第18話 お爺様がブチ切れました・前編
電車に揺られること15分、俊吾と沙苗と詩織は何事もなく?城西駅に着く。
1番ホームで電車が停車してから降りた俊吾達は階段を登り、登った先にある改札口を通ってから1階に降りた後、城西駅から出る。
それから城西学園に向かって歩く中、俊吾達は愚痴?を言い合っていた。
「電車の中では、針のむしろ状態だったなぁ。
主に僕に突き刺さる嫉妬や妬みの視線が痛かった…」
「まぁ、私と詩織さんが両サイドから俊吾の腕に抱きついていたからね(※現在もである)」
「きっとそのせいですね」
「別に僕は、沙苗や詩織とは付き合ってるわけじゃないのにな」
「ですよね。 (でもいつかは俊君と…)」
「ええ…。 (私もいつかは俊吾と…)」
あー……どうも僕が"付き合っていない"と言う言葉に2人の地雷を踏んでしまったようだ。
明らかに2人の雰囲気が変化したから。
だから僕はこれ以上、2人の地雷を踏むのを避けるべく、話題を変えることにした。
「そ、そういえば沙苗と詩織って、テスト勉強はしてる?
来週から中間考査が始まるし」
(……あからさますぎたかな?)
あからさまな話題の変更に、沙苗と詩織はジト目で僕を見ながら答える。
「……そういえばありましたね、中間考査。
予習・復習はしてるので、私は問題ないですね」
(俊君……話題変更が下手過ぎますよ?
私が抱いている気持ちに気付いているでしょうに…)
「……私も特に問題ないわ。
詩織さんと同じく、予習・復習はしっかりしているしね!」
(私や詩織さんの気持ちに気付いているからこそ、あからさまに話題変更をしたのね…。
私の気持ちに気付いているくせに…)
「ん?何か言った?
声が小さくて聞こえなかったからさ」
(……2人が僕に抱いている気持ちに気付いていることを誤魔化すことは、無理なようだね)
「いえ、なんでもありません」
「何も言ってないわ」
「…そっか」
というような会話を沙苗や詩織としながら歩いていると、いつの間にか城西学園の正門前に辿り着いていたようだ。
だが正門前には風紀委員達が横一列に並んで立っており、登校してきた生徒達の服装を厳しくチェックしている。
僕と沙苗と詩織は、他の生徒達を見習って風紀委員達に挨拶の言葉を掛け、その傍を通ろうとした。その際も、沙苗は左腕・詩織は右腕に抱き着いたままでだが。
それがいけなかったのか、上級生と見て取れる風紀委員の男子に僕達は呼び止められる。
「そこの君達、ちょっと待ってもらってもいいかな?」
「はい? なんですか先輩?」
僕達を呼び止めた上級生の風紀委員の男子に対して、沙苗は"不機嫌さを隠す気はない"ということを示すような低い声で言った。
「君達、不純異性交友はダメだよ?
学園の校則でも定められてるんだから、ね」
これに対して今度は詩織が問いかける……沙苗と同じく不機嫌さを隠す気もない低い声で。
「先輩、私達のどこら辺が不純異性交友なんでしょうか?」
「君達がそっちの"貧乏人"の彼に抱き着いていることを指摘したつもりなんだけどね、僕は。
そして、僕が指摘している今でも腕を解こうとしないしね」
「先輩…不純異性交友というのがどういう意味か分かっていて言っているんですか?
それと…誰のことが貧乏人だと?」
「意味を知っていて言っているんだが?
そして、誰が貧乏人かって?
そっちの彼の事を言っているんだがね」
「そうですか……では先輩は貧乏人ではない、ということでしょうか?」
「それは勿論だよ。
僕は、
それで君の名前は?」
「あの竜ヶ崎財閥グループの……そうですか。
私の名前を知る必要はないと思いますが?」
「先輩である僕が名乗ったのに、君達は名乗る気が一切ないと?
礼儀知らずにも程があるんじゃないのかな?
はぁ……君達2人には風紀委員会室まで来てもらう必要がありそうだ」
「なんで私達2人だけ行かなければならないのでしょうか?
行くのなら、彼も一緒に行くのが普通なのではありませんか?」
「彼は邪魔だから連れていかない。
でないと、君達に"色々と尋問"することが出来ないじゃないか」
「…っ!? 呼び止めたのも、最初から私達2人を狙ってたのですね?」
「そういうことさ。
分かったのなら、僕と一緒に来てもらうよ?」
そう言って風紀委員の男子上級生が沙苗と詩織の手を掴もうとする寸前に僕は男子の腕を掴む。
「……僕の邪魔をしないでくれないかな?」
「そういうわけにもいきませんよ、先輩……いや、竜ヶ崎 颯澄さん」
「なんで、先輩呼びから僕のフルネーム呼びに?」
「貴方の行動は、風紀委員から逸脱しています。
……それに怒らせてはいけない人を怒らせてしまった」
「……は? 君は一体、何を言っている?」
「……!? このタイミングで"あの御方"がご出勤されるとは……私達には運が見方してくれたようですね」
「さっきから君達は一体、何を言っているんだ!!」
その時、1人の初老の男性が正門前で停車したロールスロイスから降りた後、僕達の方へ歩いて近付いてくる。
僕達の様子を遠巻きに見ていた他の生徒達もその初老の男性の存在に気付き、ヒソヒソ声で話してるのが、僕の耳に聞こえてきた。
そして、初老の男性が僕の隣までやってくると、口を開く。
「今朝方振りだな、儂の自慢の孫よ」
「はい、お爺様。
今日はこの時間帯での出勤だったのですね」
「うむ、その通りだ」
「な、な、なんで此処に理事長が!?」
突然、城西学園理事長のお爺様がこの場に現れたことに驚く颯澄だったが、気を取り直して聞く。
「どうして、理事長が正門前にいるのですか?」
「丁度出勤時間だったからだが?
そして儂の孫がいたので一声掛けてから理事長に向かおうと思ったからだ」
「へ? 儂の孫? 誰が?」
「貴様の目は節穴か? 孫なら儂の隣におるではないか」
「この貧乏人が理事長の孫だと!?」
「貴様ァァァァァァァ!!
儂の孫が貧乏人とはどういうことだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ヒィィィィッ!?」
「お爺様、ここは抑えて下さい。
周りの生徒達も、お爺様の声と殺気に怯えてしまっていますので」
「むっ! それはすまないことをしたのぅ。
それはそうと……儂のことをこのボンクラに言った方が良いのではないか?」
「はぁ、自分で紹介出来るでしょうに……全く」
そう言って僕は竜ヶ崎の方を見てからお爺様を紹介する。
「私立城西学園高校理事長にして、僕のお爺様でもある──瀬戸崎 繁信だよ」
この自己紹介を聞いていた竜ヶ崎の表情は、先程まで僕のことを貧乏人と罵っていた奴とは思えない位に怯えた表情をしていた。
◇◆◇◆◇
正門前での騒動から少しして、僕達は理事長室に移動した。
あの場では、ゆっくりと話もすることが出来ないからである。
それと、恫喝に怯えてしまった学園生達に配慮したお爺様が理事長権限を使って、今日のみではあるが、学食内の全ての料理を無料で提供することを宣言した…竜ヶ崎1人を除いてだが。
「さっきも孫から紹介されたが、改めて名乗ろうかのぅ。
私立城西学園高校現理事長にして"瀬戸崎財閥グループ副会長"の瀬戸崎 繁信だ」
「…っ!?」
改めてお爺様が肩書きを名乗った途端、颯澄の顔が真っ青になる。
「それで、だ。
貴様の儂の孫に対してのあの態度と発言はなんじゃ?」
そうお爺様は青ざめた顔をしている颯澄に目を向けてから問い掛ける。
「い、いえ、あの、その………」
「声が小さい!!ハッキリと物を言わんかい!!」
「ヒィィィィッ!?」
「儂の孫とは知らなかったのか?
まぁ、貴様如きが知らずとも無理はないか。
この学園に通う生徒だけでなく一般人ですら、儂に孫がいることも伏せているからのぅ」
まぁ、颯澄が知らなくて当たり前だ。
僕とお爺様の関係を一切公表していないんだから。
知ってるのは、瀬戸崎家の使用人達と瀬戸崎財閥グループの重鎮のみ。
「だがそれでもだ…知っていても知らなくても、貴様のあの発言と行動はあってはならん!!
ましてや、儂の孫を貧乏人と呼ぶなどなぁ!!」
「ヒィィィィッ!?」
これでは話にもならないと思い、僕が割り込む。
「お爺様、これでは話にもなりません。颯澄先輩は僕の名前と彼女達2人の名前すら知らないのですから。
そして、僕の正体もね。
颯澄先輩が今知ったことといえば、僕がお爺様の孫であることとお爺様が瀬戸崎財閥グループの現副会長であることだけです」
「あの顔を見ると、どうもそのようじゃのう。
そこの小童……儂の孫の名前と彼女らの名前を知りたいか?」
「い、いや……」
「……言ってもいいか?」
「お爺様のお好きなように」
「繁信様にお任せ致します」
「はい、大丈夫です」
「相分かった。
儂の隣にいる孫の名は、瀬戸崎 俊吾。
この城西学園高校に通う1年生だ。
俊吾の左側にいる彼女の名前は西園寺 沙苗、その更に左側にいる彼女の名前が桜坂 詩織だ。
沙苗嬢は西園寺財閥グループの"元"令嬢だが、現在は瀬戸崎家の一員となっておる。
詩織嬢が桜坂財閥グループの令嬢になる。
そして俊吾は瀬戸崎財閥グループの"現会長であり、瀬戸崎家当主でもある。
その俊吾達に貴様は……貴様はあの斯様な態度と発言をしたのだ!!!」
「……は? えっ!?」
「この意味がどういうことか、貴様には理解出来るか?」
「……どういう意味ですか?」
「まだ理解出来ぬか。
まぁ、貴様如きの頭では理解出来ぬであろうな。
ならば、貴様の頭でも理解出来るように言うとしようではないか。
貴様のあの発言と態度はいわば、瀬戸崎財閥グループの現会長と桜坂財閥グループの令嬢を侮辱し、舐めたということじゃ」
「……今、初めて聞かされたことなのですよ?
知らなかったから、あの発言と態度を彼らにしてしまったのです。
知っていたら──」
「──知っていたら、あの斯様な発言と態度を俊吾には取らなかったと?
そう貴様は言うつもりか?
なのであれば、竜ヶ崎財閥グループの御曹司を名乗る資格は、貴様にはない!!」
「……? どうして、そこまで言い切れるのです?」
「……貴様は一体、何を学んできたのだ?
何をもってして、そのような発言をすることが出来るのだ?
本当に貴様は、あの竜ヶ崎財閥グループの御曹司か?
儂には理解出来ぬよ。
貴様のその頭の悪さには、な」
「なっ!?僕を侮辱してるのですか?
この、竜ヶ崎財閥グループの御曹司である僕を!!」
「侮辱ではない……儂は事実のみを言ったまでのこと」
「そうですか……。
僕に喧嘩を売るとは、いい度胸をしてる爺さんですね」
「……なぁ、俊吾よ。
儂は今、此奴に喧嘩を売られたのか?」
「……お爺様の仰る通りかと」
(ヤバい!?お爺様が完全にブチ切れてる!?
どうなっても、僕は知~らな~いっと)
え、俊吾はそれで良いの?と、俊吾の呟きを傍で聞いていた沙苗と詩織は呆れるも、何も言わずに成り行きを静かに見守ることにする。
「何をコソコソと言ってるのですか?」
その颯澄の言葉に対し、成り行きを黙って見ようとしていた沙苗と詩織が呆れ気味に返答する。
「貴方はもう終わりね。
竜ヶ崎財閥グループの未来も……ね」
「貴方は喧嘩を売る相手を間違えてしまったようですね。
まぁ、今から謝った所で…既に手遅れですが」
「……?貴女達が言っている意味が分からないが?」
「……はぁ、そこまで頭が悪いとは思わなかったわ」
「まともにお相手するのが馬鹿らしくなってきました…」
「貴様ら!!その発言はどういう意味だ!?」
「はい?どういう意味だ!?と言われてもねぇ。
言葉通りの意味だけれど?としか言いようがないわね」
「はい、私もそう思います」
沙苗と詩織は颯澄のことを哀れんだ目で見ながら、そう返答した。
沙苗と詩織は既に理解していたからだ。
たとえどんな理由があろうとも……瀬戸崎財閥グループを敵に回してはならない、敵に回してはいけないということを!!
彼女達は知っていた…瀬戸崎財閥グループを敵に回して、現在進行形で潰される運命にある家と財閥の名を。
それが、他ならぬ沙苗のかつての実家であった西園寺家と西園寺財閥グループなのだという事を!
だが、再び瀬戸崎財閥グループを敵に回した者がいた。
その名は、竜ヶ崎 颯澄。
城西学園高校2年生で風紀委員会に所属している。
また、竜ヶ崎財閥グループの御曹司でもある。
そしてまさに今、竜ヶ崎 颯澄に制裁が下されようとしていた。
俊吾のお爺様であり瀬戸崎財閥グループ現副会長、瀬戸崎 繁信の手によって───
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