第64話 精霊発表会

 俺と幼女魔王さまとミスティは、王宮の敷地内にある軍事演習場を借りて、『幼女魔王さま・プレゼンツ・精霊発表会』を行っていた。


「ちび太、今度はこっちなのじゃ!」


 ―きゅいきゅい!―


 幼女魔王さまが指さした方向に、実体化した火トカゲ――魔王さまの唯一の契約精霊だ――がぴゅいーっと飛んでいく。


「――からのジャンプ! とぉっ!」


 ―きゅい!―


 さらに新たな指示を受けたちび太は急上昇。


「そして最後に一回転!」


 ―きゅい!―


 最後に華麗に後方宙返りを決めると、ちび太は幼女魔王さまの顔の隣にふわりと浮かんで停止した。


「ふふん、なかなかのもんであろう?」


 幼女魔王さまがどうだと言わんばかりに、誇らしげに胸を張る。

 主に同調するように、ちび太も同じように胸を張っていた。


「見事な精霊の使役だったな。完全に精霊とシンクロしてたじゃないか。いやはや、恐れいったよ」


「ふふん、日々ちび太と仲良くなるべくお話をした成果であるからして」


 ―きゅいきゅい!―


 幼女魔王さまの言葉に、ちび太も嬉しそうに鳴いて答える。


「本当に凄いですよ、魔王さま。私はまだ精霊の声を時々聞くだけしかできませんから」


「うむうむ、ミスティが精霊の声を聞けるようになり、一時はわらわの精霊使いとしての存在意義が完全に揺らいでしまっておったからの。しかしこれで、妾もちょーっとは勇者パーティのメンバーらしくなったというものじゃて」


「ちょっとどころか、おおいに戦力アップですよ!」


「魔王さまは精霊との付き合い方を、完全に体得したみたいだな」


「それもこれもハルトのおかげなのじゃ。ハルトの言うとおり、肩ひじを張らずに素直な心で触れ合えば、こんなにも簡単にちび太が懐いてくれたのじゃから」


「ははっ、そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。でもこれは俺もうかうかしていられないな」


「いやいや、ハルトにはもうちょっとばかし、うかうかしてほしいのじゃが。でないとせっかくほんのわずかだけ縮まった差が、また大きく開いてしまうからの」


「一番大切なコツを掴んだから、ここからはどんどん伸びていくと思うけどな」


「そ、そうであるか? うむ、実は妾もここからはグーっと類まれなるビッグな上昇曲線を描くのではないかと、実はこっそり思っておったのじゃ」


 なんてことをのほほんと話していると、


「あ、あの、ハルト様」


 ミスティがちょんちょんと俺の肩をつついた。


「どうしたんだミスティ?」


「あの、私の目の錯覚でなければなんですけど。なにやら巨大なものが、こっちに向かって猛スピードで飛んでくるんですが……」


 ミスティの指さした方向を見ると、確かに、なにやら巨大な鳥のようなものが、勢いよく放たれた矢のように、超高速で俺たちの方に近づいてきていた。


 ミスティはハーフエルフなので俺たちより格段に目がいい。

 なので俺や幼女魔王さまよりも先に視認できたのだ。


「しかし、でかいな。この距離であのサイズとか。でも、待ってくれ。この波動ってもしかしてフリーの精霊か?」


 俺は高速で近づいてくる何かが精霊であることに、いち早く気付く。


「精霊じゃと!? っていうか、ほんとにめっちゃでかくないかの!? ちょっとぉ!?」


 ぐんぐん近づくにつれどんどんと大きくなる精霊の姿に、幼女魔王さま素っ頓狂すっとんきょうな声をあげた。


「ど、どうしましょう!?」


「敵対的な気配は感じない。とりあえずはいつでも動けるように臨戦態勢をとりつつ、様子見しよう」


「お、襲ってはこぬと言うことかの?」


「俺たちがなにかしない限り、いきなり襲ってくることはないはずだ……多分。確証はない」


「ちび太、もしもの時は頼むのじゃぞ?」


 ―きゅい~~―


「無理とか言うでない無理とか! こ、こら、逃げるでない!」


 幼女魔王さまの後ろに隠れてしまうちび太。


「俺が前に出る。ミスティはいつでも動けるようにしつつ、魔王さまを守ってくれ」

「心得ました」


 俺を先頭に、半歩下がってミスティと幼女魔王さまが構える密集陣形をとって、俺たちは精霊の到来を待ちうけた。


 そして少しした後、バサバサ!っと羽ばたく音がしたかと思うと、俺たちの前に巨大な精霊が舞い降りた。


 その姿は――、


「白い龍なのじゃ……!」

「もしかしてドラゴンですか……!?」


「いや、これはドラゴンはドラゴンでも、伝説の神龍精霊【ペンドラゴン】だ!」


 なんと2階建ての家ほどもある巨大な白いドラゴンだったのだ――!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る