第7話 順調な生活と順調ではない生活
佐々木家にPCを持ち運ぶようになってから1ヶ月。
6月も末に成り、修理技術は1ヶ月である程度習得した佐々木さん。
早すぎだろ。
バイト契約がまだ出来ておらず、一ヶ月間の間修理した台数に応じて父の懐からお小遣いとして我々が貰うという契約とした。
その台数が凄い。広告をブログで打てば1~3万人が毎日観てくれるため、収入もデカく依頼も多い。簡単な話だ。
2005年では流行っていなかった【〇〇について知っておきたい事7選】や【知らないとヤバい】等の謳い文句は心理学に基づいて使用されている為、それをまだ殆ど使われていない世界で使えば集客は簡単であった。
佐々木さんは毎回聞いてくる。
「どうして〇〇について詳しいの?」
「これは◯◯に乗ってたより詳しい。何故?」
未来の知識とは言い難いから、「自分で研究した」とか「調べが足りないよ」などの言葉で誤魔化した。
佐々木さんの距離もややバグっている。
非常に近い。
俺の母に促され、家に来たときはよく入浴までしていくのだが、入浴後は特に近くなる。何故だ?
「あ…えっと。普段はあんまり匂いとか気にしちゃって近寄れないから…」
近すぎです。ダメです。困っちゃう。
お小遣いの話に戻る。
台数は1人が1台を修理するのに30~40分程度。
高校終わりが16時。
最初は佐々木家にpcを持ち込んでいたが、手間だろうと父や母に打診され、小学生の妹2人を俺の家に連れてきて一緒にやった。妹は小間使いまでしてくれた。
終了は20時としたが、時に22時まで行うこともあった。
もちろん佐々木母に妹2人をお返ししてから。
土日祝日は1日中。
途中から小学5年生の妹も手伝った。小学3年生の妹はまだ待機。
結果は1ヶ月で300台を達成することが出来た。
修理費は11000~27000円としていた為、色々差っ引いて渡してくれたのは200万程度になっていた。トンデモナイね、高校生にこんな稼ぎ…
バイトに渡していい金額じゃないのも、分かっている。
間違いなく、父の御厚意が詰め込まれすぎている。
100万100万で分けられるが…
この時代はポンと手渡しで100万渡しても良いのか、分からなかった。
5月末。
佐々木母と佐々木さん、そして俺、俺父の4人で話し合いの場を設けた。
「こんなに…頂けませんよ…。入浴も晩ごはんもお世話になることが多いし…」
「何言ってるんですか!佐々木さんが妹も引き連れて行った成果です。どういった渡し方になるにしろ、受け取って貰いたい。」
「真田さん…経営者としてはもっと懐に入れるべきでしょう?こんな割合で貰える訳は…」
「優秀な技術者を1人…いや3人。見つけてしまったのでね。ウチは最悪、私が今すぐに死んでもやっていける経営基盤を見つけたと思っていますよ?」
佐々木母は困っていた。
お金は欲しいが、間違いなく温情も入っている。
それがありがたいとは思うが、あまりに過剰な量だ。
どうするべきか…
俺は口を開く
「佐々木さんのお母さん。提案があります。」
「な…何かしら?」
「…借金の事は佐々木さんから聞きました。生活が安定するまでは、このまま受け取る。その後は通常の賃金…というのはどうでしょうか?そうすれば将来の利益になるウチの父は益々優遇し、借金を返して普通の生活を送ることが出来る佐々木さんの家は楽ができる。」
――――場が静まる。
「…幸村。お前、変わったな。よく、よくぞ言い切った。」
父がつぶやく
「…私も息子と同じ意見です。どうでしょう…お母さん?」
「…ふう。凄いクラスメートね、玲奈?こんな発想になる高校生、そうはいないわよ…」
「…お母さん。…うん。…真田くんはね。凄いんだよ?」
「…真田さん、幸村くん。本当にありがとうございます。この話、ありがたく乗らせて頂きます。この御恩は一生、一生忘れません。一生を尽くして御恩をお返しさせて頂きます。」
「やったー!!お兄ちゃん大好きぃ!」
「お兄ちゃん、好きぃ…」
妹2名が俺に飛びついてきた。
「うわっと…おいおい。俺じゃないよ。頑張ったのは君らのお姉ちゃん。」
眼の前に、佐々木さんが来た。
「いいえ…。頑張っても…何をしても抜け出せなかったこの苦しみから…抜け出せるのは…貴方の。貴方のおかげです、真田くん。」
そう言うと…佐々木さんは妹2名ごと、俺を強く強く抱きしめてきた。
「ちょ…ちょっと待って!佐々木さん!佐々木さぁぁぁん!!」
父親が言う。
「そういう時は、受け止めてやれよ。男だろ?お前は。」
「ちょ…ちょっと待ってってぇぇぇぇ!!!」
その日ニッコニコの小学生2名と、泣きじゃくった同級生に抱きしめられた状態で、双方の親から見守られるという辛い状態を1時間近く味わうこととなった。
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