第62話 『そういう気持ち』
「あー、あったまるなぁ~~」
俺は身体を完全に弛緩させて、まっ白なお湯に肩まで
「あったまるのじゃ~~」
「あったりますね~~」
俺の向かいにいる2人も、同じようにはにゃーんと身体をだらけさせながら肩までお湯に浸かっている。
まっ白な濃いお湯のおかげで、見たり見られたりの心配も全くなくて、特級の美少女2人が裸で目の前にいても、俺は気兼ねなく温泉を堪能することができていた。
もちろん、上気した頬や首すじは魅力的ではある。
ミスティも魔王さまも女性としていろいろと発達していて、顔立ちももの整っていて、すごく魅力的だから。
がしかし。
他国から来たよそ者の俺を家族とまで呼んでくれて、それはもう厚く信頼してくれる2人を、俺は一時の情動で裏切ったりはしない。
しばらく、薬効たっぷりの真っ白なお湯で身体の芯から温まっていると、
「――かすかに精霊の声が聞こえる気がします。すごく小さな声ですけど」
そう言ったミスティが、両手を耳に当てて耳を澄ますような仕草を見せた。
「ああ、これは浴場精霊【カラカラ】だな」
「欲情精霊【カラカラ】ですか? そんな精霊がいるんですね――って、欲情!?」
なぜかミスティが素っ頓狂な声をあげた。
よほど驚いたのだろう、完全に声が裏返ってしまっている。
「ああうん、浴場精霊だけど?」
何をそんなに慌ててるんだろう?
俺なにも変なこと言ってないよな?
「よ、欲情精霊ってことはですよ!? や、ややや、やっぱり『そういう気持ち』にさせてしまう精霊ってことですか!?」
『そういう気持ち』ってなんだ?
温泉に入ってリラックスする気持ちってことか?
「まぁそうかな。『そういう気持ち』をさらに後押ししてくれる精霊だよ。ま、俺たちの気分に誘われて出てきたんだろ」
「え――っ? 『俺たち』ってことは、わたしだけじゃなくハルト様も『そういう気持ち』だったんですか……?」
ミスティが目を大きく見広げて、それはもう驚いた顔を見せる。
「? まぁ温泉に入っているからな。『そういう気持ち』にもなるだろ? ミスティもそうだろ?」
「そ、そうですよね……裸でいるわけですし、お互いに『そういう気持ち』になっちゃいますよね」
そう言いながら、急にあせあせと髪の毛を整え始めたミスティ。
そんなミスティは、お湯につからないように髪をアップにまとめているせいで、うなじが見えちゃってるんだけど、そのうなじがまっ赤に染まっていた。
結構な時間入っていたし、少しのぼせちゃっているのかな?
「大丈夫か、温泉に入り過ぎたんじゃないか? 顔とか首が真っ赤だぞ? そろそろ上がるか、なぁ魔王さま。――魔王さま、魔王さま?」
が、しかし。
いくら呼び掛けても返事がない。
見ると幼女魔王さまは半分口を開いたまま、ぐてーと意識を失ってしまっていた。
「た、大変です、完全にのぼせちゃってます!」
ミスティが幼女魔王さまの顔をのぞき込んで、ほっぺをペチペチ叩くが反応がない。
俺はすぐさま幼女魔王さまをお湯の中から引き上げると、縁に寝かせた。
「さっきからえらく静かだと思ったら、のぼせて気を失っていたのか。ならばよし、氷の精霊【ガリガ・リクン】! 氷系精霊術【コキュートス】発動!」
――ダァ――
俺は氷系の最高位精霊術を発動した。
外から冷やすのではなく、精霊の力で身体の内部をピンポイントで自由自在に冷やすことができる精霊術だ。
「一気に冷やすとそれはそれで逆効果だからな。血流の多いところを重点的に、適度に冷やしていってくれ」
俺の指示を受けた氷の精霊【ガリガ・リクン】が、のぼせてしまった幼女魔王さまをいい感じに冷やしていく。
しばらくすると、
「む……」
幼女魔王さまがパチクリと目を覚ました。
「魔王さま、お加減はどうですか?」
ミスティが優しく問いかけると、幼女魔王さまは少し状況を考えるようなそぶりを見せてから、
「ふむ、この状況から察するに、どうやら
ぺこりと頭を下げた。
「いいってことよ。なにせ俺たちはパーティの仲間――家族なんだからな」
「ですね!」
「むむっ、今回はハルトにいい感じに
「じゃあ俺たちものぼせないうちに、そろそろ上がるか」
温泉を堪能した俺たちは温まった身体に浴衣を着込むと、部屋へと戻った。
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