


「え?ちょ…あ…【工藤 梨沙】…です。…いや、あの…息子さんが倉庫で寝泊まりするって…」


「ええ…そうらしいわねぇ。困ったわ、風邪引いちゃう」

「なな…なら止めたほうが…見ず知らずの人間ですし…」


「だって…ねぇ? もう…決めたんでしょ?」


「おう」

「決めた」


「…なら仕方ないわねぇ。」


「(凄い家だなぁ)」

「真田くんって変わってるなぁって思ってたけど…理解が足りなかったみたい。」


御飯の時間には帰宅を約束。もちろん倉庫にはインターネット回線を引く。3日間かかるとのこと。

ブログ更新が止まるな。そんな風に考えていた。


「ちょ…ちょっと待って下さい!」


家出少女が発言した。


「私、そんな迷惑に為るわけにはいきません…。何にもお返しも出来ないのに…」


「お返し…か。そんなの別にいらないけどな?」

「へ?」


「俺、色んな人に助けられて…ここまで来てる」

もちろん殆ど前世を思い出しているけど、両親にも非常に感謝している。


「例えば、俺は父さんに非常に助けられている。」

「おう、気にすんな」


「で、父さんに親孝行はしたいけど…それってお返しなのかな?」

「違うだろうな。」


「そうだね。俺がしたいからしてるんだ。」

「いい男になったな。30過ぎの発想だぞ、お前。」

その通りだよ、お父さん。


「俺は目の前の人を助ける。それがしたいからする。もし、それを恩返ししたいなら…違う人に返していってほしい。他に困っている人がいたら、助けてほしい。」


「…え?」


「俺は人間関係がそこまで得意じゃない。だから人の為に頑張ることが少ない。そんな俺が人のために頑張った。無下にしないで欲しい…てのは駄目?」


「…よくわかんないです」


父が恥ずかしそうに言う

「すまんな、お嬢さん。アイツは最近まで本当に何を考えているのか、親の俺でも分からん男ではあったんだ。今はわかるよ。アイツはアイツの思う【正しいこと】をしたいだけなんだ。息子のわがまま聞いちゃくれないか?」


「え…えっと…」


「真田くんは少なくても貴方を助けたいと思ってくれているわ。貴方の状況が良くなるまでお世話になって…そこから恩返ししたら…どう?なんたって私もお世話になってるし、状況改善したら全力で恩返しするつもりだから。」


「う…うう…あの、家出してます。よろしくお願いします。」



「よし、決まりだ」

「もう…真田くんはよく考えているのか、考え無しなのかわからないわ…」


その日は母がチキン南蛮を作って家出少女を出迎えた。


「あ…ありがとうございます」

「さっき好きなものはチキン南蛮っていってたものねぇ~。」


「あ…あの、私…なにか出来ますか?この家で出来ることってあったら…」


「お、話が早いな」

俺はそう言って、パソコン修理の場所を指さして家出少女に伝える。


「君にはパソコン修理、Webライターについての仕事を教える。」

「え?」

「真田くん、中学生をこき使うってのは…ちょっと…」


「家出少女さん。君はつらい環境で戻りたくない。そうだろう?」

「…は、はい。その通りです」


「でも日本の制度ってのがある。いつかは帰るかもしれないし、関わらないと行けない瞬間もあるかもしれない」

「…はい。なんとなく…わかります」


「児童相談所ってのもあるが…、何度か聞いたけどそれは嫌なんだよね?」

「…はい。一度相談しに行きましたが…家庭の事情といわれて。…できれば、行きたくないです。母に連絡も着いてしまいますし…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


男性に乱暴されているのに…

家出している時点で大事件なような気もするが…

そこに重要性を感じないのは、幼さもあるんだろうか…


本当なら、即座に児童相談所などに報告する案件だ。

なんせ刑事事件にもなるような案件だ。


でも家出する子供の殆どは、そういった場所を好まない。


それは両親に繋がってしまうのでは無いかという不安。

もしくはやっと自由になれたという気持ちからか。


正直…すぐにでも警察や児童相談所に対応してほしいが…

2006年。この時代はいじめの報告が多く、児童相談所にあったが日和見な意見を言われ返されることも多かったという。


だからこそ、2006年には大きなニュースでいじめ問題が取り上げられたのだが…


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「おすすめがある」

「…ッツ!?」


「君が将来困らない能力や技術を身に着けて、社会人として生きるんだ。」

「???」


父や佐々木さんも口を出してくる

「おいおい。その娘は中学生だろ?高校って選択肢だって…」

「そうよ。その娘の将来を決めるなんて…」


「違う。聞いてくれ。」

「…選択肢なんだ。自分で稼げるようになると母と離れて暮らす選択や一緒に暮らすけど広い家で自分の部屋に鍵などセキュリティを強める選択が出来る。…俺は家にも最終的には何事もなく戻れる選択肢まで増やしたい。」


「あ、え、私…何事もなく戻れるの?…え、でも…」


家出少女に、耳元で呟く

「お母さんは本当に恋人さんが好きなの?お金のために妥協していない?」


「あ…それは…違うかも…しれない。妥協だと…思う。」


「少しゆとりのある金銭状態であれば…襲われたことだってはっきり言えるかもしれないし、お母さんの本当の幸せにもなるんじゃないかな?」


「あ…そうです!それが一番かも…しれない。」


車の中でこっそり聞き出した。

母の恋人を責めなかったのは何故か。

それは母のためだという。裁判なども嫌だと言っていた。


「それなら決まりだ。出来るだけ早く技術を習得する。自信を持って「お金をこう稼ぎたい」と母に伝えられるようになること。それが君の恩返しであり…現時点での目標だろうな」


「あ…ありがとう…ありがとうございます…。だ…誰も…助けて…くれな…くれなかったから…本当に…ホントにうれ…嬉しいです…」


途中から泣き始めてしまった家出少女【工藤 梨沙】。

佐々木さんが頭を抱きかかえると、わんわんと泣いてしまった。


困った。

白い服を来ていた佐々木さんは、少しずつ服が涙で濡れ始める。

透けてくるのだ。


それに気付いた母が言う。

「幸村、貴方ちょっと買い物お願いしてもいい?」

「え…あ…でもチキン南蛮冷めるよ?」


「い い か ら」


「…はい、今すぐに!!」

俺にも愛が欲しい。そう思う2006年であった。



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