第22話 遅すぎる後悔・後編

 次話より本編に戻りますm(_ _)m


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 老いぼれ爺さんらが言っている意味を未だに全く理解することも出来ずにいた。

 そんな状態の僕に対し、怒りが頂点に達して怒り狂った表情と化した爺さんが言う。


「……儂や瀬戸崎財閥グループ・桜坂財閥グループを舐めるのも大概にしろよ小童がぁぁぁぁ!!」


 何故だ? 怒り狂った罵声を、どうしてこの僕が浴びせられなければならないんだ?

 自分よりも格下の爺さん達を舐めることの何処に問題があるというのだろうか?

 そんな疑問を持ちながら僕は爺さんに言う。


「貴方と瀬戸崎財閥グループ・桜坂財閥グループを舐めることの何処に問題があるのですか?

 父上が持つ権力を使えば、瀬戸崎財閥グループや桜坂財閥グループなど簡単に"潰す"ことが出来るんですから。

 だから何の問題もないんですよ」


 僕のこの発言に対し、爺さんは"もうダメだなこりゃ"とでも言うかのような呆れ顔で口を開く。


「はぁ、本当に貴様は何も分かっておらんようじゃな?

 竜ヶ崎財閥グループが持つ権力では、儂個人だけでなく瀬戸崎財閥グループと桜坂財閥グループすら潰すことなど出来ない……ということを、な」


 はぁ、全く……これだから格下相手との会話は疲れるんだよ。

 そう思いながら僕は爺さんに対してこう問い掛ける。


「……竜ヶ崎財閥グループを甘く見てるのですか?」


 すると間を置かずに爺さんは言う。


「甘く見てるのは貴様の方じゃよ。

 それに貴様は、ことの重大さに未だに気付いておらぬ。

 貴様の目の前にいるのは誰だと思ってるのだ?」


 貴様の目の前にいるのは誰だ?……って、言われてもねぇ。

 唯の老いぼれ爺さんでしょ?……僕の目の前にいるのは、な。

 そう心の中で思っていたことを、気付けば僕は口にしていた。


「老いぼれた爺さんでしょ?

 僕の目の前にいるのは、ね」


 それを聞いた爺さんが僕に言う。


「儂が名乗った際、貴様は何を聞いていたのだ?

 その耳は飾りか?

 儂は、こう言ったはずだぞ?

 日本最大規模の財閥グループである瀬戸崎財閥グループ現副会長である、とな」


 だから何だ?……というのが僕が抱いた正直な感想だ。

 何処の財閥グループの副会長だろうが、格下には変わりないじゃないか。

 だからまたしても僕は爺さんを馬鹿にしたような口調で言っていた。


「だとしたら何なんですか?

 爺さんが何を言いたいのか、僕には全く理解出来ません」


 僕がそう言った瞬間、爺さんが纏う雰囲気が一変したのを僕は感じ取る。

 それは正に僕よりも長く生きてきた人だけが纏う威厳そのものだった。

 父上よりも圧倒的な、ね。


「そうか…全く理解出来ない、か。

 現時点を持って、竜ヶ崎財閥グループと行っていた全ての取り引きを終了。

 竜ヶ崎 颯澄、貴様を城西学園高校理事長権限で強制退学処分とする。

 これらの決定は、決して覆ることはないと捉えよ」


 その宣言を聞いた瞬間、何故か分からないが僕の体から血の気が引いていったのを感じた。

 それでも僕は言う。


「なっ!? 竜ヶ崎財閥との取り引き終了!?

 更に僕を強制退学処分にするだって!?」


「そうじゃ。それだけのことをしたのだよ貴様は、な」


 そう爺さんが言ったと思ったら、次は爺さんの横にいた彼が聞いてくる。


「先輩は竜ヶ崎財閥グループで働く人達のことを考えたことがありますか?」


 はい? いきなり何を言っているんだ此奴は?

 竜ヶ崎財閥で働く人達なんて、今は関係ないだろうが!

 それに何を考える必要があると言うんだ?


「は?いきなり何を言っているんだ? 今まで、そんな事を考えたことなんてないな」


 僕は彼からの問にこう答えてやった。

 だがそれを聞いた此奴は……哀れみの目をしながら僕に言う。


「そう…ですか。 なら、先輩のせいで竜ヶ崎財閥グループで働く全ての人達が職を失うことになりますね。

 貴方のその自分本意な発言を言ったことによる代償でね」


「は?何故、僕のせいになるんだ?」


 此奴が言っていることがまるで理解出来ない。

 一体、何を言いたいんだよ!


「……先程、お爺様は竜ヶ崎財閥グループとの取り引きを全て終了すると宣言しました。

 つまり、竜ヶ崎財閥グループにとって、瀬戸崎財閥グループとの取引率は、全体の60%を占めているはずです。

 それを全て停止されたらどうなるか……後はお分かりですよね?

 僕やお爺様が言いたかったことが、ね」


「……ま、まさか!?」


 彼が言った意味を……ここにきて僕はようやく理解する。

 そんな僕を見透かしたかのような感じで爺さんが言う。


「ここにきて貴様はようやくことの重大さに気付いたようじゃな?

 じゃが、儂は貴様に言いたいことがまだ残っておる」


「な、なんでしょう……か?」


 爺さんの問に、僕は"恐る恐る"といった感じでそう聞いていた。


「それはじゃな───貴様が、この学園に通う一部の女子生徒達に犯罪行為をしていた件についてじゃな」


 それを聞いた僕は"ビクッ"としてしまった。

 だってそうだろ?……爺さんが言った"女子生徒達に犯罪行為"に身に覚えがあるのだから。

 だけど悟られたくない僕は"シラを切る"ことにした。


「……っ!?な、なんの事だか僕には分かりませんね」


「そうか……あくまでも否定する、か。

 ならば、この写真に写ってることに関してはどう説明するというのだ?」


 あくまでもシラを切り通そうとする僕にそう言った爺さんは執務机の引き出しを開け、中から複数枚の写真を取り出し、机の上に広げていく。

 そしてそれを見た僕は驚愕する。


「……なっ!?そんな……その写真は……!?」


 そう言ってしまうのも当たり前のことだった。

 だってその写真に写っていたのは……僕が女子生徒達を襲っている最中の場面だったのだから。

 そしてその写真を見たであろう沙苗と詩織から向けられる軽蔑の視線を"ひしひし"と感じる。

 そんな状態の僕に、彼はこう聞いてくる。


「先輩……この写真についての説明をお願い出来ますか?」


 だから僕はこう答えた。

 まだ今ならシラを切り通すことが出来ると思って…。


「何故……この写真が……。

 僕は何も知らない!!こんな写真は捏造だ!!」


「ほぅ…貴様は、この写真が捏造されたものだと言うのだな?」


「そうだと言っているだろう!!」


「なるほど……。

 ですが先輩、この写真に写っている女子生徒達からの証言は既に取れてるんですけどね。

 女子生徒達は間違いなく先輩に襲われたと言っていますが?

 それに、証言内容はボイスレコーダーにも記録してありますよ?」


「なっ……!?」


「この場で再生しましょうか?」


 そこまでのやり取りをした後、無情にも女子生徒の証言が録音されているボイスレコーダーが彼の手によって再生されてしまった。


『バスケで使った道具を体育館倉庫に戻してる所へ、颯澄先輩がやってきて……無理やりマットに押し倒されて胸を揉まれました。

 下半身も触られそうになりましたが、他生徒の声が聞こえた途端に颯澄先輩は慌てて逃げていきました。

 私は恐怖のあまり、声も出すことも出来ずに震えてることしか出来ませんでした。

 もう、あんな思いをしたくありません。

 ハッキリ言って、男性を見るだけでも震えてしまいます。

 今でもあの日の恐怖が忘れられず、夜も眠れない毎日を送っています。

 私は胸を揉まれただけで済みましたが、私の友達は……友達は!……うぅ……』


『思い出したくもないことを聞いて、申し訳なかった。

 理事長として、竜ヶ崎 颯澄には厳正な処分を下すことを約束する。

 それと、他の被害にあった女子生徒達は、被害届を警察に提出することにしてもらっておる。そなたはどうする?』


『私は、彼奴が許せません!!

 なので、私も被害届を警察に提出します!!』


『相分かった。被害にあった女子生徒達には既に言ったが、今回の件についての責任を取り、儂は理事長の座を降りると決めた。

 被害を未然に防ぐことが出来なかった儂が理事長を続ける資格などないからだ。

 今回の件、心の底から謝罪する。

 本当に申し訳なかった!』


『り、理事長!? あ、頭を上げてください!!

 私は、彼奴に重い処分を下して下さるだけで十分ですから!?』


『そう言ってもらえるだけでもありがたい。

 だが、それでも儂は理事長を辞任することとする。

 被害を未然に防ぐことが出来なかったのでな。

 儂が責任をとって理事長を辞任した所で、被害にあったそなたや他女子生徒達が負った心の傷が癒えるとは思ってもいない。

 せめての罪滅ぼしとして、被害女子生徒全員にカウンセラーを手配する故、少しずつ心の傷を癒していって欲しい』


『理事長………。ご配慮、ありがとうございます』


「これでもまだ、シラを切りますか?」


「………………………」


 ボイスレコーダーの再生を停止させてから聞いてきた彼の問に……僕はもう何も答えることが出来なかった。

 いや、反論することが出来なかった。

 そうやって黙る僕は爺さんからの怒声を受ける。


「貴様ぁぁぁぁ!!なんで黙っておる!!」


 こう言われた僕は開き直ることにした。

 証拠がある以上は、何を言っても無駄だと思ったから。

 どうせ父上がまた揉み消してくれるだろう、と楽観視もしていたから…。


「ああ、そうだよ!!女子生徒達を襲ったのは僕だよ!!認めてやるよ!!」


「貴様、その物の言い方はなんだ?

 貴様は何をしたのか分かってるのかぁぁぁぁ!!

 貴様は学園の風紀を乱しただけでなく、女子生徒達の心に深い傷を負わせ、男に対しての恐怖心を植え付けたのだぞ!?」


 え~と…? だから何?……って感じで僕は言う。


「それがなんだと言うのですか?

 女なんて所詮、男の性欲を満たすだけの道具でしょ?

 何が被害届だよ…巫山戯やがって!

 大体な……「バチンッ!!」………は?」


 言葉を発している途中、いつの間にか僕の目の前にまで来ていた沙苗に思いっきり平手打ちをされ、僕は惚けてしまう。

 そんな僕をキッと睨みつけながら沙苗は口を開く。


「さっきから黙って聞いていれば、なんなのアンタは!?

 女性は男の性欲を満たすだけの道具?

 巫山戯たこと言ってんじゃないわよ!!

 アンタみたいなクズがいるから、泣き寝入りするしかない女性達が世の中から居なくならないのよ!!

 私達だって生きてるの!!

 私達にも人権はあるのよ!!

 決して私達女性は男の性欲を満たすだけの道具なんかじゃない!!

 好きでもない男に理由もなく抱かれたい女なんて、この世にはいないのよ!!

 アンタは最低な男よ!!

 今回、アンタに襲われた女子生徒達の気持ちを思うと、私はアンタを一生許すことなんて出来ないわ!!

 せいぜい、刑務所の中で自分が犯した罪を深く反省することね!!」


 その沙苗の言葉に続けて詩織も言う。


「沙苗さんの言う通り、私も貴方を一生許さないです。

 被害に遭われた方々を思うと、尚更です。

 それとお父様に言って、桜坂財閥グループも竜ヶ崎財閥グループとの取引を全て停止してもらうよう、進言させていただきます。


 二度と私の前にその姿を表さないで下さい」


 そう彼女らに完全否定された言葉を浴びせられた僕は何も言えずに、うつむくことしか出来なかった。

 そしてそんな状態となっている僕に、理事長と俊吾君がそれぞれ言った。


「最早、貴様に言うことは何もない」


「僕からはこれだけ言っておく。

 沙苗や詩織の言う通り、女性にだって生きる権利はあるし、男の性欲を満たすだけの道具なんかでもない。

 だから颯澄、自分の犯した罪を刑務所でしっかりと反省することだね。

 それと、襲った女子生徒達に謝ることだね。

 決して、許してはもらえないだろうけど……」


 それを聞いた僕が顔を上げてから外を見ると、サイレン音を響かせながら複数のパトカーが正門から入ってくるのが見えた。

 どうやら事前に通報されてたみたいだな…。


 それから少しして、理事長室内に複数名のスーツ姿の大人達が入ってきた。

 その大人達を見た僕には分かっていた……僕を逮捕しに来た刑事さん達だということを。

 その証拠に刑事さんの1人が懐から警察手帳を取り出して開きながら僕に近付いてきて、僕に問い掛けてくる。


「警視庁捜査一課所属で警視正の瀬戸崎 俊介という。

 君が竜ヶ崎 颯澄君で間違いないかな?」


「…………はい」


 ん?瀬戸崎?……ということは俊吾君の身内なねか…?と思いながらもそう返事を返す。


「そうか。 現在時刻12時13分、暴行罪並びに強制性交罪の罪により、竜ヶ崎 颯澄君……君を逮捕する」


 その言葉と共に僕の両手首には手錠が掛けられる。

 それから間を置かずに僕は刑事達に両脇を挟まれながら理事長室から連れ出される。

 そして校舎裏から出た後、待機していたパトカーに乗せられる。


 パトカーに乗せられてからドアが閉まった瞬間"僕はようやく自分が一体何をしたのか"についてを、真の意味で理解した。

 だから僕は今更ながらに思う。


 自分がどれだけ馬鹿なことをしたのか…。

 どれだけ自分本位で沢山の人達に迷惑をかけてきたのか…。

 何でこうなってしまう前に自分をりっすることが出来なかったのか…。


 そんな思い等ばかりが今更になって溢れてくる。

 だから僕は、警視庁へと向かっているパトカーの中で涙を流しながら謝罪の言葉を口にしていた。


「ごべんなざい……ごべんなざい……うぅっ……」


 そう謝っていても…泣いても……今の僕には"既に遅すぎる後悔"だった。


 だからせめて自分が今まで犯してきた数々の罪を償い、決して許しては貰えないと分かっているけど…それでも構わないから被害者1人1人に謝罪しよう…。

 そして二度と同じ過ちを犯さずに真っ当に生きていこう……と心に誓う僕なのであった───


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