第21話 遅すぎる後悔・中編

 いよいよ理事長が3人の名前を口にする。

 だがその内の2人の彼女達の名前は分かっているから、別に聞き流しても構わないだろうと僕は思っていた。

 だけど僕は聞き流すことは出来なかった。

 何故なら───


「儂の隣にいる孫の名は、瀬戸崎 俊吾。

 この城西学園高校に通う1年生だ。

 俊吾の左側にいる彼女の名前は西園寺 沙苗、その更に左側にいる彼女の名前が桜坂 詩織だ。

 沙苗嬢は西園寺財閥グループの"元"令嬢だが、現在は瀬戸崎家の一員となっておる。

 詩織嬢が桜坂財閥グループの令嬢になる。

 そして俊吾は瀬戸崎財閥グループの"現会長"であり、瀬戸崎家当主でもある。

 その俊吾達に貴様は……貴様はあの斯様な態度と発言をしたのだ!!!」


 ───と言ったのだから。

 だから僕は思わず「……は? えっ!?」と、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 だけどそれを気にもとめない様子の理事長が続けて言う……いや、僕に聞いてくる。


「この意味がどういうことか、貴様には理解出来るか?」


 理事長の言ってる意味を理解出来なかった僕は聞き返していた。


「……どういう意味ですか?」


 そう聞き返すと、理事長はこう言った。


「まだ理解出来ぬか。

 まぁ、貴様如きの頭では理解出来ぬであろうな。

 ならば、貴様の頭でも理解出来るように言うとしようではないか。

 貴様のあの発言と態度はいわば、瀬戸崎財閥グループの現会長と桜坂財閥グループの令嬢を侮辱し、舐めたということじゃ」


 いや、僕は沙苗のこと以外は名前しか知らないし……。

 なので…舐めてる、と言われても何の事か全く分からなかった。

 だから僕はこう言った。


「……今、初めて聞かされたことなのですよ?

 知らなかったから、あの発言と態度を彼らにしてしまったのです。

 知っていたら──」


 知っていたとしても僕の態度は変わらないし変えるつもりは微塵みじんもないけどな!

 ……何て思いながら最後に言った僕の言葉の先を引き継ぐように理事長は言う。


「──知っていたら、あの斯様な発言と態度を俊吾には取らなかったと?

 そう貴様は言うつもりか?

 なのであれば、竜ヶ崎財閥グループの御曹司を名乗る資格は、貴様にはない!!」


 そこまで言われる筋合いはない、とばかりに僕は理事長に聞く。


「……? どうして、そこまで言い切れるのです?」


 僕のこの発言を聞いた理事長は、呆れた表情をしながら言う。


「……貴様は一体、何を学んできたのだ?

 何をもってして、そのような発言をすることが出来るのだ?

 本当に貴様は、あの竜ヶ崎財閥グループの御曹司か?

 儂には理解出来ぬよ。

 貴様のその頭の悪さには、な」


 この理事長の言葉に対し、僕はキレた口調で言う。

 ……僕を舐めるのも大概にしろよ老いぼれ爺さん!という意志を込めて。


「なっ!?僕を侮辱してるのですか?

 この、竜ヶ崎財閥グループの御曹司である僕を!!」


 この僕の言葉に対し、老いぼれ爺さんは淡々とした口調で言う。


「侮辱ではない……儂は事実のみを言ったまでのこと」


 こんのっ……何処までも僕を舐め腐りやがって!!

 ……そう腸が煮えくり返ってしまっていた僕は、老いぼれ爺さんを挑発するかのように言う。


「そうですか……。

 僕に喧嘩を売るとは、いい度胸をしてる爺さんですね」


 そう理事長に僕は喧嘩口調で言ってやった。

 僕の言ったことがキッカケになったのか、表情を変えた理事長は彼に小さな声でこう聞くのだった。


「……なぁ、俊吾よ。

 儂は今、此奴に喧嘩を売られたのか?」


 それに対して僕は思ったよ……爺さんに僕は喧嘩を売っているんだよ、と。

 そう僕が思う中、理事長からの問に対して彼も小声で答える。


「……お爺様の仰る通りかと」


 小声でコソコソと話しているようだが、全部聞こえていますよ?

 そう言う意味を込めながら僕は爺さんと彼に聞く。


「何をコソコソと言ってるのですか?」


 だけどこの問に答えたのは爺さんと彼ではなく……成り行きを黙って見ていた筈の沙苗と詩織だった。

 ……それも呆れ口調で。


「貴方はもう終わりね。

 竜ヶ崎財閥グループの未来も……ね」

「貴方は喧嘩を売る相手を間違えてしまったようですね。

 まぁ、今から謝った所で…既に手遅れですが」


 …は? 沙苗と詩織は何を言っているんだ?

 どうしてそんな呆れた表情で僕を見てくるんだ?

 彼女らが言った言葉の意味を理解出来ずにいた僕は2人に聞く。


「……?貴女達が言っている意味が分からないが?」


 この問いを聞いた沙苗と詩織は更に呆れた表情をしながら僕に言う。


「……はぁ、そこまで頭が悪いとは思わなかったわ」

「まともにお相手するのが馬鹿らしくなってきました…」


 沙苗と詩織がそう答えた為、僕は声を荒らげて言う。


「貴様ら!!その発言はどういう意味だ!?」


 すると沙苗と詩織はすぐに答える。


「はい?どういう意味だ!?と言われてもねぇ。

 言葉通りの意味だけれど?としか言いようがないわね」

「はい、私もそう思います」


 言葉通りの意味、だと?

 この女共が言ってることの意味を……僕はまるで理解することが出来なかった。

 そして何でそんな哀れんだ目で僕を見ているのか、についても。

 だけど僕は思い知ることになる……沙苗と詩織が哀れみの目で僕を見ていた本当の意味を、ね───


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