第4話 高校生活と稼ぐこと

…高校生活は、失って初めてその価値を知ることになる。


高校時代には…。

早く終わってくれ。早くゲームしたい。

なんで、好きでもない人間と一緒に居なければいけないのか。


…そんな風にしか思っていなかった。


でも、今は違う。

社会人を経てから、高校生活をすると…新鮮に思える。


「おはよう、田中さん」

「え?あ…おはよ、真田くん」


「おはよ、沼田くん」

「お…おう、はよっす。真田」


高校時代は寝癖も気にしなかったが、社会人になってからは…それが恥ずかしいと思えるようになり、少しくらいセットして自宅を出ていく。


通り過ぎる同級生に挨拶して、登校していく。

挨拶した相手の表情は、決まって驚いている。


単純に社会人になってから、挨拶をするようになった。

それだけだが、挨拶するだけで驚かれるとは。

昔の俺は、なんにも挨拶していなかったのかと…悲しくなる。


「おはよ、佐々木さん」

「お…はよう…ございます」

暗い表情だな。【佐々木 玲奈】さん。メガネで髪もボサボサ。

確か…家が貧乏で、友達もいない。そして…


2020年、新型のウイルスの影響で…世界が止まり始めた。


そうすると、どうなるか。

貧困層と呼ばれる、金銭的な余裕のない人間から…淘汰されてしまう。


この佐々木さんも例外に漏れず、

2020年に家計の苦しさで、一家心中してしまったと噂に聞いたが…


…佐々木さん、良い人なんだよな。


頼まれごとは断らないし、物事に丁寧に取り組むし。


兄弟が多いからか、小さい子にも面倒見が良いことを…保育実習等で、何度か前世で観たことがある。


好意とまでいかないが、少し…気を寄せそうになっていた。


…なっていただ。


理由として、高2からクラスの金持ち男子達に連れ回され、都合のいい女性として過ごしていたと話を聞いてしまったから。


多分家族への援助の意味合いで相手をしていたのだろうが、高校生にとってはいい話のネタになってしまい、居心地は全く良くなかったはずだ。


卒業後の同窓会や集まりには、一切来たことは無かった。


こういった人間から…助けていきたいな。

そう思った、その日の授業。


グループワーク

「本日のテーマは貧困についてだ。席の近い5人で話せ」

…教師が端的に言うと、開始される。


「うへー。ウチの班、佐々木と真田の根暗2人もいるの?嫌だー」

ギャルみたいな人間がストレートに言う。


「ご…ごめ…ごめんなさ…」

佐々木さんがもじもじしている。


「ゴメンな。邪魔しないから、入れてくれ」

「…う、うん。仕方ないな。(あれ、真田ってこんなかんじだっけ?)」


動じない俺にギャルが少し怯むと、2対3の別れ方で討論が開始された。


「それじゃグループワーク開始するよ。」


「まず、ウチからー。貧困って…その人の責任じゃね?女なら…ある程度、稼ぎ方もあるし。いい男捕まえていない母親にも、責任あるしねー。稼げない男は、その時点で論外だしー。」

「あ、わかるかもー。」

「頑張り次第だよねー。」


ギャルの持論に、周りはやや乗り始めており、その場が支配され始める。


「次、佐々木ー。」

「あ、あの…私の家が貧…困なの…ですが…」


「えー。マジー?ここにリアルにいたじゃーん」


酷いな。理解って聞いてるよ。タチが悪い。


「貧困ってどんなん喰ってんのー?」

「えっと…あんまり具のない、カレーとか…」


「…えー。最悪ー。」

「こうなりたくないよねー。」

「…底辺って感じ~。」



「…やめとけよ。」

たまらず、俺は口に出してしまう。



「「は?」」



「…佐々木さん、困ってるじゃん」


「…班に入れてやっただけ、マシじゃね?」


「あ…あの。私は大丈夫…」


「俺、貧困は環境のせいだと思う。その人が頑張っても…父親が事故死して、いないとか…時代の流れで事業に失敗することもある。笑うもんじゃない。」


「は?真田の癖に何?説教?」

「グループワークだから、意見を言っただけだよ。はい、意見終了」


{~~~~~~くぁっwせDRFGTHJ」

ギャルは激おこぷんぷん丸で、何かを言っていたが…もう俺は聞いていなかった。


授業終了後、佐々木さんに話しかけられる。

「あの…私のことで…ごめん…なさい…」


「大丈夫。俺はああいう事が嫌いなんだ。佐々木さんは家庭が大変なの?」


「あ…えっと…。お父さんが郊外に店を出していたんだけど…大型複合スーパーが出来て、潰れてしまって…そこから借金を返すことに必死で…」


「私も…バイト受けたけど…もう12個くらい…落ちてて…」


話し始めてから。

佐々木さんは、泣き始めてしまった。


佐々木さんの泣いている姿を観て、思う。


この人は、何も悪くないのにな

こんなに…。一生懸命なひとなのにな


そう思うと、こんな言葉を発していた。


「…佐々木さん、ウチで働かない?」

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