第3話 父へのお願い

パソコンの修理は、迅速に進んだ。


「なっ…お前、修理したことあるのか?どうみても、経験者の作業だぞ…コレ?」


2000年代になると、パソコンの主流はノートパソコンになる。長時間充電せずに利用可能、立ち上がり時間の短かさ、堅牢性や耐久性の優秀さ、さらにはデザインへの要求など、多様な品質での競争になっていた。

その為、このタイミングで修理に来ているのは…新作ではなく2~5年経ったパソコンであり、HDDと呼ばれる記憶媒体の問題が、殆どであった。


「コレくらいなら、なんとかね…。それでね。父さん。コレ直すなら…いい情報をネットで仕入れたんだけどさ…」


2004年に2023年でも使われるSSDと呼ばれる記憶媒体が注目され始めており、そちらに変更する理由を父に説明した上で、データコピーを行うことを父に勧めた。


「そんな事が…。SSDか。わかった。でも…どうやって、こんな最新知識を…」


父も半信半疑ながらも、その情報に載る。

すると変化は顕著であった。



一ヶ月後…


「…凄いな、客が殺到しているよ。」


効果は絶大であった。

結果として、困って持ってきた顧客のPCの立ち上がりが非常に早くなった。


周囲にはSSDを勧める修理屋がいない事から、瞬く間に口コミで広まり、父の仕事への依頼が殺到した。


また、ノートPCを使用し始めたばかりの人間も多く、使用方法やオススメのソフト等を調べる力が低い人間ばかりであった。


その状況を知った俺は、父に相談して、店のブログやHPを作成した。

ブログは、有効方法や有用な情報の無償提供を…広告を付けて行ったよ。


「ブログ立ち上げって…凄い人数が見るんだな。ええ!…もう1万人がみたのか?」


ブログに興味関心が無かった父は、日記程度のものだと思っていたようで、広告を貼り付けると収益になると知ると、驚愕。


今まで広告は1万5000円程度の費用で、頻繁にチラシ等を活用していたらしい。

その頃の月のサーバー代とドメイン代で5000円しないくらい。十分広告にもなったようで、チラシ等の広告は打ち切って費用が節約された。


HPは、2023年には常識となったネット販売を増やした。

PCパーツの販売を増やし、3ヶ月程度で客足は5倍増していた。


自作PCを作りたい人でも自信のない人はお任せくださいと組み立ても請け負った。いわゆるBTOパソコンだ。この時代はまだ少なく、中心都市にしか無い。


「お前…どこで、こんな知識を?」

「ネットサーフィンだよ。…父さんの力に成りたくて。」


「…そうか。嬉しいよ、俺は。」


嬉しそうに父が微笑む。こんなに嬉しいことはない。


「それでね、父さん。相談があるんだ。」

「…何だ?言ってみろ。こんだけの事をしてくれたんだ。」


「夢ができた」 


「それは良いことだ。やっとお前にも夢ができたか…」



「俺は金を稼いで、株に投資したい」


「…は?」

ぽかんとする父。


俺は心配させないように、はっきりした口調で言葉を発する。


「具体的にはブログを複数立ち上げて、店のブログと同様に広告をつける。1つのブログの1ヶ月の収入は5万を目指す。最終的には10個のブログを運用して、それらの収益で株式運用を行っていきたい。」


「な…なにを言ってるのか、わかっているか?株は危険な…」


この年、株式は非常に高騰していた。

衆院選による与党の圧勝を受けて、株式市場は構造改革の進展を期待する買いが集まり、連日のように高値を更新。インターネットを通じた個人投資家の取引が急増し、売買代金は初めて4兆円を突破した。


先高を期待する見方が広がった一方で、株高は資産バブルが再燃する前兆ではないかと懸念する専門家も少なくない。



「株は資産の30%で運用する。3割で行えば、トラブルも回避しやすいと思う。色んな失敗した人間を観て、研究した。」


「そ…そんな。株は初心者が手を出していいものでは…」


「男として、一回は挑戦してみたいんだ。まずはブログで稼げるようになってから、どうするかを考えてみて欲しい。」


「あ…ああ。わかった。しかし、いきなりトンデモナイ発言も出たものだ。今まで何を考えていたのか…全く分からん発言ばかりで、 んんー。とか ああ。とかしか言わなかったお前がなあ…」


父親にどう思われていたのか、察してしまった事は置いておいて。

これで、ブログ等の副業を立ち上げる事が出来る。


翌年には、中国経済が急成長するハズだ。

それまでには…、ある程度蓄財して投資できるようにしていきたい。


さて。父も説得できたし、少し落ち着いて自室に戻る。


どうして、高校生活に巻戻れたのだろう?


俺の後悔が、強いから?

あまりに不憫で、神様が何かしてくれたのだろうか?



・・・・・・・・

んー。


・・・・・

考えても、答えなんて出るわけがない。

違うことを考えよう。



そうだな。

まずは、高校生活に戻ったんだ。


…青春でも。…してみようか。

あとは運動して、少しでも体力をつけたい。


そして…本業や副業で鍛えた能力を、存分に使って金を稼ぎたい。

金を稼ぐ=誰かの役に立ったということだ。


…妻の為に生きていた人生を、自分がしたいことの為に使っていきたい。


18年も先の情報や技術をうまく使えば、俺は十分に要領よく生きていくことが出来るだろう。


でも、その先だ。

お金持ちになったらどうしようかな…



普通に大学行って、普通に就職。

普通に恋愛して、普通に結婚。


前世で出来なかった事の、塗りつぶしをしていこうか。


…あとは周囲を…幸せにする。そんな人間になりたいな。


少なくても…俺みたいな人間が。周りには居ないように。


…助けてやりたい。

そんな余力を作れる人間を、目指してみようかな。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る