第2話 ん?今何年?

…元上司に刺された俺は、首の激痛とともに色んな事を考えた。


街中で刺殺事件…お昼のニュースの良いカモだなぁ。

おまけに托卵と浮気と、すごいコンボだ。その真っ只中にいる俺はたまったものじゃない。


妻…だった人は、多分最初から元上司の子を宿していたのであろう。

娘は…なんとなく俺に似ていない要素が多かったなあ。

でも、愛する人との子供なんだ。後ろ指刺されず、幸せになって欲しいな。

…無理かな。妻とヨリを戻すことはもう…できないよな。


あんなに…身を粉にして働いたのになあ。

副業までして金を稼いだのに…


あんなに…好きで…愛していたから。出来たことなのになあ。


俺は、何のために生きていたんだろう。

ああ…もし。もし、やり直せるなら。違う人生を歩むのになあ。

人間、後悔してばっかりなんだなあ。


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「…であるからにして…、…して」




…なんだろう。なんだか身体が軽い。


仕事で、いつも疲労感を覚えていた身体とは違う。


エネルギーに満ち溢れた身体だ。


俺は33歳。

もういい年だ。

高校卒業してからロクに運動もしていない。



こんな感覚は久しぶりだ。

首の怪我も大したこと無く、病院でしっかり休めていたからなのだろうか…


「…おい!真田!【真田 幸村】!!名前だけ武将野郎!寝てんじゃねぇ!!」


「…は…はい!!す、すみません!?」

俺の名前だ。


瞬時に反応してしまう。反応するが…ここはどこだ?


…教室? しかも授業中だ。


周りを見るとクスクス笑っている制服の男女…見覚えがあるが…あまりに若い。


「…え?あれ?俺…妻は?カフェ…いや、仕事に?…元上司が…????」


「おいおい…寝ぼけてんなあ。根暗な生徒の良い点は授業はしっかり聞くことだぜ?おおぅコラぁ!!起こしてやるよぉ!!」


そういった教師の男は、俺を平手で3度ビンタしていく。

虐待や体罰が騒がれるこの時代に、この男はよくやるものだ。そう思った。


その後、何も無かったかのように業務遂行する教師。

数学の授業で数1と数Aだ。簡単なものだ。

何度か問題を提示されるも、問題なく解けていく。


だが、その授業中は気持ちが全く入っていなかった。

なんせ黒板の日付の所が気になって仕方ないから…。


2005年4月28日 日直 〇〇


おかしい。俺は2023年を生きていた筈だ。

改めて確認する33歳の人生。


2023年、ブラック企業と副業で金を稼ぎ、妻にATMにされたあげく捨てられて妻を奪った相手に首を刺された。そこまで明確に覚えていた。


その日は高校から自宅に帰った。懐かしい我が家だ。

本当に2005年な街並み。


まだりんご社のiなPodのnanoが新発売で広告されている。

「感動した」でお馴染みの総理大臣も在任中だ。


だが今、本当に自宅に行っても変ではないのか。

心配になりながらも、両親に会いたいという気持ちが勝って、自宅に向かっていく。



帰り道にあったコンビニに少し入ると懐かしい商品が多い。


雑誌コーナーでニュースを見ると、重大な電車事故がつい先日起きたばっかりであった。


4月25日、重大な電車事故が起きた。通勤・通学客らを乗せた快速電車が脱線。運転士を含む107人が死亡、555人が負傷し、史上最悪の惨事となった。カーブでの大幅な制限速度オーバーが直接の事故原因。列車自動停止装置の不備や、余裕のないダイヤ編成、懲罰的な運転士教育なども背景として指摘された。


たしかこの後には電車会社をめぐっては、危機意識に欠ける社員の不祥事も立て続けに発覚するはずだ。俺の記憶にしっかりと残っている。


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そんな事を考えながら、自宅に着いた。


仏頂面の父親が個人でパソコン修理屋を営み、母はのほほんとしている。


心配になりながらも、声をかけて反応を探る。


「…父さん母さん、ただいま。」

ぎょっとする両親。


「お前…急に挨拶とか…今日はなんか表情も暗くないような…。どうした?」

「何か、良いことでもあったの?」


俺は、両親に挨拶すらしない奴…だったっけ?

社会に出てから、少しは両親と会話するようになったと思い出すが…


高校時代は、こんなようなものだったっけ?



2005年…。これが本当なら俺は15歳。

夢か。俺は今、病室で生死の狭間を…彷徨っているのかもしれないな。


…でも、これが本当だったら?


俺は強く両手を握り込む。

これはやり直せというのだろうか。



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懐かしい自宅の自分の部屋。

趣味は無く、ただパソコンでダラけたネットサーフィンをして過ごす毎日だった。


高校2年からランニングを始めた気がするが、今はなんにもやっていない。

つまり時間が余りまくっている。大体16時には学校から開放される。


やり直せる人生だと考えたら何をしようか?


記憶を呼び戻すと2005年はどんな年であったか思い出す。


・新興IT会社がTV放送株の35%を取得したと発表。

・東証出来高バブル時上回る

・愛知万博開催

・世界各地でテロ

・そして郵政民営化法成立。


俺は歴史が好きで。どの時代に…何があったかをまとめた、通称【まとめサイト】を副業で運用していた。


理由は簡単だ。


仮想通貨や株といった時流を読む投資能力がなく、常に羨ましい・妬ましいと思っていたからだ。

…何度、【億り人】と呼ばれた仮想通貨で成功した人間達を、血が出るほど歯を食いしばって羨ましさを我慢したことか。


詳細は覚えていないが、この知識をうまく使えば…俺は成功を手にするのが…容易なのでは無いだろうか?

実際に成功者は、高校生から月収300万稼いでいたと聞いている。少なくても月収50万くらいなら、副業に慣れた自分でも出来るのでは無いだろうか。


そう思うと、行動する意欲がグングンと湧いた


パソコン修理の父に相談する。

「父さん、相談したいことがあるんだけど…仕事忙しい?」

「ん…今日は少し、パソコン修理の案件が多くてな、お前が手伝えたら…早いんだけどな。ハッハッハ。」


そう笑った父に俺はキョトンとした表情をしていた。

「はは…気にすんな。俺もサラリーマン時代に触ったくらいだが…触り続ければ、人より詳しい程度には成れた。…幸村。お前も何か、一つくらいは…強みを持てよ?」


いい父だ。キョトン顔を「出来ないよ」という意味で勘違いしたとはいえ…息子の成長を願いながら、自分の力量をしっかりと把握している。


…だが俺は進言する。


「父さん。その仕事手伝ったら、…少しお願いを聞いてほしい。」


お前に出来るのかよ。そんな表情であったが、父は快く頷いた。


前世の俺がシステムエンジニア、プログラマー、カスタマーサポートとして働いた経験があることを知らずに。

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