第6話 佐々木母は節約家
玄関で待っていた際に会った人は、佐々木さんの母親であった。
すぐに戻ってきた佐々木さんが母親に相談し、すぐに母親の顔が明るくなる。
だが…
「ごめんなさいね、玲奈。」
「あなたに、そんな風に思わせてしまって。そしてバイトの件ですが…ごめんなさい。時間の区切りだけでは無くて、小学生の2人の妹が玲奈にはおります。その面倒を見てもらっており…役に立つ時間というのは…その…」
佐々木母が言うのは、わかる。
だからこそ…潰しておいた不安の一つだ。
「大丈夫ですよ。やってほしいのは修理作業であり、お客様への対応では無いです。今後3ヶ月で父と俺でここに持ってきて、修理します。その中で慣れてもらって勉強して貰えたら嬉しい。父から電気代も持つので、どうかとのことです。パソコンの持ち込みも、ウチの営業時間の中心ではない時間で行いますので大丈夫です。」
「そんなに譲歩して頂けるなんて…本当にありがとうございます…」
「佐々木さんのお母さん、勘違いは困ります。私達は信用できる働き手が欲しい。それだけです。」
「あ…ありがとうございます。」
佐々木母はスーパーのレジ打ちを行っており、佐々木父はトラックの運転手で、地方を飛んで回っているとのことだ。
その日は、電話口で佐々木父にも報告した。
何かトラブルがあったら、すぐに佐々木父にも報告する旨を伝えて終えている。
その日は一度帰宅し、お試しとして父の車で6台のpcを持ち込んだ。
実際に、目の前でHDD→SSDの移行作業をやってみせる。
必死にメモを取って仕事を覚えようと、佐々木さんは一生懸命であった。
その時間は妹たちも静かにしており、特に小学5年生の妹は「私も覚えて…お姉ちゃんを楽にしてあげたい」と話していた。
PCはホコリに弱いため、清潔な部屋を保つ必要がある。
佐々木家は質素な部屋だが、丁寧に掃除されており、ホコリ一つも見当たらない。
つまり、この部屋は非常に作業しやすい環境ということだ。
そして…女性ばかりがいるこの家は、非常に女性臭が強い。
お風呂は近くの銭湯で入っているとのことで毎日は入れていない様子。
それが余計に強い女性特有の匂いがする。
高校生には少し刺激の強い環境だ。
30過ぎのメンタルで良かったな!過ちが起きそうだったよ!!
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6台分、計3時間を乗り越えた。女性4人に囲まれたPC修理業務など前世でも味わったことがない。
「ふーっ。どうだ佐々木さん?ノートpcとデスクトップpcの修理だったけど…」
「わ…わかる部分も有りましたが…何故ここが壊れていると断定出来たのか…その判別が…凄いです…」
「あ…なるほどね。pcが壊れる理由なんてそんな多くないから大丈夫。理論も都度伝えていくし、これが生きていて、ここが壊れているんじゃないかってのは慣れだよ。最初は修理場所を決めて渡すし、慣れても聞いてくれれば大丈夫。」
「あ…ありがとう…ございます!」
そこに、佐々木母が料理を持ってきた。
「もう20時だしね。ご飯にしましょ!真田くんも食べていって?」
「い…いや。俺は…その…」
「金銭的な部分を気にしてるなら大丈夫。これは5人分で300円のワタシ特製節約料理だから。」
見事な牛肉の香りのするカレーに、立派なサラダがついている。
これで5人分300円は少しむずかしいんじゃ…
2005年は2023年に比べ物価が安いとはいえ、ここまで立派な料理には成らないような…
「ウン、説明しましょう。」
そう言って、佐々木親子が台所に俺を連れて行く。
台所の窓から見える庭には立派な家庭菜園がある。
まずあそこからレタス、トマト、きゅうり、大根が使われた様子だ。
「更に~?」
佐々木母はノリノリで冷蔵庫を見せてくると、廃棄予定と書かれたシールが貼られた商品で埋め尽くされた冷蔵庫内。
「これはウチのスーパーの廃棄間近の商品を貰ったモノ。もちろん消費期限内よ?そこから出汁や具に成りそうな…」
そう言って牛脂や野菜の木っ端を観せてくれた。
「これらを使った具なしカレーを作ってコクや深い味わいを…」
妹たちが冷蔵庫から思い思いに好きな食材を取り出す。
「私、揚げ出し豆腐ー。」
「アタシは…ハムカツー。」
佐々木母が自信満々に言う。
「これに自分たちで具を入れていくって訳?どう?楽しくない?」
「…っす。」
佐々木母は少ししょげた様子で頭をかく。
「…あー。やっぱりだめか。節約で美味しい料理って…」
「…凄ぇぇぇっすよ!!」
「「ええ?」」
「これが佐々木さんの言ってた「具なしカレー」の正体か!こんなの自慢できるって!!普通の家庭よりも、手が込んでるじゃん!サラダだって…採れたてで新鮮じゃん!!なんにも卑下することなんてないよ!」
「真田くん…」
「うまあああああ!!」
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佐々木 玲奈は恋愛に疎い。
そんな感情を持つ余裕が無かったと言ってもいい。
なにせ…こんな生活で、いつも金勘定や下の妹を優先した生活を送っていた。いつも大事なのは明日の生活であった。
こんな肯定される事は、佐々木玲奈にとって、ある意味…劇薬とも取れる刺激となった。胸だけを見る男子は居たが…こんな内情を知って、理解を示す人間は…少なくともこの生活をしてからは居なかった。
母のカレーを褒められた事が。
今日学校で、母のカレーをバカにされた事を…何もなかったかのようにかき消した。
「何でだろ? 真田くんの言葉を聞くだけで…ほっぺが熱くなる。真田くんの事、もっと知りたいなぁ…」
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