第19話 お爺様がブチ切れました・後編

 繁信は、自分の孫である俊吾を"貧乏人"と罵った颯澄に対して怒り狂っていた。

 それだけでなく、沙苗や詩織を自分の欲求を満たすために狙ったことに対してもである。

 だが、俊吾達に対して謝るのならば、まだ許してやろうとも思っていた。

 しかし実際には、颯澄は繁信や瀬戸崎財閥グループ・桜坂財閥グループを敵に回してもいとわない発言をしてしまった。

 自分が、竜ヶ崎財閥グループの御曹司である事を鼻にかけたような発言や態度を、繁信の前で取ってしまった。

 それらによって怒りの頂点に達してしまった繁信は、颯澄を睨みつけながら言う。


「……儂や瀬戸崎財閥グループ・桜坂財閥グループを舐めるのも大概にしろよ小童がぁぁぁぁ!!」


 それを聞いた俊吾は、「あちゃ~」というような表情をした。

 沙苗や詩織も同様である。

 だが、未だに何も理解してない颯澄が口を開く。


「貴方と瀬戸崎財閥グループ・桜坂財閥グループを舐めることの何処に問題があるのですか?

 父上が持つ権力を使えば、瀬戸崎財閥グループや桜坂財閥グループなど簡単に"潰す"ことが出来るんですから。

 だから何の問題もないんですよ」


「はぁ、本当に貴様は何も分かっておらんようじゃな?

 竜ヶ崎財閥グループが持つ権力では、儂個人だけでなく瀬戸崎財閥グループと桜坂財閥グループすら潰すことなど出来ない……ということを、な」


「……竜ヶ崎財閥グループを甘く見てるのですか?」


「甘く見てるのは貴様の方じゃよ。

 それに貴様は、ことの重大さに未だに気付いておらぬ。

 貴様の目の前にいるのは誰だと思ってるのだ?」


「老いぼれた爺さんでしょ?

 僕の目の前にいるのは、ね」


 何処までも、繁信を舐め腐る態度と発言を繰り返す颯澄。

 それを黙って聞いている俊吾や沙苗、詩織の表情の変化にすら気付かない颯澄。

 どうやら颯澄は、先程まで見せていた表情や怯えた態度は偽っていたらしい。

 そんな颯澄に対し、繁信が再び言った。


「儂が名乗った際、貴様は何を聞いていたのだ?

 その耳は飾りか?

 儂は、こう言ったはずだぞ?

 日本最大規模の財閥グループである瀬戸崎財閥グループ現副会長である、とな」


「だとしたら何なんですか?

 爺さんが何を言いたいのか、僕には全く理解出来ません」


 その言葉が決めてとなった。

 態度を改め、謝っていれば、まだ颯澄の未来は変わっていたかもしれないというのに……。

 その未来を、自分の奢りによって手放してしまった颯澄に対し、繁信……いや、瀬戸崎財閥グループがとどめを刺す。


「そうか…全く理解出来ない、か。

 現時点を持って、竜ヶ崎財閥グループと行っていた全ての取り引きを終了。

 竜ヶ崎 颯澄、貴様を城西学園高校理事長権限で強制退学処分とする。

 これらの決定は、決して覆ることはないと捉えよ」


「なっ!? 竜ヶ崎財閥との取り引き終了!?

 更に僕を強制退学処分にするだって!?」


「そうじゃ。それだけのことをしたのだよ貴様は、な」


 お爺様のこの言葉に続くように僕は颯澄に質問する。


「先輩は竜ヶ崎財閥グループで働く人達のことを考えたことがありますか?」


「は?いきなり何を言っているんだ? 今まで、そんな事を考えたことなんてないな」


「そう…ですか。 なら、先輩のせいで竜ヶ崎財閥グループで働く全ての人達が職を失うことになりますね。

 貴方のその自分本意な発言を言ったことによる代償でね」


「は?何故、僕のせいになるんだ?」


「……先程、お爺様は竜ヶ崎財閥グループとの取り引きを全て終了すると宣言しました。

 つまり、竜ヶ崎財閥グループにとって、瀬戸崎財閥グループとの取引率は、全体の60%を占めているはずです。

 それを全て停止されたらどうなるか……後はお分かりですよね?

 僕やお爺様が言いたかったことが、ね」


「……ま、まさか!?」


 どうやら、先輩は僕が言った意味にようやく気がついてくれたらしい。

 僕やお爺様が言いたかったことに。

 まぁ、ほんとに気づいたのかは疑問だが。

 その颯澄にお爺様が言った。


「ここにきて貴様はようやくことの重大さに気付いたようじゃな?

 じゃが、儂は貴様に言いたいことがまだ残っておる」


「な、なんでしょう……か?」


「それはじゃな───貴様が、この学園に通う一部の女子生徒達に犯罪行為をしていた件についてじゃな」


「……っ!?な、なんの事だか僕には分かりませんね」


 颯澄の額に、ダラダラと汗が流れる。


「そうか……あくまでも否定する、か。

 ならば、この写真に写ってることに関してはどう説明するというのだ?」


 そう言ったお爺様は、執務机に置かれてい封筒を開け、中から何枚かの写真を取り出してから机の上に広げる。


「……なっ!?そんな……その写真は……!?」


 机の上に広げられた写真を見た途端、颯澄は青ざめた顔をする。


 そう───その複数枚の写真には、颯澄が女子生徒達を襲っている場面がしっかりと写されていたのだったのだから………。



◇◆◇◆◇



 繁信が執務机の上に広げた複数枚の写真には、颯澄が女子生徒達を襲ってる場面が写っていた。

 その写真を見た颯澄は顔を青ざめさせていた。

 無論、この写真を見た沙苗と詩織は軽蔑する目で颯澄を見たのは言うまでもないことである。


「先輩……この写真についての説明をお願い出来ますか?」


「何故……この写真が……。

 僕は何も知らない!!こんな写真は捏造だ!!」


「ほぅ…貴様は、この写真が捏造されたものだと言うのだな?」


「そうだと言っているだろう!!」


「なるほど……。

 ですが先輩、この写真に写っている女子生徒達からの証言は既に取れてるんですけどね。

 女子生徒達は間違いなく先輩に襲われたと言っていますが?

 それに、証言内容はボイスレコーダーにも記録してありますよ?」


「なっ……!?」


「この場で再生しましょうか?」


 そう言って僕は、懐から出したボイスレコーダーの再生ボタンを押して、テーブルの上に置く。

 僕とお爺様は颯澄がこの城西学園でよからぬ事をしているのでは?と疑い、調べていた。

 だから僕とお爺様は、颯澄が女子生徒を襲っていた事実を知っていたのである。


『バスケで使った道具を体育館倉庫に戻してる所へ、颯澄先輩がやってきて……無理やりマットに押し倒されて胸を揉まれました。

 下半身も触られそうになりましたが、他生徒の声が聞こえた途端に颯澄先輩は慌てて逃げていきました。

 私は恐怖のあまり、声も出すことも出来ずに震えてることしか出来ませんでした。

 もう、あんな思いをしたくありません。

 ハッキリ言って、男性を見るだけでも震えてしまいます。

 今でもあの日の恐怖が忘れられず、夜も眠れない毎日を送っています。

 私は胸を揉まれただけで済みましたが、私の友達は……友達は!……うぅ……』


『思い出したくもないことを聞いて、申し訳なかった。

 理事長として、竜ヶ崎 颯澄には厳正な処分を下すことを約束する。

 それと、他の被害にあった女子生徒達は、被害届を警察に提出することにしてもらっておる。そなたはどうする?』


『私は、彼奴が許せません!!

 なので、私も被害届を警察に提出します!!』


『相分かった。被害にあった女子生徒達には既に言ったが、今回の件についての責任を取り、儂は理事長の座を降りると決めた。

 被害を未然に防ぐことが出来なかった儂が理事長を続ける資格などないからだ。

 今回の件、心の底から謝罪する。

 本当に申し訳なかった!』


『り、理事長!? あ、頭を上げてください!!

 私は、彼奴に重い処分を下して下さるだけで十分ですから!?』


『そう言ってもらえるだけでもありがたい。

 だが、それでも儂は理事長を辞任することとする。

 被害を未然に防ぐことが出来なかったのでな。

 儂が責任をとって理事長を辞任した所で、被害にあったそなたや他女子生徒達が負った心の傷が癒えるとは思ってもいない。

 せめての罪滅ぼしとして、被害女子生徒全員にカウンセラーを手配する故、少しずつ心の傷を癒していって欲しい』


『理事長………。ご配慮、ありがとうございます』


 他にもボイスレコーダーには証言等が記録されていたが、僕は停止ボタンを押して、ボイスレコーダーを懐にしまってから颯澄に話し掛ける。


「これでもまだ、シラを切りますか?」


「………………………」


「貴様ぁぁぁぁ!!なんで黙っておる!!」


「ああ、そうだよ!!女子生徒達を襲ったのは僕だよ!!認めてやるよ!!」


「貴様、その物の言い方はなんだ?

 貴様は何をしたのか分かってるのかぁぁぁぁ!!

 貴様は学園の風紀を乱しただけでなく、女子生徒達の心に深い傷を負わせ、男に対しての恐怖心を植え付けたのだぞ!?」


「それがなんだと言うのですか?

 女なんて所詮、男の性欲を満たすだけの道具でしょ?

 何が被害届だよ…巫山戯やがって!

 大体な……「バチンッ!!」………は?」


 今まで黙って話を聞いていた沙苗が、颯澄の方へ歩いていき、颯澄の頬を思いっきり平手打ちしてから、口を開く。


「さっきから黙って聞いていれば、なんなのアンタは!?

 女性は男の性欲を満たすだけの道具?

 巫山戯たこと言ってんじゃないわよ!!

 アンタみたいなクズがいるから、泣き寝入りするしかない女性達が世の中から居なくならないよ!!

 私達だって生きてるの!!

 私達にも人権はあるのよ!!

 決して私達女性は男の性欲を満たすだけの道具なんかじゃない!!

 好きでもない男に理由もなく抱かれたい女なんて、この世にはいないのよ!!

 アンタは最低な男よ!!

 今回、アンタに襲われた女子生徒達の気持ちを思うと、私はアンタを一生許すことなんて出来ないわ!!

 せいぜい、刑務所の中で自分が犯した罪を深く反省することね!!」


 沙苗のこの発言に続くように詩織も口を開く。


「沙苗さんの言う通り、私も貴方を一生許さないです。

 被害に遭われた方々を思うと、尚更です。

 それとお父様に言って、桜坂財閥グループも竜ヶ崎財閥グループとの取引を全て停止してもらうよう、進言させていただきます。


 二度と私の前にその姿を表さないで下さい」


「……………………」


 沙苗と詩織の言葉に対して、颯澄はもう何も言わない。

 いや、もう言う言葉すら見つけられないのかもしれない。

 そして、その様子を見ていた僕とお爺様はトドメをさす言葉を言う。


「最早、貴様に言うことは何もない」


「僕からはこれだけ言っておく。

 沙苗や詩織の言う通り、女性にだって生きる権利はあるし、男の性欲を満たすだけの道具なんかでもない。

 だから颯澄、自分の犯した罪を刑務所でしっかりと反省することだね。

 それと、襲った女子生徒達に謝ることだね。

 決して、許してはもらえないだろうけど……」


 僕が言い終えた時、数台の警察車両が正門前に停まったのが、理事長室の窓から見えた。

 どうやらお爺様は事前に通報していたみたいだった。

 それから直ぐに、複数人の警察官が理事長室内に入ってきて、その内の1人である兄貴が颯澄に声を掛ける。


「警視庁捜査一課所属で警視正の瀬戸崎 俊介という。

 君が竜ヶ崎 颯澄君で間違いないかな?」


「…………はい」


「そうか。 現在時刻12時13分、暴行罪並びに強制性交罪の罪により、竜ヶ崎 颯澄君……君を逮捕する」


 そう言った兄貴は、颯澄の両手に手錠をかける。

 手錠をかけられた颯澄は、ここにきてようやく自分が取り返しのつかないことをしたんだ……というような表情をしていた。


「……彼を連れて行きなさい」


「「はっ!!」」


 颯澄が警官に連れてかれる様子を、僕とお爺様と沙苗と詩織は冷めた目で見ていた。

 そして、兄貴が僕に話し掛けてきた。


「やぁ、数時間振りだね」


 そう言いながら兄貴は僕を哀れんだ目で見ていた。

 毎回毎回、トラブルに巻き込まれてしまう可哀想な弟だな…と言っているかのように───





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