第23話 えっ…何で此処にいるんですか!?

 颯澄が刑事達に連れられた後、僕達はまだ理事長室にいた。

 何故かと言うと……城西学園理事長であるお爺様の辞任に関する話し合いの為にである。


「……ボイスレコーダーの音声内容は事前に聞いていましたが、お爺様は本当に理事長を辞めるつもりなのですね?」


 僕のこの問いにお爺様は間髪入れずに答える。


「その通りだ俊吾よ。

 今回の件の責任は儂が取る必要がある。

 親御さんにとって大事な子供達を預かっておきながら、儂は守ることが出来なかった。

 教育者としても失格であり、大人としても失格だ。

 生徒達を正しき道に導くことが出来なかった儂に……理事長を続ける資格などないのじゃよ。

 だから儂は理事長職を辞任することに決めた」


「……どうあってもお考えに変わりはありませんか?」


「くどいぞ俊吾」


 そう、真剣な目で僕を見ながら言うお爺様。

 一度自分が言ったことは絶対に曲げない、と言う強い意志をひしひしと感じた。

 だからこれ以上は何を言っても無駄だと判断した僕は言う。


「……分かりました、お爺様。

 瀬戸崎財閥グループ現会長、瀬戸崎 俊吾の名のもとに……瀬戸崎 繁信の城西学園理事長からの辞任申し入れを受諾します。


 但し正式な辞任は後任理事長が決まり次第とし、それまでは継続とします。


 流石に現時点で解任して空席にする訳にもいきませんので…お爺様、そこは理解して下さいね?

 でないと要らぬ混乱を招くだけですので」


「相分かった。

 俊吾よ、要らぬ苦労をかけてすまぬ…」


 そう言ってから深々と僕に頭を下げるお爺様。

 これには流石の僕でも驚いてしまっていた。

 滅多なことでは頭を下げないお爺様が頭を下げる…。

 それだけ今回の件を重く受け止めている上……責任を感じているのだろう、と僕は思った。

 だけどそう思ったのは僕だけではなかったようで、理事長室内にいる誰もが声を発せずにいた。


 朱璃や兄貴、詩織とSP達とメイド護衛隊の面々は当然ながらお爺様の人に対する普段の接し方は知っている。

 だがこの行動には驚きと困惑を隠せない様子だった。

 沙苗だけは混乱している様子だけど…。


 そんな異様な空気が理事長室内に漂う最中、この空気をぶち壊す勢いで理事長室のドアがバンッという音と共に開く。

 そして開け放たれた入り口から、見るからに上等な素材を用いて作られたであろう薄桃色のドレスを身に纏った女性が理事長室内に入ってきた……と思ったら一直線に僕の方に向かって走りながらダイブしてきて、抱きとめた僕を抱きしめながら言う。


「俊ちゃんに会いたくて我慢しきれずに来ちゃった♪」


 そう言う女性に…僕は驚きと困惑に包まれた感が分かる口調で言う。


「は、母上!? えっ…何で此処にいるんですか!?

 ……じゃなくて!!何でがこの学園にいるのですか!?」


 そう僕が叫んでしまうのも無理はない話なんだよね。

 だってこの女性の正体は僕と兄貴と朱璃の母上の美菜であると同時に──第75代天皇陛下でもあるのだから。



◇◆◇◆◇



 俊吾・俊介・朱璃の母親である美菜が城西学園理事長室で俊吾を抱きしめている頃の皇居では───




 私の名前は志田しだ 瑞希みずき

 現天皇陛下である美菜様の側仕え兼護衛として宮内庁から派遣されている者です。

 側仕え兼護衛として常に美菜様のお傍で身の回りのお世話をしており、ほぼ常にと言っていいほどにお話し相手にもなっています。

 なので今日も私はいつも通りの時間に美菜様がおられる執務室のドアをノックし、お声掛けをしました。


「美菜様、瑞希でございます。

 お飲み物と軽食をお持ちしましたので中に入っても宜しいでしょうか?」


 普段であれば直ぐに室内から『どうぞ~♪』と言った返事が返ってきます。

 ですが今日は一向に中からの返事が返ってきません。

 だから私は再び声を掛けました。

 美菜様は"結構な確率で寝ている"ことがあるので、今日もそのパターンかなと思ったからです。


「美菜様? 美菜様ーー!

 また寝ておられるのですかーー!」


 こうお声掛けすると普段は寝起き声で返事が返ってくるのです。

 ですが待てど暮らせども一向に返事が返ってきません。

 流石にこれは……と不安になった私は無礼を承知の上でドアのノブに手をかけ、回しました。

 ですが鍵が掛かってないようで、ドアノブはすんなりと回りました。

 なので私は一気にドアを開け放ち、執務室内に入りました。


 ですが執務室内に美菜様の姿が見当たりませんでした。

 何かの事件にでも巻き込まれたのではないか……と思いながらも執務室内を見渡してると、執務机の上に紙切れが置かれているのを見つけました。

 近寄って紙切れを手に取り、書かれている内容を読みました。

 そこには美菜様の綺麗な字でこう書かれていました。



-----------------------


 瑞希へ


 我慢の限界が来たので、暫く会っていない俊ちゃんに会いに行ってきます♡

 場所は瑞希ちゃんも知っている城西学園よ♪

 だから私が居なくて困惑していると思うけれど、心配はしなくても大丈夫だからね?


 ではでは、愛しの俊ちゃんの元へ行ってきま~す♪



 P.S.我儘で行動派な天皇だけど笑って許してね、み・ず・き・ちゃん♡


          我が子ラブな美菜ちゃんより


-----------------------



 読み終えた瞬間、気付けば私は紙をクシャりと握り潰してからゴミ箱に思いっ切り全力投球でボッシュートしていました。

 それから声を張り上げて言いました。


「あんのバカ親天皇がぁぁぁぁっ!!

 地面を引き摺ってでも必ず連れ戻す!!

 そして24時間説教の刑に処しますから、お覚悟を…ふふふっ♪」


 そう一頻ひとしり叫んだ後に私は"天皇陛下連れ戻し隊"を引き連れて城西学園へと車をアクセル全開でぶっ飛ばすのでした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る