第67話 神龍精霊【ペンドラゴン】vs炎の魔神【イフリート】
最初は簡単にガードできていた。
【龍王結界】によってミスティのパワーとスピードは大幅に強化されていたものの、俺の【
しかしミスティの攻撃は少しずつ速さと威力を増していき。
今や俺はどうにか受けるので精いっぱいという状況にまで、追い込まれてしまっていた。
「ぐぅッ、どんどん速くて重くなってきている!? く――っ!」
「【白龍神楽】は儀式系の精霊術なんです。戦いの中で神楽を舞い踊ることで【ペンドラゴン】の精霊力をより精密に練り上げて、更なる力に変えていくんです」
「なんだそりゃ!? そんなのありかよ!?」
その言葉通りに、ミスティの攻撃は際限なく威力を増していく。
相手の小手先の技は【看破】によって全て封じ込め。
【瞬間未来予知】によって一方的に機先を制し。
そして【白龍神楽】という圧倒的なまでの正攻法で、真正面から叩き
「これが最強の聖精霊、神龍精霊【ペンドラゴン】の力か――」
……だめだ。
これはちょっと無理だな。
まったくもって打つ手がない。
完全にお手上げだ。
俺が降参しかけた時だった、
―我が主よ、奴を相手に敗北することは許されぬ―
【イフリート】が突然、俺の意思とは無関係に完全体で顕現した。
その姿は、10メートルはあろう業火をまとう炎の魔神だ。
―我は神をも喰らう炎の魔神【イフリート】なり。出てくるがよい白龍の王よ、いつかの再戦としゃれこもうではないか―
「ちょ、おい【イフリート】! なにを勝手に出てきているんだ!?」
俺は慌てて【イフリート】を引っ込めようとしたのだが、しかし【イフリート】はまったく聞く耳をもとうとしない。
しかも、
―久しいな
とかなんとか言いながら、今度は神龍精霊【ペンドラゴン】が完全体で顕現した。
こちらも2階建ての家ほどもある巨大な白い龍の姿をしている。
神話級の巨大な精霊2体が、険悪なムードでにらみ合った。
「えっと、あの、【ペンドラゴン】?」
突然の展開にミスティも状況を把握しきれずにあたふたする。
―ご安心を我が主。
そしてこっちもこっちで、やたらと戦う気満々のご様子。
「いえあの、勝ち負けということではなくてですね?」
―くくっ、我を昔のままだと思わぬことだ白龍王。その美しい白い身体を地べたに這わせ、泥と恥辱にまみれさせてやろう―
もちろん【イフリート】はもう完全にやる気満々だ。
売り言葉に買い言葉でどんどんと戦意をたかぶらせていっている。
「【イフリート】はどうも【ペンドラゴン】に思うところがあるっていうか、大昔に負けたことを根に持ってるっぽいな。ここで会ったが100年目とばかりに、リベンジマッチをしたいみたいだ」
俺はなんとなく察したことを、困惑するミスティと幼女魔王さまたちに説明してあげた。
「精神年齢が子供かい!?」
思わずといったように幼女魔王さまがツッコんだ。
俺の気持ちも同じで、きっとここにいるみんなも同じ気持ちに違いない。
もはや戦いは避けられないと悟った俺は、その代わりに条件を出すことにした。
「絶対に周囲に危害を加えないこと。危ないから飛び道具は禁止。相手の攻撃はよけずに必ず受け止める。これが守れるなら後はもう好きにしてくれ。それと期限は今日の日の入りまでな」
―御心のままに―
―もう一度、身の程を教えてくれようぞ―
こうして最強クラスの巨大精霊同士による、極めてどうでもいい理由の、素人顔負けのノーガードの殴り合いが幕を開けた。
そしてそれは日の入りまできっかり続いた。
俺たちは最初はハラハラしながら見守っていたものの。
途中で飽きてしまって別のことをしていて、ちょうど日没直前の今になって戻ってきたところだった。
この場の責任者として、ずっと戦いを見守っていたベルナルドが言うには、
「最初から最後まで延々ずっと近接精霊術で殴り合っていたね。いやー、最高位の精霊だけは敵に回したくないと心底思ったよ」
とのことだった。
「ギリギリまでやってたのかよ、元気だなぁ」
「ですねぇ」
「精霊との付き合いかたがまた少し分かった気が、するような、しないような?」
結局、勝負は時間切れで引き分けに終わっていた。
引き分けという中途半端な終わり方をしたものの、【イフリート】はそれなりに戦って満足はしたのか、
―迷惑をかけた。2度と勝手はしないと盟約しよう―
決着がついていないにもかかわらず、素直に引き下がってくれた。
【ペンドラゴン】も既に実体化を解いていて、辺りはすっかり静かになっている。
「ちょっぴり想定外のアクシデントはあったものの、スペック調査としてはこれ以上なく十分じゃろうて。神龍精霊【ペンドラゴン】は強すぎる。用法は守って、ご利用は計画的に! 以上!」
幼女魔王さまが最後に綺麗に話を締めて、今回の一連の騒動は幕を閉じたのだった。
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